161㎝ドリブラーが見せた“衝撃ドリブル” 決勝進出貢献の2年生…監督が期待した切れ味
前橋育英のMF白井誠也が今大会初ゴール
1月11日、東京・国立競技場で行われた第103回全国高校サッカー選手権大会準決勝で、前橋育英(群馬)が東福岡(福岡)に3-1の逆転劇を演じ、7大会ぶりのファイナルに駆け上がった。ヒーローのひとりが2年生のスピードスターMF白井誠也である。
前半11分に先手を取られ、前橋育英はこれといった見せ場もなく、前半はシュートを1本も打てなかった。そこで山田耕介監督は後半開始からフレッシュな2人を送り込む。「0-1だから何かやらないといけなかった」と言い、白井については「切れ味があって戦況を打開できると思ったので使った」と説明。これがまんまと図に当たった。
右2列目に入った白井は2-1と逆転していた後半13分、ハーフウエーライン付近で相手ボールを奪取すると、持ち味のスピード豊かなドリブルで敵陣へと進撃。右サイドを駆け抜けていたオノノジュ慶吏にやや強めのパスを送る。この瞬間、白井は快足を飛ばしてペナルティーエリアに進入しており、オノノジュからの最終パスを右足ダイレクトで合わせ、ゴール左隅に蹴り込んだ。
「監督からドリブルで流れを変えてきてくれと言われたので、期待に応えられてうれしかった」と語り、「パスが少し弱かったので、トラップすると(シュートが)遅くなると思いダイレクトで振り抜きました。前半はあまりチャンスがなかったから、後半から巻き返したかった。貴重な3点目を取れて良かった」
昨秋の群馬県予選はレギュラーとして、4-2-3-1の右MFで先発を重ねた。ともに3-0で快勝した桐生第一との準決勝も、共愛学園との決勝もリズミカルでいながらスピードや変化のあるドリブルを駆使し、マーカーをきりきり舞いさせた。右から絶好のクロスを何度も供給したほか、カットインから積極的にゴールも狙った。
しかし、オノノジュが怪我から完全復帰した全国選手権では控えに回り、先発はオノノジュが負傷で離脱した愛工大名電(愛知)との2回戦だけで、ここまで無得点だった。それでも出番が到来したら「常にやってやるぞ、という気持ちを強く持っていました」と歯切れのいい口調で答えた。
速さは大きな武器だが、大柄なDFの間にドリブルで割って入り、厳しいチャージを苦にしない勇敢なプレーも大したものだ。「大きい相手に対しては、しっかり体を入れてボールを守るとか工夫してできるようになりました」と解説してみせた。
30人の登録メンバーの中で身長161センチは、主将の石井陽と並んで最も低いが、存在感はとても大きく輝きを放つ。小兵ドリブラーは「相手のスキを突いて簡単に仕掛けられたのが逆転につながりました」と最後まで取材陣に丁寧に応じた。
(河野 正 / Tadashi Kawano)
河野 正
1960年生まれ、埼玉県出身。埼玉新聞運動部で日本リーグの三菱時代から浦和レッズを担当。2007年にフリーランスとなり、主に埼玉県内のサッカーを中心に取材。主な著書に『浦和レッズ赤き激闘の記憶』(河出書房新社)『山田暢久火の玉ボーイ』(ベースボール・マガジン社)『浦和レッズ不滅の名語録』(朝日新聞出版)などがある。