敏腕経営者となった元日本代表MF ビジネス脳を育てた“両親の教育”「努力に対してのご褒美ではない」【インタビュー】

現役引退後は経営者として手腕を発揮する大津祐樹氏【写真:Football Assist】
現役引退後は経営者として手腕を発揮する大津祐樹氏【写真:Football Assist】

大津氏が振り返る幼少期の教育「大津家のルールがあった」

 元日本代表MF大津祐樹氏は、2023年末に現役を引退。その後は、株式会社ASSISTの代表取締役社長としてビジネスの第一線に立つだけでなく、年商150億円を誇る企業の取締役を兼務。さらに2025年からは、東京都1部リーグに所属するスペリオ城北の共同オーナーとしてクラブ運営にも乗り出した。実業家として多方面で手腕を発揮する彼の歩みを支えるのは、両親の教育という揺るぎない土台だった。(取材・文=城福達也)

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 現役時代は敵陣を切り裂くドリブラーとして頭角を現し、ロンドン五輪では日本代表をベスト4に導いたエースとしてキャリアの象徴となる輝きを放った。33歳の若さでスパイクを脱いで以降は、2019年に起業した株式会社ASSISTの代表取締役社長の役職だけでなく、株式会社コミットの取締役も兼務している。ビジネスマンとしても辣腕を振るっているが、実業家としての原点はどこにあるのだろうか。

「親の教育で、人を大切にしなさいということは、幼い時からずっと言われていた。小学校の通信簿に関しても、勉強項目の評価は気にしないから、『思いやり』の欄にだけは絶対に◯のマークが付かなければいけない、という大津家のルールがあった。なので、普段から人への思いやりは意識していたし、今の自分のベースにもなっている。結局、社会ではお客さんへの思いやりがあって初めて商品やサービスが成立するので」

 大津氏は幼少期から受けた両親の教えが自身の基盤となっていると思い返しつつ、「子育てや親の教育は非常に重要であることに間違いないが、同じ教育でも、受け手の観点によって、育ちは変わる」と俯瞰した見解を述べた。

「環境は一緒でも思考が逆になることもあると考えている。享受した教育を、例えばA方向から見る人もいれば、B方向から見る人もいて、見え方が異なるから受け取り方も異なるのは、自然なこと。同じ教育を受けたから、全員がA方向に、といったことは起きない」

 実例として挙げたのは実兄の存在だ。「兄は僕と対照的ですね。同じような言葉をかけられ、同じように育てられても、僕と兄ではまったく考え方が違う」と明かし、「教育が重要であることは前提だけれど、同じ教育を施したところで、親の想定通りになることなんて、実際は多くないと思う。受け手によって、その概要は大きく異なってくる」と持論を語った。

「僕と兄で、同じ物事について話していても、捉え方が異なるので、まったく別の意見が出る。でも、どれだけ近い存在でも、考え方が異なると認識するのは非常に大事なことだと思っている。兄弟間よりも大きい枠で見ると、僕が海外でプレーしていた際、日本人はこう考えるけど、外国人はまったく違う考え方をする、というのは日常的にあった。そういった考え方の相違を再認識できて、海外で生活した経験は大きな財産になった」

両親が提示した「報酬」と「ペナルティー」

 また、当時から大津家にあった“報酬制度”を打ち明けた。

「◯◯ができたらご褒美で何か買ってあげる、という教育が良くないと世間ではなんとなく言われているじゃないですか。でも、僕はそうやって育ってきた。持久走大会で優勝したら、ゲームを買ってくれる。サッカーで得点を決めたら、お小遣いをくれる。そういった文化が大津家にはあった。ゲームのために頑張って走れたし、お小遣いのためにガムシャラにゴールを目指せた」

 ただ言う通りにやればご褒美をもらえたわけではない。「重要だったのは、努力に対してのご褒美ではないということ。達成に対してのご褒美だった」と強調し、「大人でも、いつのまにか努力そのものが目的となっているケースも全然ある。でも、達成するための手段が努力であるだけの話で、あくまで評価軸は達成したか、しなかったか。達成できなければ、失敗を糧にして、努力の方法を変えていく」と、ただ努力するだけでなく、達成するための努力へと自発的に工夫するようになったと振り返った。

 一方、「報酬の逆で、ペナルティーも存在しました」と、真面目に取り組まなかった際の“代償”もあったようだ。

「サッカースクールでだらだら歩いてプレーをしていたら、自分で月謝を払いなさいと言われ、お小遣いから払ったりもしていた。そうなると、目の色を変えて真剣に取り組むようになる。今の世の中からしたら、これも良くない教育に見えるかもしれない。でも、社会って実際そうじゃないですか。成果を出せばインセンティブをもらえるし、ろくに仕事をしなければ経営は赤字になる。やったことへの成果報酬と同じくらい、やらなかったことへの代償というのは、少なからず僕にとっては大事な教育だった」

 2025年から東京都2部リーグに所属するスペリオ城北の共同オーナーに就任し、さらに活躍の分野を拡げている。「親がどこまで計算して育てていたのかはわからない。でも、確かなのは、僕が今経営者を務めることができているのは、親のそういった教育があったから」と、両親へ感謝の言葉を贈った。

(城福達也 / Tatsuya Jofuku)



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大津祐樹

おおつ・ゆうき/1990年3月24日生まれ、茨城県出身。180センチ・73キロ。成立学園高―柏―ボルシアMG(ドイツ)―VVVフェンロ(オランダ)―柏―横浜FM―磐田。J1通算192試合13得点、J2通算60試合7得点。日本代表通算2試合0得点。フットサル仕込みのトリッキーな足技や華麗なプレーだけでなく、人間味あふれるキャラで愛されたアタッカー。2012年のロンドン五輪では初戦のスペイン戦で決勝ゴールを挙げるなど、チームのベスト4に大きく貢献した。23年シーズン限りで現役を引退し、大学生のキャリア支援・イベント開催・備品支援・社会人チームとの提携・留学などを行う株式会社「ASSIST」の代表取締役社長を務める。2024年から銀座の時計専門店株式会社コミットの取締役に就任。

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