J1昇格逃した要因「去年は我慢してきた」 “14→4”に減少…1年で返り咲いたサッカー王国【インタビュー】
清水エスパルスは2023シーズン、惜しくもJ1昇格を逃した
清水エスパルスは2024年のJ2リーグを優勝して、来年は3シーズンぶりにJ1の舞台で戦うことになった。クラブをJ1昇格に導いた秋葉忠宏監督は、あと一歩でJ1昇格を逃した2023シーズンから学んだことを明かしている。(取材・文=河合 拓/全8回の3回目)
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J1昇格の反響について、「非常に大きかった」という秋葉監督。「フットボールが生活に根付いている県ですから、もともと持っているポテンシャル、フットボール愛が強いとあらためて感じました」と、サッカーどころとして知られる静岡県のクラブが持つ高いポテンシャルを感じ取っている。また2023年に足りていなかった体験が、昨シーズンはできたのではないかと口にした。
「静岡は『サッカー王国』と言われる唯一無二の日本でスペシャルなオンリーワンの県だと思っています。唯一足りなかったのが成功体験、カテゴリーがどこであれタイトルを獲ること。タイトルから20何年も遠ざかっているというのを聞いていましたし、そこに対する喜び、さらに言えば僕がコーチに就任する前のシーズンはホームで2勝しかできていなかったので、フットボールを通じて喜ぶ機会が少なかったんです」
そのホームで2勝しかできなかった2023年。J2に降格した清水は、昇格の大本命とみられていた。しかし開幕からチームは低迷。それに伴って秋葉氏は4月にコーチから監督に昇格した。その後、チームを立て直して最終節を前に自動昇格圏内の2位にいたが、最終節でジュビロ磐田に逆転され、さらに4位で迎えた昇格プレーオフ決勝でも後半アディショナルタイムに東京ヴェルディに同点に追い付かれ、相手に昇格を譲ってしまった。
昇格まであと1試合、あと数分まで迫った悔みきれないシーズンを過ごしたが、シーズン開幕前からチームを任されれば、昇格できるという自信を秋葉監督は持っていた。監督が解任されたクラブというのは、その時点での成績は良くない場合がほとんどだ。しかもすでにリーグ戦は始まっており、じっくりチームを作りこむこともできない。また、コーチから監督へと立場を変えたことによる難しさも、2023年はあったという。
「やっぱりコーチから監督になるのは難しかったですね。立ち位置も変わりますからね。コーチと監督は全然違いますし、そこまでの選手との間柄もあったので、いろんな面で難しかったです。僕らよりも、受け取り側の感覚が違ってきますから。かなり2023年は自分のやりたいことを我慢してきたので。それでも最初から自分の思い描いたことがやれれば、J2では断トツの資金力と戦力がありましたから、こういう結果は得られますよね」
古邊考功フィジカルコーチが暗躍「素晴らしい人です」
シーズン開幕前のキャンプでは、『清水が例年以上に走り込んでいる』と報道陣の間でも話題になっていた。これはまさに秋葉監督が着手したかった部分だったと明かす。「我慢強さとか、メンタル的な強さみたいのが、僕にはないように見えていたので。それは当たり前ですけれど、苦しいこととか、辛いことから逃げずにやり続けるから身に付くものです。走りこむことで、忍耐強さ、我慢強さ、自分たちから崩れないことにつながると思っていました」と理由を説明した。
ここに着手するうえで、秋葉監督は古邊考功フィジカルコーチをチームに呼ぶ。古邊フィジカルコーチと秋葉監督のつながりは長く、「僕も、新潟でソリさん(反町康治/現清水テクニカルディレクター)が監督で、古さんがフィジカルコーチで、散々走らされました。その鬼軍曹を呼びましたからね」と笑った。監督から見た古邊フィジカルコーチは、厳しく要求しつつも選手をしっかり見て、それぞれの限界値を把握しており、飴と鞭を使い分けるのが抜群にうまい。
そして「一番、選手に文句を言われるポジションですけれど、それでもやり抜ける精神力もありますし、みんなにちょっかいを出しに行くメンタル的な強さ、人間性を含めて、素晴らしい人です。だから選手も文句を言いながら、選手も『やらざるを得ないな』とやってくれる」と、絶大な信頼を口にした。
秋葉監督が学んだ好調時のチームマネジメント「どこかで無理をしている」
2023シーズンの教訓として、秋葉監督がもう1つ頭に刻んでいたことが、好調時のチームマネジメントの重要性だ。この年、清水は第23節のV・ファーレン長崎戦(3-2)から第36節のヴァンフォーレ甲府戦(0-0)まで9勝5分と14試合無敗という数字を残した。こうした良い結果が出ている時に、実は落とし穴がある。
「今、考えると何戦負けなしとか、そういう時期ってやっぱりどこかで無理をしているんです。どこかで無理が来て、その反動があるなというのが2023年は身に染みて分かりました。あの時も『開幕7試合の分を取り返さなきゃいけない』と無理をして、その反動があとから来ました。だから今年、長崎さんや横浜FCさんが20何試合負けなしとやっていた時も、動揺することはありませんでした。
我々はそういう数字がなくても、年間を通じて波がない方が大事。大きく上に振れるのも、下に振れるのも、無いほうがいい。いかに波を小さくするかが、やっぱり安定して高いレベルを維持し続けられるし、勝つ姿を見せ続けられるんだなというのを、2023年から分かっていましたけれど、昨年優勝してあらためて感じました」
今季の清水も第9節の甲府戦(1-0)から第15節の鹿児島ユナイテッド戦(4-0)まで7連勝を記録した。しかし、そのあとの横浜FC戦に0-2で負けたことも、振り返れば「程よく負けたりして、また緊張感が出たりすることも大事」と引き分けて、10試合無敗になるよりは良かったのではないかと分析する。
ドロー減少でチームが安定
確かに引き分けという結果には、怖い一面もある。仮に開幕戦で勝利したチームが、その後5試合連続で引き分けたら『開幕から6戦負けなし』となるが、その次の試合で敗れてしまえば一気に『開幕戦後6戦勝ちなし』と表現されてしまう。
負けずに引き分けて『何試合負けなし』となることよりも、一度負けてリセットする方が好ましかったと言う指揮官だが、同時に『何試合勝ちなし』という数字は可能な限り少なくしなければいけないという。
「波をどれだけ小さくするかでは、『何戦勝ちなし』をいくら縮められるか。5戦勝ちなしにするのではなく、それを2つくらいで止める。最後(33節の横浜FC戦から山形戦まで)だけ分け、分け、負けで3戦勝ちなしになりましたけど、それ以外はほとんど2つで止まっています。それはほかのチームになかったことなので、そういうことが大事だなというのは、すごく感じました。昨年26勝できましたが、2023年あった引き分け14を4にできたことも大きかったですね」
全42試合だった2023シーズンは20勝14分8敗で4位だった清水だが、2024シーズンは全38試合になったなかで26勝4分8敗という成績でJ2を制してJ1昇格を決めた。資金力的にもリーグ全体で中位になるであろう2025シーズンのJ1での戦いは確実に昨季よりも難しいものになる。高いレベルで波のない安定感のある戦いを1年通して貫けた清水が、今シーズンに日本最高峰の舞台でどれだけ同じように戦えるかに注目だ。
(河合 拓 / Taku Kawai)