構想外から“選手あるある”克服 最適環境×吸収=24歳日本代表の飛躍「若手ってどこか技術だけに」【現地発コラム】

スタッド・ランスで活躍を続けている中村敬斗【写真:Getty Images】
スタッド・ランスで活躍を続けている中村敬斗【写真:Getty Images】

2024年に活躍を見せた中村敬斗、充実する現在の背景に地力を蓄えた時期

 2024年、欧州で最も活躍した日本人選手の1人が24歳の日本代表MF中村敬斗だろう。所属クラブのスタッド・ランス(フランス1部)では、今季ここまで(1月7日時点)リーグ戦16試合に出場し、7得点1アシストをマーク。日本代表としても2023年3月24日ウルグアイ戦でA代表デビューを果たして以来、出場機会を重ねるごとにアピールに成功している。

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 切れ味の鋭いドリブルとダイナミックにゴールを狙う姿勢がなんとも頼もしい。サイドからの正確で効果的なクロスもチームにとって大きな武器となる。スタメンでピッチに立っても、例え出場時間が短かったとしても、ゲームの流れに飛び込み、試合に変化をもたらすプレーができる存在として貴重な選手と言える。

 そんな中村のここ最近の充実ぶりが素晴らしい背景には、じっくりと自分と向き合い、地力を蓄える時期があったからなのは間違いない。スタッド・ランスの前に所属していたオーストリアのLASKリンツ時代、奮闘を続ける中村を尋ねて取材に訪れたことがあった。

 ガンバ大阪からオランダのトゥウェンテにレンタル移籍で渡ったのが19年7月。開幕のPSV戦でいきなり初出場、初得点を挙げる活躍で注目を集める。ただシーズン途中からベンチスタートが続き、その後新型コロナウイルスの影響もあり契約延長には至らず。次なるチャレンジの場としてベルギー1部シント=トロイデンへレンタル移籍したものの、監督の構想外となってしまう。

 出場機会に飢えた中村は21年2月、リンツのセカンドチームに当たるFCジュニオールにレンタル移籍。オーストリアリーグ2部でリーグ戦を戦いながら、徐々に戦いの場をトップチームへと移していく。そして21年8月に完全移籍が決まると、オーストリア1部でも主力として活躍するようになっていったのだ。

「毎回しっかり全力で毎日の練習をやって、先輩とか年配の人から言われること、監督から言われることをしっかりと聞き入れて、『なるほど、こうするといいんだな』とか言われたことをしっかり受け止めて吸収していく。全部が全部じゃないですけど、自分のスタイルは貫きつつも、自分が苦手としている部分だったりとかは本当にしっかりやってきましたね」

 中村は当時そう語っていた。

アドバイスに耳を傾け身に付いたもの「今の気持ちは大事にしたい」

 やるべきことがそこにあり、真摯に取り組んだことが、大きな成長につながっていた。選手として自分らしさや自分の特徴を誇りに思ったり、武器としてこだわりを持つことは大切だ。ただ、その思いが強すぎるがゆえに、周囲からのアドバイスに耳を塞ぎ、改善点に目を向けることができなくなってしまうと、間違った方向に進んでしまうことが少なくはない。

「若い選手ってどこか技術だけになってしまったりするじゃないですか。シュートやドリブルメインだけでなんとかなって、(技術で)上がってきた選手あるあるだと思うんですけど。ここでは、ハードワークや競り合いの激しさという部分を言われてきたっていうのがある。ラスクのチームスタイルがプレッシングサッカーなので、そのサッカーに合わせてやったら、勝手に身に付いてきたってところがあるんです。身体もちょっとずつ筋トレとかやって大きくなってきて、ボールも失わなくなってきて。ちょっとずつですよね、良くなってきたのは」(中村)

 前からのプレッシングはどうかけるのか、最適なポジショニングはどこなのか、相手とのフィジカルコンタクトにどのように対峙すべきか、プレッシャーがあるなかでもボールをキープするにはどうしたらいいのか。

 そうやってサッカーに集中して取り組める環境がオーストリアにはあった。特にセカンドチームでプレーしていた2部リーグでは周囲からのプレッシャーもそこまで大きくはなく、ミスを怖がらずにチャレンジをすることができる。それでいて各国の世代別代表選手が集まるなど、リーグのレベルも低くはない。

 オーストリアは国全体でハイ・インテンシティーの切り替えが速いサッカーをしており、フィジカルコンタクトに強く、攻守両面でハードワークができなければピッチに立てない。オランダやベルギーで海外サッカーの厳しさに触れた中村にとっては、自身を成長させるために最適な環境に辿り着いたと言えるかもしれない。

「ここのチーム(LASKリンツ)にきて、チームとして勝つために何をするかっていうのが最優先で、点を取れればラッキーというぐらいのスタンスでやってきてて、上手くいってるんです。チームとして上手く回ってますし、今の気持ちはちょっと大事にしたいですね」

「中村ことがとても好きなんだ。選手として、人間として」の一言に詰まった魅力

 チームメイトにも恵まれた。

「ナイスガイが多いですね。一番フレンドリーに感じるし、居心地がいいです。サッカー面が上手くいっているので感じ方が変わってくるっていうか、いろんなことに目を向けられる。充実しているし、余裕がちょっと出てきているという感じです」

 チームに求められることをやりながら、順応し、成長を遂げた中村は、ゴールやアシストを増やしていくようになる。攻撃における大事な選手として仲間からの信頼が日に日に増していった。

「ウイングに求められるプレーというのは多いと思うので、それを増やしていくことで代表というのも見えてくるんじゃないかなと思っています。ゴールという結果も残しても、ハードワークできたうえでの招集だと思うので。まずはしっかりチームのために頑張りたいです」

 取り組むべきことが何かを明確に理解し、着実に実践。自分自身を見つめ、力を蓄え、飛躍する足掛かりを作るための環境の大切さが窺える。その後のキャリアを見たら、そのことがよく分かるではないか。

 LASKリンツ時代の監督ディートマー・キューバウアーに直接尋ねたことがある。「中村は非常に飛躍を遂げ、リーグでのトップスコアラーとなり、違いを生み出す選手となり、そして他クラブから興味を集める選手となりました。どのように彼を見ていますか?」と。キューバウアーはこちらを見ると、すぐにこう答えてくれた。

「ほかのリーグでプレーしても、そこで重要な役割を果たすだけの才能は間違いなくある。もし移籍することになったら、チームにとって非常に大きな損失だ。スポーツ面だけではなく、人間的な面からもだ。彼のことがとても好きなんだ。選手として、そして人間として」

 中村の魅力がこのコメントにすべて込められている。そしてその成長は今なお止まっていない。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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