ピッチの影見て「あ、右側にいる」 隠れた逸材がついに…会場どよめく衝撃ターンの真実

同点ゴールをアシストした黒沢佑晟【写真:徳原隆元】
同点ゴールをアシストした黒沢佑晟【写真:徳原隆元】

前橋育英MF黒沢佑晟、下級生の活躍に発奮し決勝で躍動

 2度目の選手権制覇を果たした前橋育英(群馬)。流経大柏(千葉)との決勝では、鮮やかな180度ターンがチームに貴重な同点ゴールをもたらした。

 0-1で迎えた前半31分、左サイドのFWオノノジュ慶吏のクロスをペナルティーエリア内右で受けたMF黒沢佑晟は、ゴールラインギリギリの位置で寄せてきたDF宮里晄太朗をボールを引き込みながら身体を反転させ、一気に置き去りにして中へ切れ込んでいった。

 どよめく会場内。顔をあげながら中の様子を見た黒沢は、「人数が結構いたのでふんわりと目の前の敵を交わすボールを上げよう」と、正確なキックでクロスを送ると、MF柴野快仁のドンピシャヘッドからの同点ゴールをアシストした。

「理想どおりのプレーだった」

 こう胸を張る黒沢は、あのシーンで恐ろしいまでに冷静な判断をしていた。

「ファーストタッチが少し右に流れてしまったのですが、ボールに追いついた時に、相手の影が間接視野で見えたんです。それで『あ、右側にいるな』と思ったので、180度のターンをしてもスペースがあると思った」

 前半、日光が当たるコート側に攻めるようにコートチェンジを選択していた前橋育英。試合中に陽が上がっていくなか、この時間帯はちょうどペナルティーエリア右側のみ光が当たっている状況だった。

 こうした運もきちんと見逃さない目を持っていないと、勝利の女神は微笑まない。黒沢は日頃から間接視野で相手やスペースを見ることを意識してプレーし続けたからこそ、あの瞬間に判断材料を探し出し、「勝利への光」を発見することができた。

 影を見て、自分の右背後からボールを奪おうとしている宮里を把握し、ガラ空きだった中のスペースへ180度ターンをして仕掛けることを決めて、一発でそれを成功させた。そしてクロスを上げるまですべてハイクオリティーの仕事をやってのけた。

「柴野、白井(誠也)、(竹ノ谷優駕)スベディがすごく今大会結果を残していて、その中で3年生が結果を残さないといけないと思っていたので、それが決勝戦のアシストという結果につながって本当に良かったと思います」

 意地の一発と言えば聞こえはいいが、これは前述したとおり、間違いなく彼が努力を積み重ねてきた証であった。

 今大会、ドリブルと言えば白井や流経大柏の亀田歩夢に話題と注目をかっさらわれていったが、彼のドリブルも非常に質が高く、いわば隠れた逸材。決勝ではあのアシストシーンだけでなく、股抜きや鋭い切り返しのドリブルは何度も観衆を沸かせたのは紛れもない事実だった。

 卒業後、大学サッカー界の強豪・日本大学に進学する。前橋育英から日大と言えば、金子拓郎(現・浦和レッズ)、近藤友喜(現・北海道コンサドーレ札幌)、熊倉弘貴(横浜FC内定)、熊倉弘達(ヴァンフォーレ甲府内定)らが歩んできた「黄金ルート」の1つだ。

「日大は足もとの技術、パスの質を大事にしていて、前橋育英に少し似ています。そこでもう一度自分の技術・フィジカルを見つめ直して点も取れる選手になりたい。これまでは山田耕介監督、中学(前橋FC)の恩師でもある湯浅英明コーチ、松下裕樹コーチなどに的確なアドバイスを貰えて、それで助けられていた部分が多かった。来年度からはもっと自立をして、ピッチ内でもっと考えて変化をつけられる選手になりたいと思っています」

 将来、プロの舞台でも積み上げた判断力と技術を発揮し、再び多くの観衆を沸かせられるように。黒沢は黄金ルートを自分の足で力強く歩いていく。

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