欧州→J1鹿島へ「僕はうまい選手じゃない」 悟ったFWの本質…必然的「ミス」はチャンス【インタビュー】

金崎夢生のFW化を加速させた海外挑戦【写真:Getty Images】
金崎夢生のFW化を加速させた海外挑戦【写真:Getty Images】

金崎夢生が欧州で目の当たりに…FWは「点決めたらそれでオッケー」

 金崎夢生はどのポジションの選手かと問われれば、時代によって異なる。だが彼のキャラクターが最も色濃く表れ、かつ結果にもつながっていったのはFWとしての姿であることに異論はないのではないか。なぜ金崎はFWになったのか、あるいはならざるを得なかったのか。ここにフォーカスしていくとき、彼の本質にまた1つ近づける気がする。(取材・文=今井雄一朗/全4回の2回目)

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 プロになったときはボランチで、大分トリニータでの新人時代はトップ下、名古屋グランパス移籍後はドリブルが得意なウインガー、海外挑戦を経て加入した鹿島アントラーズでのキャリア以降はセンターFWのイメージが強い。最近ではチームの状況に応じてボランチに戻ったりもしている。

 FWになったきっかけは、特になかったのだと金崎は言う。だがドイツのニュルンベルク、ポルトガルのポルティモネンセSCの2クラブでプレーした際、自分が“助っ人”なのだと自覚してからは生来の負けん気と、結果にこだわる性根に火が点いた。

「前線の選手が、何もせずに試合に出ているなんてあり得なかった」。リーグ優勝を経験した名古屋ではチャンスメーカーとして活躍したが、外国籍選手の自分にはさらに目に見える結果がなければ試合にも出られず、パスさえ来ないと実感したことで、金崎のFW化は加速していく。

「良いプレー、うまいプレー。そんなのいらないなって。どんなんでも点決めたらそれでオッケー。どんなに日本で評価されるうまいプレーをしても、向こうじゃ何の評価にもならない。生きていくために、その場所、そのチームで自分のポジションや自分の存在を作るにはそれしかないっていう感じで。言葉は通じなかったけど、点を取るとパスが来る。もう本当に分かりやすく。

 だからもらったパスをバックパスすると、次からもうパスは来なくなる。日本だとチーム全体のことを考えて『1回ここで遊びのパスを入れて』もあるけど、向こうではそんな時間を与えてもらえない。味方がくれたこのパスを、どうにか前線に運んで、チャンスにつなげなければ、次のパスはもらえない。練習からしてそういう感じなので自分は変わりましたし、生きていくにはこれしかないって感じでした」

欧州での経験が鹿島で“ピタリ”と「ハマる」

 FWとなった金崎は3シーズンを経て鹿島への移籍でJリーグに復帰するのだが、「僕が海外でやってきたことが、鹿島はそこだけがなかった。そこにたまたま僕がハマった」と金崎は振り返る。小笠原満男や柴崎岳らプレーでもメンタルでも試合を構築する選手は揃っていたチームに不足していたのは、そのお膳立てを何が何でも決めきる選手と、そのメンタリティーだった。目覚めたストライカーは鹿島の3シーズン半で38得点をマークしたわけだが、得点に対するアプローチは実に泥臭く、しかし興味深い。

「どんな形でも1点は1点。僕は“そっち”でした。シュート練習をめちゃくちゃやった週があったとして、こういう形でボールが来て、ここでシュートを打つ、みたいなこともやるんですけど、実際に点を決めたら全然違うシュートで決まったりすることばっかり(笑)。実際にふたを開けてみないと、その場の生の場面じゃないと分からない部分ってある。僕は自分の予想した通りにボールが来て点が決められたっていう事はそんなになくて、でもイレギュラーが起きて、そこに自分がいち早く反応して先に触るとか、そっちの方をかなり磨きましたね。

