優勝目指さないなら「やらなくていい」 鹿島で「ホッ」…“結果主義”のメンタリティー【インタビュー】

鹿島在籍時の金崎夢生【写真:Getty Images】
鹿島在籍時の金崎夢生【写真:Getty Images】

“常勝軍団”の鹿島で金崎夢生が実感「ホッとする」

 金崎夢生の輝かしいキャリアのなかで最も彼のキャラクターとチームのスタイル、そこから紡ぎ出される結果がマッチしたのが鹿島アントラーズ時代であることは間違いなく、ここで過ごした3シーズン半の経験談は実に強力なものだった。「名古屋の時は初のリーグ優勝だったので、『やった!』という感覚がフレッシュでした」と語る金崎は、鹿島というクラブはその対極のような位置にあったとその感覚を思い起こす。(取材・文=今井雄一朗/全4回の3回目)

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 思えば大分トリニータでリーグカップ優勝、名古屋グランパスでリーグ優勝、鹿島では国内3大タイトルすべてを獲得している金崎のキャリアは勝者のそれと言うことができる。「鹿島のときはなんかホッとするって感じでした。目標があって、それをちゃんと達成できました、みたいな。それは絶対しないといけない、もう最低目標みたいなところで。鹿島はもう優勝が“ノルマ”みたいな位置づけで、だから3連勝、4連勝、5連勝しても別に誰も喜ばない。そこが目標じゃない。そういう意識はほかのチームと違ったところでした」と当時を振り返る。

「勝てば勝つほど、どんどんチームは締まっていくような感覚。勝てば勝つほど、だんだんみんな余裕出てきちゃって、緩んじゃったりするものなんですけど、鹿島はより締まっていく。そういう雰囲気を(小笠原)満男さんやソガさん(曽ヶ端準)のようなベテランの選手が出してくれる。だから今までで一番タイトルを獲れているんだとは思いますね」

 本来は最大限の目標であるはずの優勝が、最低限のノルマとは何とも鳥肌が立つところだが、結果主義の金崎にはこの風土がなんとも居心地の良いものとなった。海外挑戦を経ても加速していた「結果が出てナンボ」の意識もまた、鹿島の前線を引っ張るに重要なファクターとなったことは間違いない。

「僕もどっちかっていうと同じ“結果主義”なんですよ。良いプレーとかそんなの別にどうでもよくて、『いや、勝ったんだからオッケーじゃん』っていう。そういう面では鹿島とすごく合いましたね。『いや、別にあなたのそういう好きなサッカー、あなたの好きなプレー、別にやってもいいけど、勝たないんだったらやめて』『結果出ないんだったら、じゃあもうそれは変えようぜ』『見た目は悪いけど、結果出てるんならオッケーじゃん』みたいな考え方。

 本当にそういうところは自分に近い部分がありました。今の僕もその根本は大きく変わってないとは思います。やるからには優勝を目指そうよと。別にそこを目指さないんだったら、わざわざサッカーをやらなくていいよね、という部分は変わってはいません」

「20代の自分にアドバイスは?」の問いに一言「別に」

 ところで金崎に、「20代の自分にアドバイスは?」と問うと、「別に」と即答されてしまった。「当時やれるようなことは一生懸命やっていたと思うし、それがあるから今の自分もある」とは至極まっとうな意見で、しかし次の一言をきっかけに金崎のサッカー観の本当の奥底からの想いがあふれ出す。「そのときの自分も相当頑固だったんで、どうせ自分がアドバイスしたところで聞いてないんじゃないかな(笑)」。頑固で意固地なまでに我を通す。この部分に触れたとき、金崎はこのインタビューで最も熱っぽく、語り出したのだった。

「『あんたは経験しなきゃわからんよな』みたいな人なので(笑)。アドバイスするならその代わり、中途半端な失敗じゃなくて、やるなら思いっきりやりなって、自分が後悔しないようにね、ってぐらいですかね。でも、僕もただ自分が試合に出たい、自分が点取りたいっていうだけの“我”だったらここまで言わないんすよ。本当に優勝したいんです。勝ちたいから今すぐ変えていきたい。今年に絶対優勝したいと思っているからなんですよ。

