マンCやバルサはなぜ失速? ポジショナルプレー強豪に壁、「脅威と背中合わせ」の代償【コラム】

ポジショナルプレーの壁に苦しむシティとバルセロナ【写真:ロイター & GettyImages】
ポジショナルプレーの壁に苦しむシティとバルセロナ【写真:ロイター & GettyImages】

ポジショナルプレーの普及により対策も進化、強豪チームの攻め手が徐々に消滅

 ポジショナルプレーが壁に突き当たっている。ペップ・グアルディオラ監督がバイエルン・ミュンヘンの練習場に4本の縦線を引いて以来、5レーンという補助線を得たポジショナルプレーは急速に普及していった。

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 ところが、ここにきて壁に直面している。現象としては主に2種類あって、1つは深く構える10人の守備ブロックを攻略するのに苦労している。もう1つはマンマークのハイプレスによって可変ビルドアップの優位性を消されて苦労している。

 ポジショナルプレーが普及した結果、その仕組みを理解した相手から対策されて行き詰まっているのだから皮肉なものだ。サッカーの戦術史において、攻撃と守備は相克を繰り返してきているので、やがて攻撃側の逆襲もあるだろうが、現時点で優勢なのは守備側だろう。

 分厚いローブロックの攻略は難しい。ボール支配力の強い強豪チームの主な攻め手だった「ライン間」は非常に使いにくくなった。10人のローブロックの手前ではいくらでもパスをつなげる代わりに、ブロック内の密度が高すぎてMFとDFのライン間スペースがほぼ消滅している。

 マンチェスター・シティやFCバルセロナは、この狭くなったライン間でプレーする選手をあえて増員し、かつ流動化させることでかく乱。ディフェンスラインをフリーズさせ瞬間的に裏を突く手法である程度の効果を出しているが、ライン間増員の代償としてカウンターに対する脆弱性も露呈している。ロドリを長期欠場で欠いたシティはリスクをカバーし切れずに失速。大胆なハイラインでリスクを回避していたバルセロナもそのあまりに高いライン設定ゆえに勢いを失いかけている。

 もう1つの重要な攻め手であるウイングのドリブル突破も以前ほどの威力は出しにくくなった。守備側が5バックでサイドのスペースを限定しているうえ、2人1組のダブル・チームでウイングに対処するようになったからだ。カットイン型の逆足ウイングが主流の現在、カットインを消されたのは痛い。

ポジショナルプレー勢が停滞、目立つ「2種類」のゲーム

 従来の攻め込みが難しくなった以上、新たな何かが必要とされている。可能性は主に2つ。ローブロックの手前を横方向に素早くボールを動かしながら、ディフェンスラインのスウェーの隙間を狙ったミドルシュートというハンドボール的な攻め方が1つ。もう1つは小さなロブをボックス内に上げてヘディングで競り落とし、ゴール前の混戦を誘発すること。ただ、どちらも今のところ決定打にはなっていない。

 打開策が見つかるまでは、強固な守備ブロックに手を焼いているうちにカウンターを食らう脅威と背中合わせのプレーになるだろう。プレミアリーグはポジショナルプレーを身に付けたボール支配力の高いシティ、リバプール、チェルシー、トッテナム、マンチェスター・ユナイテッドがいるが、こうしたビッグクラブ以外も他国に比べると資金力があり、中位以下でも他国リーグのビッグクラブ並みの補強ができる。前線に個で勝負できるタレントを有するチームがほとんどなので、堅守速攻でビッグクラブを倒せる確率が上がっている。

 マンツーマンのハイプレスはビルドアップの可変に惑わされない一方、1対1で外されれば即ピンチに直結する危険がある。もちろん敵陣で奪えれば即チャンス。マンツーマン同士の試合は激しいデュエルが連続する決闘、しかも互いに片手を縛り合い、もう片方の手にナイフを握って斬り合うような予断を許さない切迫した様相になる。

 1つのチームが圧倒的にボールを支配しながら膠着するか、全く落ち着きのない決闘か。ポジショナルプレー勢の停滞によって2種類のゲームが目立つようになっている。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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