鹿島で主力も…古巣が降格危機「厳しい状況にある」 32歳が電撃復帰を決断した理由【コラム】

柏に復帰した仲間隼斗(写真は鹿島在籍時)【写真:徳原隆元】
柏に復帰した仲間隼斗(写真は鹿島在籍時)【写真:徳原隆元】

鹿島から柏に復帰した仲間隼斗、昨季は25試合に先発して4ゴールを決めた

 14年目を迎えたプロのキャリアで、もっとも充実した時間を過ごした。鹿島アントラーズでプレーした2024シーズン。32歳の仲間隼斗は左サイドハーフとして25試合で先発し、途中出場した3試合を加えたプレータイムは1818分を数え、名古屋グランパスとの開幕戦で決めた2発を含めて4ゴールをマークした。(取材・文=藤江直人)

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 先発した回数とプレータイムはJ1リーグにおけるキャリアハイであり、ゴール数は自己最多タイ。出場回数も自己最多にあと1試合およばないものだった。加入して3シーズン目を迎えていた、J1を代表する名門クラブで居場所を築きあげた、といってもいい結果を残しながら、仲間はあえて新天地を求めた。

 中学生年代のU-15と高校生年代のU-18に所属し、プロになって10年目の2020シーズンからは2年間にわたって所属した柏レイソルへ、4シーズンぶりに復帰した理由を仲間はこう語る。

「レイソルが厳しい状況にあるのは知っていましたし、そのなかでもう一度レイソルから声をかけていただいて、自分が少しでもレイソルのためになれればと思ってこの決断をくだしました」

 柏は2023シーズン、そして昨シーズンとJ2への降格危機に直面した末に17位でJ1に残留していた。指揮官も2023年5月にネルシーニョ監督から井原正巳監督に代わり、その井原監督も昨シーズン限りで退任。後任には徳島ヴォルティスと浦和レッズの指揮を執った、スペイン出身のリカルド・ロドリゲス監督が就任した。

 一連の状況を「レイソルが厳しい状況にある」と指摘した仲間は、特別な思いを柏へ注いできた。トップチームへの昇格がかなわずに加入した2011シーズンのロアッソ熊本を皮切りに、カマタマーレ讃岐、ファジアーノ岡山とJ2で9年間にわたってプレーし、先述したように2020シーズンに柏へ移籍した。

 愛着深い古巣の一員になれた万感の思いを、当時の仲間はこんな言葉で表現している。

「自分のひとつの目標であった日立台という最高の舞台でプレーできることを嬉しく思います」

 2度目の復帰を果たした今回はどうか。仲間の胸中には対極に位置する思いが脈打っている。

「前回帰ってきたときはそれがゴールというか、レイソルに戻って来られてよかったと思っていました。今回はまったくホッとするものがなくて、むしろこれからの戦いのほうが本当に厳しいものになると感じています」

 心境の変化は、特に鹿島に所属した3年間で明確に意識したプレースタイルに導かれている。1月17日に千葉・柏市内で開催された新体制発表会。自身の得意とするプレーやストロングポイントを問われたコーナーで、仲間はフリップボードに貼りつけられた真っ白な紙に、黒色のマジックで「戦う」とだけ記した。

 鹿島時代の仲間はいつしか“魂”と呼ばれた。身長170センチ体重64キロと決して大きくはない体に真っ赤な炎を宿し、チームの勝利のために献身的かつ愚直に、そして精根尽き果てるまで戦い続けるハードワーカーぶりがファン・サポーターの胸を打ち、左サイドで放つ存在感の大きさと相まって、愛されてやまない存在になった。

 もちろん新シーズンもプレーに“魂”を宿らせる。自ら掲げた「戦う」に込めた意味を仲間はこう語る。

「自分がチームに何かをもたらそうと思ってプレーするのではなくて、いまの自分にできるプレーを100パーセントやったうえで、それをみんながどう感じてくれるかだと思っています。小手先のプレーどうこうではなくて、ひとつひとつのプレーにすべての気持ちや思いを込めて、レイソルのために全力で戦っていきたい」

 J2時代や最初に柏に所属したときに、プレーに“魂”を込めていなかったわけではない。それでも、鹿島での3年間は明確な違いを感じずにはいられなかった。それは日々のトレーニングからだった。

「人間は試合に出る、出ない、自分の調子いい、悪いで空気がどうしても変わってしまう。それでも、鹿島にはそれらを絶対に許さない全体の空気感があったし、常日頃の練習が試合に出ると、この年齢になってあらためて感じさせられた。鹿島でのそういった経験を、レイソルにも伝えていかなければいけないと思っている」

 まだある。トレーニングの段階から“魂”ほとばしらせてきた鹿島でも、3シーズンで一度もタイトルを獲得できなかった。2シーズン続けて残留争いを強いられた柏では、鹿島を上回る熱量が求められる。仲間は長丁場のシーズンを見すえながら、それを伝えるのも復帰した自分に課された役割だと受け止めている。

「いまのレイソルの雰囲気や空気感、みんなが取り組んでいるものを1年間通してできれば、かなりいいものをえられると感じている。そのなかで雰囲気が少し悪くなりそうなときにはこの空気感を思い出して、何かに挑戦するという意識のまま1年間を通してトレーニングができたらいいんじゃないか、と」

 始動時に全選手と面談を実施したリカルド監督からは、ビルドアップ時やボールを保持する場面での意識を高めてほしいと注文された。仲間はいま、新指揮官の志向を“魂”に融合させる作業の真っ只中にいる。

「特に中盤の選手にはそういうプレーを求めていると思っていますし、そのなかでもちろんプレー強度は絶対に落とすつもりはないですし、守備の部分でも手を抜くつもりもまったくありません」

 再びオファーを出してくれた柏で、すべてを出し尽くした先に見つめるものがある。J2時代を含めて、プロになって一度も手にしていないタイトル。本気でそれをつかみ取るための一助になりたいと心から望んでいる。だからこそ、昨シーズンに残した数々の数字が、キャリアハイになるとは思っていない。

「自分が何かを成し遂げるときにはレイソルなのかなと、自分のなかで何となくイメージしてきました」

 背番号は前回所属時や鹿島時代の「33」から、エースストライカーの象徴でもある「9」へ変えたFW細谷真大が3年間つけていた「19」に決めた。苦労人のキャリアを感じさせない仲間は「真大の次なので、責任をもって」とはにかみながら、柏でも“魂”と呼ばれるための戦いへ向けて心技体を高めていく。

(藤江直人 / Fujie Naoto)



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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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