現代の中学生に驚き「面白いもので」 元J選手→コーチ転身…舌を巻いた理解力「うちの選手だから」【インタビュー】

引退後、指導者として第2のサッカー人生を歩む森勇介氏【写真:江藤高志】
引退後、指導者として第2のサッカー人生を歩む森勇介氏【写真:江藤高志】

川崎OB森勇介氏、アカデミー指導者としての日々で抱く心境

 かつて川崎フロンターレに6シーズン在籍し、主にサイドバックとして活躍した森勇介は今、アカデミーコーチとして川崎U-15生田を指導する日々を送る。現役時代、ラフプレーの多さから「悪童」との呼び名も。2018年に現役引退を発表し、プロ生活に幕を閉じた。今季からU-15生田の久野智昭監督を支えつつ、U-14の監督として指導の現場に立っているなか、子供たちを見守る今の心境に迫った。(取材・文=江藤高志/全3回の3回目)

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 森の指導により、技術とメンタルを鍛えられたU-14の子供たちが1学年上の子たちとともに、今年U-15のクラブユース選手権で初優勝を手にした。この大会に久野監督をサポートする形で帯同した森は、ヒリヒリした空気感を子供たちに経験させられたことが大きかったと述べている。

「ああいう、ひりつく舞台ってなかなか経験させてあげられないから。中2なんかは、全然まだ公式戦がなくて、準公式戦ばかりで、別に負けてもいい試合ばかりなので。だけど本当に一戦一戦、駄目な時もありますけど、すごく一生懸命ハードワークしてくれているところは、見ていて気持ちいいと思います」

 そして1年間を通して指導してきた教え子たちについて「やっぱりうちの学年も、全国を獲れる力があるんじゃないかなと思ってやっている。今のところは」と来年の活躍に期待を寄せつつ「連覇させる、しなきゃ駄目だなという話はしてます」と語気を強めた。

 毀誉褒貶(きよほうへん)の激しい現役時代を経て人間的な懐の深さが感じられる森は、メンタルと技術を鍛えられてきた選手たちにどんな戦術を身につけさせているのだろうか。

「今やっているのは4-3-3です。(下から鍛えられて上がってきた)うちの選手だからできるサッカーかもしれないです」

 興味が湧いたので簡単に説明をしてもらった。まず「守備だけは決まりごとがあって、フォーメーションを与えている」のだという。守備時にはその決まりごとに応じて守る。その一方で攻撃時には「自分たちで相手を見て、動かし方を自分たちで考えて進めている」のだという。そうしたサッカーを「やっていいよ」と指示していると話す。

 年初から指導を受け始めた子供たちが「10月、11月ぐらいからそのフェーズ(攻撃時に自由に動く形)になってきました」と目を細める森。ただし、理解度が足りていない選手がそれをやると「めちゃくちゃになっちゃう」ため、そうした場面を見ては「ずっと切れてます」と苦笑する。ただ、ここ最近は「だいぶ、皆分かってきた」という状態になってきたとのことで、切れることは減っていると言う。そんなU-14は良く言えば少数精鋭だが、逆に言うと人数が少な目なため、知恵と工夫でカバーする必要があるとのこと。

「人数がいないから12人ぐらいで練習をやってます。紅白戦も11対11ではできないんですが、(局面を)切り取って、こういうふうに動かしていこう」と指導しているとのこと。試合全体の中のある1つの局面を切り取って指導するのはオーソドックスな手法で、それにより「面白いもので中学生って理解するんですよね。もっと時間がかかるかなと思ったけど、意外と早く2~3か月で4-3-3はいけました」と選手たちの理解力に舌を巻いた。

 ある意味、森の想像を超える成長を遂げたU-14の子供たちとともに、森は来年U-15に持ち上がっていくのかどうか。指導者としての今後の動向を訊くと「あいつら、もう疲れちゃうんじゃないですか? 俺だと(笑)。甘やかしてもらえる期間も必要だから、多少は」と笑った。

 サッカーが上手いといってもまだまだ子供。教え子たちをすり潰さない配慮から優しさが透けて見えた。そんな森に指導されたU-14の選手たちは、主軸になる来年の夏のクラブユース選手権で連覇を果たすことができるだろうか。森との関わりも含め、楽しみが1つ増えた。

 そして、森の将来も楽しみだ。将来的にProライセンス(旧S級)を取得してトップチームにも関わり始めるのかどうか。超攻撃的なサッカーが見られそうな気がするが、そんなこれからの指導者人生にも期待したい。

[プロフィール]
森勇介(もり・ゆうすけ)/1980年7月24日生まれ、静岡県出身。清水東高-ヴェルディ川崎-ベガルタ仙台-京都パープルサンガ-川崎フロンターレ-東京ヴェルディ-FC岐阜-SC相模原-沖縄SV。現役時代は闘志あふれるプレースタイルで、主にサイドバックとして活躍。2018年に現役引退し、指導者の道へ。今季から川崎U-15生田コーチに就任した。

(江藤高志 / Takashi Eto)



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江藤高志

えとう・たかし/大分県出身。サッカーライター特異地の中津市に生まれ育つ。1999年のコパ・アメリカ、パラグアイ大会観戦を機にサッカーライターに転身。当時、大分トリニータを率いていた石崎信弘氏の新天地である川崎フロンターレの取材を2001年のシーズン途中から開始した。その後、04年にJ’s GOALの川崎担当記者に就任。15年からはフロンターレ専門Webマガジンの『川崎フットボールアディクト』を開設し、編集長として運営を続けている。

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