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客寄せパンダと言われても「嫌じゃない」 57歳三浦知良の矜持「だからこそ価値がある」【独占インタビュー】
シーズン終了直後から始まる準備…「休めないね、ほとんど」と語る訳
JFLアトレチコ鈴鹿に所属するカズことFW三浦知良は、2024年7月にポルトガル2部のオリベイレンセから古巣の鈴鹿に1年半ぶりに復帰。22年以来のリーグ戦ゴールはなかったが、2024年シーズンはスタメン1試合を含め12試合に出場してファンを喜ばせた。2月に58歳の誕生日を迎えるなか、プロ40年目を戦うカズが「FOOTBALL ZONE」のインタビューに応じ、「今」を語った。(取材・文=荻島弘一/全3回の2回目)
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◇ ◇ ◇
シーズンが終わった直後も、カズは身体を動かしていた。11月24日にリーグ戦が終了すると、12月には恒例となっている大阪キャンプ。多くの選手が休むオフも、ストイックにサッカーに向き合う。
「休めないね、ほとんど。リーグ最終戦の5日後には筋トレを始めていたし、それ以上は休めない。休むと、身体を戻すのに若い人たちの何倍も時間がかかる。2、3週間もベタ休みしたら大変だよ」
プロ40年目のシーズンは、39年目のシーズンが終わった直後から始まる。若手と一緒に汗を流し、その後はシーズンの疲れを癒やしながら来季に向けて身体を作るトレーニングをする。もう何年も続けてきたルーティン。シーズンを戦うための準備に時間をかける。
「トレーニングそのものは楽しいけれど、若い人なら1週間でできることを3週間かけてやらなければいけない場合もある。いい準備をして試合に臨めたらいいなと、それだけを考えている。コツコツやっていくしかないね」
地道に準備をし、試合に臨む。出場がなければ90分間、試合に出たことを想定して身体を動かし、再び次の試合の準備に入る。その繰り返しは2024年のシーズンも変わらなかった。決して満足のいく数字は残せなかったプロ39年目だが、得るものはあった。ポルトガルと鈴鹿で過ごしたシーズンを振り返った。
「ポルトガルは大変だったけど、楽しかったね。試合には出られずに悔しい思いをしたけれど、練習は楽しかった。遠慮なくガチガチくるチームメイトとの競争も楽しかった」
「パンダだからこそ客が呼べるし、パンダじゃなきゃ客は呼べない」の思い
ブラジルでプロ生活を始めて、イタリア、クロアチア、オーストラリア、そしてポルトガル。日本を含めて6か国目の挑戦だった。年齢を重ねてから新天地を求めるのは難しいこともあるだろうが、サッカーができれば場所は関係ない。だから、ポルトガルのことも淡々と振り返ることができる。
「どこのクラブ、どこの国に行っても、やることは変わらない。確かに身体は毎日大変だけど、新しい発見もある。ポルトガルでは個の大切さを感じた。積極的に仕掛けて、個で打開しないと。ブラジル時代を思い出したよ。ベテランらしくないプレーをしないと」
もっとも、7月に国内復帰した鈴鹿では「個」で勝負をすることは数少なかった。ボールを受けても少ないタッチで味方につなぎ、ゴール前にポジションを移して待った。ゴールに絡もうとするも、得点もアシストもなし。「個」という面では満足はできなかった。
「鈴鹿ではほとんどできなかったし、個で勝負するような場面もなかった。チームのバランスを取らなければいけないし、自分がやりたいプレーだけではダメ。エリア内でのワンタッチゴールを狙うことが多かった。惜しいのもあったけれど、決定的と言うのは少なかった」
2年前に鈴鹿でプレーした時はシーズン前から合流していた。チーム名が変わっただけでなく、監督も変わり、メンバーも大幅に入れ替わった。まったく違うチームで周囲との連係は今ひとつ。フラストレーションの溜まりそうな場面もあった。
「チームのスタイルが違うからね。2年前はいろいろ動いて下がってボールを受けることもあったけれど、今は前で待っている場面が多かった。周りともう少し合って、連係できれば良かった。ただ、上手くいったこともあったし、そういう時は面白かった。もちろん、上手くいかないこともたくさんあったけれど」
プレーには納得いかなくても、観客動員では相変わらず大きな力を見せた。ホームの観客こそカズが2シーズン目だったことに加え、チームの不振も重なって伸び悩んだが、アウェーでは相変わらずの動員力。カズ見たさに観客が集まり、ホーム、アウェーにかかわらず多くのファンに取り囲まれた。そんな姿には一部から「客寄せパンダ」という心ない声も聞こえてくる。
「まあ、直接僕に言ってくる人はいないけど(笑)。そう言われるのは分からないでもない。ただ、決して嫌じゃない。パンダだからこそ客が呼べるし、パンダじゃなきゃ客は呼べない。そう考えればパンダでいいんじゃないですか。パンダだからこそ価値がある」
日々の準備を徹底「たまの休みに銀座に行って遊んだりはあるけど…」
プロとして「客を呼ぶ」ことには圧倒的な自負がある。そして「客を満足させる」ことにも真剣に取り組む。57歳、年齢的な衰えは隠しようがない。もともと圧倒的なスピードで勝負するようなタイプではないが、筋力的に、体力的に、落ちているからこそ、日々の準備に手を抜くことはできない。
「栄養士は4人いて、作ってくれたものを食べている。外食はあまりしないね。特に鈴鹿では、ほとんど外に出ない。趣味も特にないし。たまの休みに銀座に行って遊んだり、歌いに行くことはあるけど、昔ほどは行かなくなった。サッカー漬け? まあそうだね」
チーム練習では先頭を切って走り、40歳近く年の離れた若手とも同じだけ動く。個人でもトレーナーをつけて徹底して「試合に臨める身体」を作る。鍛えた肉体は60歳手前とは思えない。が、もちろん年相応の変化は自身が一番分かっている。
「体脂肪は12%くらい。若い時は6~8%くらいだったけれど、今一桁は無理だね。めっちゃ落ちてる。(57歳で)落ちていなきゃおかしいでしょ。自分でももちろん、感じますよ。やることをしっかりやって、いい感覚の時もあれば、悪い時もある。こんなにできると思うこともあるし、これしかできないという時もある。その繰り返しだね」
57歳、年齢的な衰えは隠しようがない。自身の限界に抗いながらプレーを続けるが、それが永遠であるはずはない。サッカー人生を選手としてまっとうしたいと思いながらも、その終焉が少しずつ近づいていることは間違いない。
※第3回へ続く
荻島弘一
おぎしま・ひろかず/1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者として五輪競技を担当。サッカーは日本リーグ時代からJリーグ発足、日本代表などを取材する。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰。20年に同新聞社を退社。