 ここでパスがずれるとか、相手がここでミスったところは自分がすぐに行けるように、とか。こぼれ球もそうで、普通のシュートだけど、キーパーがもしかしたらキャッチミスして自分のところにこぼれるかもしれない。そういうところを感じるようにしていました。サッカーってやっぱりミスのスポーツだなってつくづく思います。ミスがあるから失点するんです。だからそこをどう突けるかだなって。ボールを扱うのが足だから、ミスは多いんです」

 サッカーはミスのスポーツ。という言葉はよく聞くが、それはだいたいが「ミスは起きるものだから、気にしないでいかに切り替えられるかだ」という文脈で使われることが多い気がする。しかし金崎にとってそれは「ゴールチャンスがそこにある」という狩人の発想となり、その部分に特化した感覚ややり方も養っていったと彼は語る。これは現代のストライカーたちにも通じる、1つの真理であるようにも感じる考え方だ。

15分足らずで相手選手を観察「この選手は今日、疲れてるな」

「僕は試合開始からの10分や15分で、相手DFをかなり見ます。その選手のその日のコンディションを見て『この選手は今日、疲れてるな』とか。ほかにも、特に分かりやすいのは左利きの場合で、左のコースを切ったときのこの選手の右足はどうだと。左利きは、基本は左足しかボール蹴らなかったりするので、だからコース切ったときに右足が苦手そうだなと思ったらその試合はそういう風にやってみたり。それでも抜け目ない、本当に良いディフェンスの選手はいるので、その時はもう何回でも追い回します。

 体力勝負じゃないけど、繰り返していくと絶対に、どんな完璧な選手でもミスをするから。試合のなかで疲れたりしてもちょっと判断が遅れたりするし、そういうときは絶対にある。そこを突き続ける、ミスを起こさせる。ミスしたときには自分が先に行けるようにしながら、やり続ける。僕はうまい選手じゃないけど、鹿島ではそういうところを求められていたわけじゃない。前線でしつこく身体張って、そういうチャンスでしっかり決める。『それが夢生の特徴だ』って理解している選手は多かったと思う」

 そうしたラストピースがハマっての2年連続二桁得点もあったが、「それも最低限の数字で、当時の僕には限界だった」と金崎は言う。「だからこそチームの結果がなければ自分の評価にならない」とも。いかに結果を導き出すか、そのために自分のできることは何かという部分にフォーカスし、その最大化を目指す。

 金崎のいた鹿島はスーパーカップを含め4つのタイトルを獲得し、彼も2015年にはJリーグベストイレブン選出と日本代表返り咲きを果たしている。キャリアの1つのピークがここにあり、それはFWとしての自分を確立したからこそのもの。数字が求められるポジションと、結果を求めるパーソナリティのマッチングは、実に興味深い現象といえた。

[プロフィール]
金崎夢生(かなざき・むう)/1989年2月16日生まれ、三重県出身。滝川第二高―大分トリニータ―名古屋グランパス―ニュルンベルク(ドイツ)―ポルティモネンセSC(ポルトガル)―鹿島アントラーズ―サガン鳥栖―名古屋―大分―FC琉球―ヴェルスパ大分。J1通算337試合71得点。名古屋では2010年のJ1 優勝へ大きく貢献。15年の鹿島時代にはJリーグベストイレブンに選出された。2か国で欧州移籍も経験。ポルトガルでは49試合16得点をマークした。A代表11キャップで2ゴール。24年8月よりJFLのヴェルスパ大分へ加入しプレーを続けている。

(今井雄一朗 / Yuichiro Imai)



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今井雄一朗

いまい・ゆういちろう/1979年生まれ。雑誌社勤務ののち、2015年よりフリーランスに。Jリーグの名古屋グランパスや愛知を中心とした東海地方のサッカー取材をライフワークとする。現在はタグマ!にて『赤鯱新報』(名古屋グランパス応援メディア)を運営し、”現場発”の情報を元にしたコンテンツを届けている。

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