代表チームは“52年ぶり”歴史的勝利 「問い合わせが多い」…日本人選手が注目する新興国【インタビュー】
【海外組アウトサイダー】ワン・タギッグFC(フィリピン1部)所属・佐藤彰真
多くの日本人選手が欧州1部を中心に活躍を見せ、日本サッカーの存在感を高めている昨今。ヨーロッパ以外でも、世界には独自の道を切り拓こうとする同胞たちの姿がある。FOOTBALL ZONEでは、そんな選手たちを「海外組アウトサイダー」として注目。今回は、フィリピン1部ワン・タギッグFCの佐藤彰真を紹介する。同国で直面した困難や抱いた率直な印象とは。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治/全3回の3回目)
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DF佐藤彰真は昨年2月からフィリピンで戦っている。それまでの約1年はオーストリアでプレー。高校時代にドイツで短期留学をしたことで、ヨーロッパに強いこだわりがあった。
高校卒業後、Jクラブ下部組織や社会人リーグ、シンガポールで戦ってきた。同時に、機会を見つけてはオランダ、モンテネグロ、ラトビアでも武者修行を行っている。若いうちはとにかくヨーロッパで挑戦を――。それが佐藤にとっての信じる道だった。
実際に東南アジアへ新天地を求める直前には、オーストリア4部クラブへの移籍が決まっていた。しかし、フィリピン代表のレジェンドDF佐藤大介から彼の母国クラブへ一緒に移籍しようと誘いが。また、20代中盤に差し掛かってきたことで、現地関係者の目に留まりにくい欧州下部リーグよりも、アジアのクラブで国際大会に出られればキャリアアップはより早いと考えの変化もあった。
そうした狙いを持って降り立ったフィリピンでは、移籍直後に複数試合で優秀選手賞を受賞するなど躍動。移籍専門サイトで表示される自身の市場価値もゼロの状況から、フィリピン移籍後は15万ユーロ(約2450万円)へと一気にアップした。
とはいえ、言語も文化も大きく違うアジアの新天地。現地選手の国民性に面食らった移籍直後をこう振り返る。
「大変だったのは、“フィリピンタイム”です。フィリピン人って集合時間が11時でも11時半とかそれよりも遅い時間に集まって来ますからね。しかも、遅刻したことに対して謝る素振りなんて見せない」
規律を守れずクビを切られたら、その程度の選手だったということ。自分はピッチで圧倒的なプレーを見せることに集中するだけ。佐藤は1人のプロとして突き放したスタンスを維持する。
「周囲に感情移入しすぎて不満を抱えてしまう日本人選手を何人も見てきました。『俺がどうにかしなきゃ』と考える選手ってめちゃくちゃいる。けれど、相手を変えるのは簡単ではありません。国民性をはじめ、さまざまなことが違う現地の選手に対してはなおさら。そこに労力を割くくらいなら、ピッチでのパフォーマンスに注ぎます」
成長を続けるフィリピンサッカーの現状
フィリピンのプロリーグは、昨年よりヨーロッパと同じ秋春のシーズン制に移行。2部も新設されるなど、国としての強化が進む。近年では、インドネシアがW杯アジア最終予選に進出するなど躍進著しい。フィリピンも同じ道を辿れるか。
「フィリピン代表はASEAN三菱電機カップ準決勝第1戦(2024年12月27日)でタイ代表に52年ぶりの勝利を挙げており、国が着実に力をつけている印象です。また、フィリピンリーグでプレーする日本人のレベルも上がっていると感じます。チームメイトの平石直人はJリーグ出場歴が110試合以上にも上る選手で、このような実績のあるプレーヤーが来ているわけですから」
そんな代表チームやリーグの成長ぶりは、選手の間でも話題のようだ。「最近ではフィリピンでのプレーを希望する日本人選手から個人的に問い合わせが来ることが多い」と佐藤。フィリピン自体も日本人選手を高く評価し、日本サッカーがロールモデルになっているという。
「現所属先の監督は元レフェリーなのですが、日本サッカーを常にチェックしていたそうです。なので、チームミーティングにはいつも日本の映像を持参して、それを参考にしています。フィリピン人は日本から学ぼうとしていて、日本に追いつけ追い越そうと今後レベルを上げてくるでしょう」
とはいえ、移籍した日本人選手に成功が約束されているわけではない。佐藤は「フィリピンは簡単じゃない」と強調。「試合出場へのハードルが高くなっているのが実情」とも指摘する。
「ピッチに立てる外国人選手の枠に5人という制限があるので、海外助っ人の間での競争は熾烈です。クラブは日本国内のカテゴリーを選手獲得における重要な要素だと思っておらず、どういうプレーができるかに重きを置いています。センターフォワードに屈強な黒人選手を使いたがる傾向もありますし、例えばFWの選手は入団できたとしても試合に出られない、もしくは本職ではないポジションで起用されるといった状況がよく起こるんです」
日本とフィリピンの間には現状、大きな実力の隔たりがある。佐藤にとってフィリピン移籍は、そうした状況下で受けられた恩恵でもあった。ただ、その差がずっと変わらないわけではないだろう。佐藤の言葉からは、次に控える新興国の躍進の足音が聞こえてくる。
[プロフィール]
佐藤彰真(さとう・しょうま)/1999年10月6日生まれ、山形県米沢市出身。米沢中央高校-ザスパ草津チャレンジャーズ-SC相模原PFC-アルビレックス新潟シンガポール-FC淡路島-VONDS市原-ファヴォリトナーAC(オーストリア3部)-FCビサンベルグ(オーストリア5部)-ダバオ・アギラスFC(フィリピン1部)-ワン・タギッグFC(フィリピン1部)。このほかにも、高校時代のドイツ短期留学を皮切りに、オランダ、モンテネグロ、ラトビアと欧州各国でプレーし経験を積んできた。186センチ・79キロの恵まれた体格を生かしたデュエル、足元の技術に裏打ちされた後方からの攻撃参加、DFラインを統率するコミュニケーション力を強みとしている。また、ピッチ外では地元米沢市の「おしょうしな観光大使」も務める。
(FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治 / Ryoji Yamauchi)