プロ内定なのに「なぜスタメンではないの?」 嫌でも刺さる周囲の声…選手権で思わぬ苦悩

流通経済大柏の松本果成【写真:Getty Images】
流通経済大柏の松本果成【写真:Getty Images】

流経柏DF松本果成、コンディション不良から精彩欠き「悩ましい気持ち」

 選手権初戦の佐賀東(佐賀)戦は後半からの40分間、3回戦の大津(熊本)戦は後半32分からの出場、準々決勝の上田西(長野)戦では前半13分から出場……。

 流通経済大柏(千葉)の湘南ベルマーレ入りが内定しているDF松本果成は、今大会すべての試合に出場しているが、スタメン出場は一度もない。

 この理由は大会前の体調不良が影響している。昨年12月中旬に行われた流通経済大学と合同のプロ内定選手記者会見をインフルエンザに罹患したことで欠席。そこから復帰したが、思うようにコンディションを上げられていない。

「思うように自分のプレーができない中で、周りのみんなはコンディションが良くてレギュラー争いがより激化をしていて、悩ましい気持ちでいます」

 初戦、3回戦とFWで投入されるが、前線で起点をうまく作り出せなかった。だが、上田西戦では本来のポジションである右サイドバックとして投入されると、持ち前の積極的な攻撃参加を何度も見せ、前半40分にはロングボールをペナルティーエリア内右に潜り込んで受けると、クロスオーバーしてきたMF和田哲平に冷静にヒールパス。チーム5点目をアシストした。

「久しぶり(2か月半ぶり)のサイドバックでの出番だったので、変に考えずにクロスやアシストなど自分が得意とするプレーをどんどん出していこうと思い切ってやることができました」

 上田西戦後のミックスゾーン、これまでずっと暗かった表情からようやく笑顔が見られるようになった。だが、それでも満面の笑みとまではいかず、その表情はどこか曇っていた。

「選手権という注目度がほかの大会とはレベルが違う大会の中で、周囲からの目、注目の集まり方がこれまでと全然違うなと。来年はプロとしてやっていくからこそ、注目度は桁違いになっていると感じています。内定発表をして以降、ここまで何かを背負うことはなかったと思うくらい、いろいろなものを背負ってしまって、ここにきてその圧をすごく感じてしまっています」

 J1内定という看板は大会に入ると一気に彼にのし掛かった。初戦の精彩を欠いたプレーをした自覚があるなかでも、3回戦の残り10分程度のプレー時間でも、その都度ミックスゾーンでの取材は多くあった。

「自分はまだチームに貢献できていない」と思う中でのコメントは想像以上に難しかった。それでも彼はきちんと最後まで受け答えをしたが、もやもやはなかなか消えなかった。

「なぜJ1内定選手なのにスタメンではないの?」など、周囲の声は嫌でも耳や目にしてしまう。沈みそうになる心を救ってくれたのは、これまでお世話になった人たちの言葉だった。

「お前らしくやってこい」…激励のLINEが続々

 榎本雅大監督は松本のコンディションに気遣いながらも、出場機会を毎回必ず与えてくれた。3回戦の試合後に携帯を見ると、親や中学時代のコーチなどから「そんなに力まないで、肩の力を抜いてお前らしくやってこい」など激励のLINEや連絡があった。

「そういう温かい言葉の数々が僕の身体の力みを取って、この試合に臨むことができた。エノさんも正直、今日僕を賭けに出るくらいの気持ちで前半から起用してくれたと思ったので、僕はそれに応えようと思いました。あの1アシストを含め、自分らしさをちょっとずつ取り戻せた感覚は掴めました」

 彼にとっては大きな一歩だった。この大会が終わるまでにトップフォームは取り戻せないかもしれない。しかし、悩みもがいているこの時間は彼にとって今後の成長への大きな財産になることは間違いない。

「僕が今できることはどんなことを言われようとも、思われようとも、自分は自分だということ。周りがプレーをするのではなく、僕がプレーをしていかないといけない状況なので、他責には一切せずに、かつ背負いすぎずに、準決勝に向けてもう一度自分としっかり向き合って、プレーに反映させていきたいと思っています」

 こう口にしてスタジアムをあとにする彼の表情は引き締まったように見えた。次の舞台は国立競技場。より多くの注目が集まる中でも彼は自分らしく、今持てる力を精一杯発揮する。その取り組みが今後のさらなる財産になっていくことを信じて。

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