名門校の土グラウンドが一変…総額7000万円、待望の人工芝完成で願う「再び全国に」【インタビュー】

念願の人工芝グラウンド完成までの物語とは?【写真:一般社団法人UNSS】
念願の人工芝グラウンド完成までの物語とは?【写真:一般社団法人UNSS】

浦和西高グラウンド人工芝化へ…OB奮闘実りついに完成

 いかに資金を調達できるか。人工芝化の最大のカギは、ここにあった。一般社団法人UNSS(浦和西高スポーツサポーターズクラブ)では“簡単、安全、確実”をキャッチフレーズに、スマホやパソコンでできる寄付管理システムを導入した。寄付の目標額が5500万円から7000万円に変更されるなど、さまざまな困難を乗り越え、7月1日、ついに工事開始。そして9月20日、念願の人工芝グラウンドが完成した。(取材・文=小室 功/全5回の5回目)

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 2022年11月から本格的に始めた寄付活動だったが、約2500万円に達したところで、少し停滞してしまった。追い風になったのは、“企業サポーター”と位置づけた企業からの多額の協賛金だった。

「人工芝化の必要性」を訴えていた浦和西高サッカー部の市原雄心・元OB監督(現在は南稜高)の同期である森大悟理事をリーダーとするUNSSの広報・事業企画のメンバーたちが、“企業サポーター”の構想から提案書作成までを練った。どのようにして“企業サポーター”になっていただくか。定例会(リモート会議中心)のなかで、何度も話し合った。

「サッカー部のOBや女子サッカー部のOG、卒業生に呼びかけるだけでは、目標金額を達成するのは正直、難しいと感じていたので、企業サポーターの存在は大きな弾みになりました」

 UNSSの関係者はみな、こういって謝意を伝える。

 なかでも不動産事業を展開する武蔵コーポレーション(株)とIT関連企業のオリゾンシステムズ(株)からは、大口の協賛金を提供していただいたという。

 前者の代表取締役である大谷義武氏は浦和西高卒業生で、東京大学を経て、大手不動産会社に入社。2005年に一念発起、武蔵コーポレーションを立ち上げた。また、後者の代表取締役である菅健一氏は浦和西高サッカー部OBで、システムエンジニアとしてオリゾンシステムズ(株)に別の会社から転職。国内だけではなく、中国・上海での実績も重ね、2017年に同社代表取締役に就任した。

 前述の2社以外に撮影スタジオや学習塾、建設業、電気通信工業会社、スポーツ用品メーカーなど、多種多様な企業から協賛金を提供してもらったことで、2023年12月に寄付額が目標の5500万円に達した。浦和西高サッカー部のOBやOG、西麗会(同窓会組織)の会員をはじめ、企業サポーターの後押しを受け、念願の人工芝化が現実味を帯びてくる。

 実は、人工芝グラウンドの施工業者である長谷川体育施設(株)と積水樹脂(株)も“企業サポーター”として名を連ねている。「両社には工費の値引きしてもらいましたし、そのうえ寄付をいただいてしまって、ちょっと図々しいかなと(苦笑)。そんなふうに思いますが、本当にありがたかったです」と、UNSSの事務局長である配嶋幹雄理事は感謝の意を表す。

寄付の目標額にまさかの問題浮上…5500万円から7000万円に修正

 そんな折り、新たな問題が浮上した。寄付の目標額を当初の5500万円から7000万円に修正しなければいけなくなったのだ。昨今の物価高騰に伴い、工費がかさみ、また、公式戦を開催できるだけの環境を整えるために人工芝を拡張することになったからだ。

「寄付の目標額の変更は、事業計画の内容にかかわるため、2024年1月のUNSS社員総会で決議しました。学校や西麗会など、このプロジェクトに協力していただいている皆さんに変更の理由について書面などを用いて、手順を踏んで丁寧に説明しました。寄付金の集め方や使い方など、金銭面は常にオープンにしておくのが一般社団法人としても非常に重要だと考えていますから」(配嶋理事)

 目標額が上方修正されたが、寄付を募り始めてから約19か月目の2024年5月、無事に7000万円をクリアする。UNSSの今井敏明代表理事は「募集期間は2年と、目星をつけていましたが、想定を上回るスピードで目標を達成できました。UNSSとしては、嬉しい誤算でした」と、晴れやかな表情を浮かべる。

 2024年6月、施工業者である長谷川体育施設(株)と積水樹脂(株)の2社と正式に契約を結び、7月1日、いよいよ工事が始まった。その進捗状況はUNSSのホームページに詳しいが、土のグラウンド一面に砕石が敷かれ、地盤が整い、徐々に人工芝が設置されていくようすが伝えられている。この間、サッカー部は練習環境の確保に苦労したものの、人工芝グラウンドの完成をさぞ心待ちにしていたことだろう。

 着工からおよそ3か月、9月20日に無事竣工。28日にはプレ落成式を行い、緑鮮やかに敷き詰められた人工芝グラウンドの完成を祝った。UNSSの野間薫副代表理事や「人工芝化の必要性」を訴えていた市原元監督、企業サポーターの関係者など、多数が駆けつけた。

 そして11月11日、浦和西高サッカー部に縁やゆかりのある人たちが集まり、大々的に完成披露式を行った。現役時代は日本代表選手として活躍し、指導者の道に進んでからはJJリーグの柏レイソルやガンバ大阪、日本代表監督などを歴任したOBの西野朗氏も参列。また、同氏を擁して出場した1973年度の全国高校サッカー選手権大会時の監督だった現在、88歳の仲西駿策氏が元気な姿を見せ、人工芝グラウンドの完成を喜んだ。

 かつての指導者や先輩諸氏は「素晴らしい環境の下、切磋琢磨し、再び全国にいってほしい」と、後輩たちにエールを送った。

人工芝化を実現も「まだまだやるべきことが残っています」

 UNSSの今井代表理事から浦和西高の加藤元(はじめ)校長に人工芝グラウンドの目録が手渡され、埼玉県教育局教育総務部の古垣玲部長や武蔵コーポレーションの大谷代表取締役、生徒会会長のあいさつなど、披露式は滞りなく進行した。

 感無量――。

 埼玉県の県立高校として“初”となる人工芝化を実現させるべく、奮闘したUNSSの関係者は一様に言葉を揃える。まだ道半ばだ、と。

「埼玉県の県立高校では前例のない事業を成し遂げたので、確かに達成感がありますが、どちらかというと、安堵感のほうが大きいかもしれません。人工芝化を実現させたいというより実現させなければと、自分たちにプレッシャーをかけながら取り組んできましたし、すべてが順調に進んできたわけではないですからね。ここにたどり着くまでにOB会から始まってUNSSのプロジェクトメンバーと毎週のように定例会を重ねてきました。その数はまもなく100回を超えます。でも、実はまだまだやるべきことが残っています。人工芝グラウンドの運用・維持・管理を、UNSSが担っていかなければいけません。そのために必要な資金を集めていかなければいけないですから」

 こう語る配嶋理事が、さらに言葉をつなぐ。

「未来へのレールをしっかり敷くことができたら、その時に肩の荷を下ろせるのではな
いでしょうか」

 2024年度の高校3年生が引退し、チームは新たなスタートを切っている。人工芝に生まれ変わったグラウンドで、浦和西高サッカー部の新たな歴史を作るべく、選手たちはピッチを駆けていく。

(小室 功 / Isao Komuro)



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