Jリーグを観て手術決意…病院での観戦体験が患者にもたらす勇気「スタジアムで会えたらいいね」【インタビュー】

新潟県で始まった“病院ビューイング”が患者にもたらす効果とは?【提供:アルビレックス新潟】
新潟県で始まった“病院ビューイング”が患者にもたらす効果とは?【提供:アルビレックス新潟】

病院ビューイングは「少しでも治療に前向きになっていただくことを目的としています」

 スタジアムに足を運ぶことが難しい入院患者のために、病院で行うパブリックビューイング。その名も“病院ビューイング”が新潟県内で10年以上にわたり続いている。特殊環境でのJリーグ観戦がもたらす効果を、アルビレックス新潟のサポーター有志「えがお応援団」の小山厚子さんに訊いた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治/全2回の2回目)

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 2014年4月26日、新潟大学医歯学総合病院(新潟市)で第1回目が開催された病院ビューイング。コロナ禍で約5年の活動休止を余儀なくされたものの、これまで県内7つの病院にて計24回開催されてきた。

 きっかけとなったのは、小山さんが2012年から13年にかけて行っていた病気の子供をスタジアムに招待するボランティア活動。ただ、この取り組みには、患者の健康状態や病院スタッフに必要とされる労力など実現するうえでいくつかの大きな障害が。そんな悩みを仲間の男性サポーター数人に打ち明けたところ、「だったら、俺たちが病院に行こうぜ」と思いがけない提案が返ってきた。

 この一言に着想を得て、小山さんを中心としたサポーター有志が病院や地元大学の学生らと協同。全国的にも珍しい医療機関でのJリーグ観戦プロジェクトは動き出した。クラブもイベント当日にはマスコット「アルビくん」の派遣に加え、選手の等身大バナーも貸与するなど全面的にバックアップ。サポーター、病院、クラブ、三者の思いはこうして実を結んだ。

 病院ビューイングの第1回実施に構想段階から参画した、新潟県立中央病院呼吸器内科診療部長の石田卓士氏は活動の趣旨をこう語る。

「病院という場所で、入院という望まない環境の中で、多くの患者さんとメディカルスタッフが一緒にスポーツを観戦することにより、共に同じゴール(治療目標)に向かっているというイメージを持っていただき、また病院という場所は(入院生活は)、決してひとりではない、ということを感じていただき、少しでも治療に前向きになっていただくことを目的としています」

アルビレックス新潟サポーター有志「えがお応援団」の小山厚子さん【写真:本人提供】
アルビレックス新潟サポーター有志「えがお応援団」の小山厚子さん【写真:本人提供】

手術実施へ一歩を踏み出した患者の声

 では、実際に患者はこの活動をどのように受け止めているのか。病院側が行っているアンケートからいくつか感想を抜粋して紹介する。

「長期入院患者にとっては日常に新鮮な変化(刺激)となり、リフレッシュできました」
「アルビユニフォームを着て、応援している方々と一緒に観れて非日常感を味わえて良かったです」
「入院も長くなるとなかなか毎日が暗々としてしまうので、こういった企画は本当に嬉しいです」

 患者にとっては、病院ビューイングが入院中の孤独や閉塞感を和らげ、良いストレス発散の機会になっている事実を窺い知ることができる。さらに、アンケートにはこんな一言もあった。

「お陰様で退屈な入院生活にアクセントをつけることができました。これで手術に向かって行けます」

 小山さんは、こうして治療への大きな一歩を踏み出せた事実こそ病院ビューイングを続ける意義だと考える。

「患者さんは元気じゃないから病院にいるわけですよね。なので、サッカーを観戦したからといって必ずしも元気が出るとは限らない。それでも、勇気は出るんですよ。治療に取り組むための勇気です」

 サッカーの観戦をきっかけに完治を目指して治療に取り組む。その先にある理想をこう思い描いている。

「私たちの活動の目的は『退院したあとにスタジアムに行ってほしい。またそこで会えたらいいね』という未来なんです」

同じ体勢で座る患者の身体が固くならないようハーフタイムにはストレッチ運動も実施【提供:アルビレックス新潟】
同じ体勢で座る患者の身体が固くならないようハーフタイムにはストレッチ運動も実施【提供:アルビレックス新潟】

応援する楽しさを体験することがサッカー人気向上の鍵を握る?

 もちろん、患者がJリーグ観戦を楽しめるようイベント時には工夫が施されている。試合前やハーフタイムには、大学生や病院スタッフが出場選手の特徴やフォーメーション、ルールなどの解説を行う。

会場内の座席も患者と運営スタッフが交互に座る形でセッティング。こうすることで、患者にとっては試合中の気になった点や疑問点を近くのスタッフにすぐ尋ねることができる。スタッフ側にも患者の健康状態の変化に気づきやすいというメリットがある。

「説明を交えながら観戦するのも病院ビューイングならではの面白さ」と小山さん。と同時にこのような観戦体験が将来的なスタジアム訪問への門戸になると期待を口にする。

「私の場合は特にそうなのですが、サッカー以上に応援することが好きですし、楽しいと思っています。なので、サッカーに詳しくなくても応援する楽しさを体験できれば今度スタジアムに行ってみようとなるんじゃないですかね」

 病院ビューイングのアイデアは、さまざまな福祉施設にも転用できるのではないだろうか。実施に向けて乗り越えるべき課題は施設ごとにケースバイケースとはいえ、実現できれば特にサッカーライト層への良い機会提供の場となる。中継の有料放送移行による露出減少でサッカー人気の低迷がささやかれる今、周囲と感情を共有できる観戦体験を増やすことがファン拡大の鍵を握るかもしれない。

(FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治 / Ryoji Yamauchi)



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