契約満了→空白の半年間「全部断った」 元日本代表が無所属期間を設けた意味「ちょっと疲れた」【インタビュー】

ヴェルスパ大分でプレーする金崎夢生【写真:(C) VERSPAH OITA】
ヴェルスパ大分でプレーする金崎夢生【写真:(C) VERSPAH OITA】

金崎が設けた“充電期間”…JFL大分で再出発

 2022年夏に大分トリニータへと移籍して以降、金崎夢生は所属チームを転々としてきた。J1の名古屋グランパスからJ2の大分へ。その後J3のFC琉球へと渡り、24年の前半は無所属のまま過ごし、8月22日にJFL(日本フットボールリーグ)のヴェルスパ大分へ加入している。ヴェルスパ大分ではスタメン2試合を含む11試合に出場し、1得点。半年間のブランクは否めないながらも、「毎日こうやって練習できて、試合をやって、上を目指せるというのは、とても嬉しい」と笑顔は隠せない。(取材・文=今井雄一朗/全4回の4回目)

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 実は琉球を契約満了になって次のキャリアを探す中で、金崎はあえて時間を置いたと話す。これまでも語ってきたように、彼ほど勝利に執着する選手はなかなかおらず、それゆえの軋轢も生じてきた。すべては優勝するために起こしてきた行動だったと彼は胸を張る。だが、そこに少しだけ疲れてしまったところもあるというから聞き逃せなかった。35歳となり、大ベテランといってもいい年齢になった。若手の頃のギラギラした感覚をそのままにプレーできる選手もいるが、金崎にもそういった類の変化が訪れていたというのか。

「自分はサッカーをそういう気持ちでやるので、ちょっと疲れたっていうのもありますね。ちょっとだけ。そういう風に仲間に伝えてもなかなかうまくいかなかった時期が結構あったりもして、そういう面で自分の中で『どうしようかな』みたいな。そう考える部分も若干、あるにはありました。

 今年の最初には話をもらったチームもいくつかあったんです。だけど1回全部断らせてもらって、どこにも所属せず、そうやってちょっと時間を取りました。ちょっと一度、時間を空けてみたいなって自分の中で思った部分もあるのかなと今では思います。でも、引退する気持ちはなかった。引退はなかったけど、今年の最初のタイミングで、また違うチームですぐやりますっていう気持ちにも、自分の中ではちょっとなれなかった。一度、充電期間を作って、一度離れたっていう感じです」

半年の休息後に実践復帰「正直、何も変わってなかった」

 そして金崎は8月にヴェルスパ大分との契約を発表するのだが、半年経っての“復帰”に自分は「正直、何も変わってなかった」と大笑いする。「どこのチーム、どこのカテゴリーに行っても僕がやることは変わらない。ずっと言っているように、やるからには優勝を目指して全力でやる。それをやり続けるだけ」という決意も、金崎夢生そのものだ。ヴェルスパ大分ではチームの年長者としての立場もあるが、年齢は関係ないと心から思う。それがサッカーの良いところなんですよ、と若々しくも目を輝かせる。

「サッカーに限っては本当に、ピッチに立ったら年齢とか関係ないじゃないですか。年齢もそうですし、給料とかもそう。『あいつがいくら貰っている』とか『あいつが上手い』という評価はピッチの上に立っちゃったら何も関係ないですよね。それってすごく良いことで。

 だからサッカーやっている間は僕も年齢のことは何も考えてない。ヴェルスパ大分ではしょっちゅう、年下の選手に『夢生、もうちょっと落ち着けよ!』って言われるんです(笑)。そう、若手に言われます(笑)。そこはもう年齢関係なくやっています。その気持ちがなくなったら、自分の中で辞めるんじゃないですか。その熱がなければ、僕もサッカーやっている意味はないって自分の中で思っているので」

 金崎に怒鳴る若手は実に金崎的で微笑ましい。いったん足を止めたキャリアが再び動き出せば、金崎は誰もよりも金崎らしく走り、ふるまう。それでも「年齢は感じますね……。試合でね、1試合、2試合先発で使われなくても、文句言わないようになりましたから」とまた爆笑。「そういう時の監督とは睨みながら握手してるかもしれないけど」という冗談も、ベテランならではの懐の深さを感じる。

身体のコンディションを維持「気持ちが自然と入ったりもする」

 来季も金崎のJFLでの戦いは続く見込みで、そのために今はひたすらコンディショニングの重要性を肝に銘じる日々。心の熱さを絶やさぬために、動ける肉体の維持に注力する。

「気持ちはあっても身体がついてこなければ意味ないけど、逆に身体がついてこれば、気持ちが自然と入ったりもするんです。最近はそっちの方が強いですね。身体をどんどん良くしていけば、気持ちがどんどん入っていく。今までよりコンディションを、身体の方をどんどん上げていくことを考えています。コンディションが良くなると、監督にもより『なんで使わねえんだ!』ってどんどん言っていくようになります(笑)。こんな良い状態なのにってね。

 そういう熱さをどんどん出していきたいからこそ、今はコンディション面がより重要です。来季もこのままヴェルスパでやっていくとなれば、もう何がなんでも絶対に優勝を狙いますよ。そこはもうずっと変わんない。何をやってでも優勝を狙っていきます。ここでも、今まで同じ、変わらないやり方でやっていきます」

 長くプレーできる選手、活躍できるベテランたちにはある共通点がある。それは誰よりも貪欲で、欲張りということだ。1つでも多くの勝利と、1つでも多くのタイトルを彼らは欲しているからこそ、肉体と精神がそのプレースタイルを支えていく。そこにカテゴリーは関係なく、むしろどのカテゴリーでも同じようにプレーできる選手の方が凄みを感じるのではないか。J1でも、J2でも、J3でも、JFLでも、何も変わらずに勝利へのアプローチをし続ける金崎夢生に、勝者のメンタリティーは今なお宿る。

[プロフィール]
金崎夢生(かなざき・むう)/1989年2月16日生まれ、三重県出身。滝川第二高―大分トリニータ―名古屋グランパス―ニュルンベルク(ドイツ)―ポルティモネンセSC(ポルトガル)―鹿島アントラーズ―サガン鳥栖―名古屋―大分―FC琉球―ヴェルスパ大分。J1通算337試合71得点。名古屋では2010年のJ1 優勝へ大きく貢献。鹿島時代には、15年にJリーグベストイレブンに選出された。2か国で欧州移籍も経験。ポルトガルでは49試合16得点をマークした。A代表11キャップで2ゴール。24年8月よりJFLのヴェルスパ大分へ加入しプレーを続けている。

(今井雄一朗 / Yuichiro Imai)



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今井雄一朗

いまい・ゆういちろう/1979年生まれ。雑誌社勤務ののち、2015年よりフリーランスに。Jリーグの名古屋グランパスや愛知を中心とした東海地方のサッカー取材をライフワークとする。現在はタグマ!にて『赤鯱新報』(名古屋グランパス応援メディア)を運営し、”現場発”の情報を元にしたコンテンツを届けている。

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