 1敗、2敗したところで、『いやダメじゃん、もう変えないと!』って、僕はもう焦っているわけなんです。このままじゃ優勝できないからって。なかなかそれが伝わらなかったり、ちょっと自分よがりな伝わり方をしちゃったりもして、そこは僕も伝え方が下手くそでいろいろありましたけど、根本にあるのはそれ。逆に自分のためだけだったらそこまで言わないです。だったら淡々と自分がうまくなるための練習だけやっていればいい」

 そのうえで「でも僕は本当に優勝したい、結果を出したい。優勝って1人じゃ絶対できないから、みんなでやらないとダメだからそこまで言う。良い方向に行くときもあれば、うまくいかないときもあるけど、僕は『こうしないと優勝できない、こうしないと試合に勝てない』と思ったときにはやっぱり言います。このスタイルはもう、現役やっている間はもう変わらないっすね」と笑みを見せる。だがそれなりに金崎も苦労を経験してきた。

「そうやって言うのって疲れるんですよ(苦笑)。時に関係も悪くなる。でも勝つために必要だからやっている。別にそこで言っても言わなくても給料は変わんないけど、そこじゃない。やっぱり勝ちたい、来週、すぐにでも結果を変えたい。今までの経験で優勝するためにはこうしないとダメって分かるものが自分にはあるから」

金崎が抱える炎「サッカーは毎年勝負しないと」

 ほかにも「契約的なこととか、個人のいろいろもあるとは思いますけど、目の前の試合を見に来ているサポーターには関係ないですよね」と金崎はぴしゃりと言い放つ。「やっぱり勝つ試合を見に来てくれているわけで。そこに対して毎週、全力でやっていかないとダメなんです。サッカーはサラリーマン的に働いたら絶対にダメ。毎年勝負しないと。だって、週末にみんなお金出して楽しみにしているわけじゃないですか。だったらそこに何がなんでもと全力出してやらないと。そうしないチームに魅力は絶対にない」と考えを示した。

「本気で優勝を目指しているチームだからこそ、みんなも応援してくれる。細かいチームの中のごちゃごちゃはどこでも正直あるんですよ。だけど、そこは別にチームみんなで我慢したらいいんですよ。それで週末に結果が出れば、それでオッケーなんですよ。週末の試合を見に来てくれた人が『今日も勝って良かったね』。もうそれでいいんです」

 焦り、とは本来ネガティブな言葉だが、勝ちたいがための焦りとは実に新鮮な表現だった。金崎の激情はこれまでにも何度も報じられてきたが、そのすべてとはいかないまでも、なぜ彼が声を上げるのかという理由の一端にして根本の部分が見えたのは有意義なやり取りだった。これも1つの勝負論で、プロフェッショナリズムだと思う。「サッカーは毎年勝負しないと」は熱い一言だった。彼は今もなお、その勝負の中に身を置いている。

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[プロフィール]
金崎夢生(かなざき・むう)/1989年2月16日生まれ、三重県出身。滝川第二高―大分トリニータ―名古屋グランパス―ニュルンベルク(ドイツ)―ポルティモネンセSC(ポルトガル)―鹿島アントラーズ―サガン鳥栖―名古屋―大分―FC琉球―ヴェルスパ大分。J1通算337試合71得点。名古屋では2010年のJ1優勝へ大きく貢献。鹿島時代には、15年にJリーグベストイレブンに選出された。2か国で欧州移籍も経験。ポルトガルでは49試合16得点をマークした。A代表11キャップで2ゴール。24年8月よりJFLのヴェルスパ大分へ加入しプレーを続けている。

(今井雄一朗 / Yuichiro Imai)



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今井雄一朗

いまい・ゆういちろう/1979年生まれ。雑誌社勤務ののち、2015年よりフリーランスに。Jリーグの名古屋グランパスや愛知を中心とした東海地方のサッカー取材をライフワークとする。現在はタグマ!にて『赤鯱新報』(名古屋グランパス応援メディア)を運営し、”現場発”の情報を元にしたコンテンツを届けている。

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