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名門校グラウンド整備に5500万円…資金調達へ奔走した元営業マン「オレ、暇だからさ」【インタビュー】
浦和西高グラウンド人工芝化へ…寸暇を惜しんで奔走したキーパーソン
人工芝グラウンドの施工業者をどこにするのか。総工費は、一体いくらかかるのか。資金調達の方法を、どうするのか。浦和西高サッカー部OB会は、人工芝化に向けた重要な課題の解決に取り組んだ。キーパーソンとなったのが1976年度卒業のOB、配嶋幹雄氏だ。緻密で、丁寧な資料作成から進捗状況の管理、さまざまな業者との交渉・調整など、寸暇を惜しんで奔走した。(取材・文=小室 功/全5回の3回目)
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◇ ◇ ◇
人工芝グラウンドの施工業者を選定するにあたり、浦和西高サッカー部OB会は数社によるコンペを行った。最終的に、スポーツ施設の施工会社として最大手である長谷川体育施設(株)と、グラウンドの人工芝化における高い実績を誇る積水樹脂(株)の2社に依頼することを決めた。両社は、前回の記事内で触れた一橋大学ラグビー場の人工芝グラウンドを手掛けており、全体的な工程の取りまとめと地盤の施工を長谷川体育施設(株)が請け負い、人工芝(ターフ)の設置を積水樹脂(株)が担った。
見積依頼をした施工業者が途中で降りるなど、最終選定に至るまで紆余曲折があった。そんななかで、コンペの調整役として中心的な役割を果たしたのが、OB会の配嶋幹雄氏だ。
「いや、オレ、暇だからさ」
そう苦笑するが、関係資料の作成から管理、コンペに参加する施工業者とのやり取りなど、多岐にわたり奮闘していたのはOB会の誰もが知るところだろう。
どこに依頼したらいいか。そもそも論である、この一点を検討するうえで、配嶋氏が作成した比較表は非常に分かりやすく、役立つものだったに違いない。
見積金額、耐久性(保証期間)、環境性・機能性、保守・サポート、張替費用、実績、信頼度といった評価項目に分け、各社を点数化し、備考欄に添えられたきめ細かな一言メモも貴重な判断材料になったことだろう。
「施工業者の選定はもちろん、学校や(同窓会組織の)西麗会、県に何かを説明する時、どのような経緯で決まったのか、そこを明確に答えられないといけないと考えていました。そのために透明性をよくして、最終決定に至るまでの過程をしっかり書き残しておく。そうしないと、このプロジェクトに賛同してくださる方々から信頼してもらえません。説明を求められた時、OB会で検討した結果、こうなりましたと、すぐに答えられるだけの資料を整えておくことが大事でしたし、そのために丁寧に取り組んでいこうと心がけていました」(配嶋氏)
準備の段階から始まり、物事が決まるまでの経緯や理由、根拠を示し、1つ1つ積み上げていく。まさに“事務方”として奔走したキーパーソンの経歴について、ここでざっと紹介しておこう。1976年度の卒業生である配嶋氏は、一浪のあと早稲田大学に進学。サッカー部に籍を置き、プレーを続けた。卒業後はIT関連企業に就職し、52歳で退職。かねてから関心のあった身体のしくみを学び、その後、予約制の鍼灸院を地元・浦和に開院し、今年10年目を迎えている。
「会社に勤めている頃は新規開拓の営業マンとしてプロジェクト管理をやっていたので、それぞれの案件を成功させるために、何を、どうすればいいか、体験的にイメージできていました。自分自身のそうした経験に照らしながら、人工芝化に向き合ってきたという感覚はありますね」(配嶋氏)
施工業者の選定について一応の決着を見たのは、2022年8月だった。冒頭のとおり長谷川体育施設(株)と積水樹脂(株)の2社に依頼することになった。その主な理由は見積金額が他社より抑えられていた点も大きかったが、最後の埼玉県との交渉を考え、これまでの実績や品質、アフターケアなども重視しつつ、最終的な結論に至った。
では、人工芝グラウンドの設置に、いくらかかるのか。前述の2社から事前に提示された見積金額から「5500万円」が必要であることが明確になった。工法によっては1億円を優に超えるといわれる人工芝化だけに、俄然、現実味が増す。
プロジェクト成功のカギを握る資金調達へOB会は法人化
とはいえ、資金の調達方法を、実際にどうするのか。
近年、注目されるクラウドファンディング(インターネットを介し、不特定多数の人たちを対象に資金を調達する方法)もあるが、一県立高校の人工芝グラウンドの設置だけに、浦和西高に縁もゆかりもない方々がこぞって寄付してくれるとは考えにくい。
ここはやはり創部70年を超えるサッカー部のOBおよび女子サッカー部のOG、卒業生に寄付を募るのが最善であろうと判断し、その準備に取り掛かった。
人工芝化における資金の調達は、プロジェクト成功のカギを握る。なんとしてでも5500万円を集めよう。いや、集めなければいけない。大きな難題を前に、OB会は結束力を高め、気持ちを引き締めた。
そんななか、OB会の今井敏明会長から次のような提案があった。
「それなりに大きなお金を集めるわけだから、社会的な信用を得るためにもOB会という任意の団体ではなく、法人格にしたほうがいいのではないか」
寄付の募り方や受取先、管理の方法など、対外的にもそのほうが断然いいだろうということになり、OB会は法人化に向けて動き出す。ここで再び東奔西走したのが、配嶋氏だった。
「行政書士や司法書士といった専門家に頼んだほうがいいんじゃないですかという話をしたら、今井会長から“いや、自分たちでできるだろう”と。じゃ、だれが動くのかとなったら、勢いオレになる(苦笑)。まあ、時間に余裕がありましたからね」(配嶋氏)
そこで手始めに、無料で相談に乗ってくれる支援センターを訪れたのだが、法人化への道のりは、なかなかどうして手間を要するものだった。(第4回へ続く)
(小室 功 / Isao Komuro)