「運だけ」の野次も…変貌遂げるサッカー伝統校 「たぶん全国で一番」の自負と得難い人生経験【コラム】
選手主体のボトムアップ方式を採用する堀越高校、2年連続で選手権ベスト8入り
選手主体のボトムアップ方式で活動する堀越高校が、2年連続で高校選手権ベスト8入りを果たした。ベスト4まで勝ち上がった昨年度の最終ライン4人とアンカー(今年度はボランチ)がそのまま残っていたことを考えれば、国立へ進めなかったことには一抹の寂寥感が残ったかもしれない。しかし反面、最近5年間で3度もベスト8以上という安定感と勝負強さは「強豪校の仲間入りをしてきた」という佐藤実監督の手応えを十分に裏付けている。
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そもそも堀越は、あえて遠回りをしながらも、結果以上に成長を追求してきたチームだ。かつて勝利至上を競った高校サッカー界では、絶対君主の監督が卒業までの3年間で休みなく理不尽も含めた過酷なトレーニングを課してきた。決断はすべて指揮官が下し選手は従うしか選択肢がなく、またそれが伝統となっているからチームの方向付けは早かった。
それに対し堀越では、キャプテンが主導(ファシリテート)して下級生も含めた選手たちの声を吸い上げ闊達な議論を促しながら結論を導いていく。ただしその分、全員が理解、納得して真剣に取り組むから、まとまり始めるとチームのパフォーマンスが加速する。シーズン前半は振るわなくても、徐々に選手権へ向けて仕上げていくのも「敗戦も必要な経験値として積み上げ」(佐藤監督)栄養にしていくからだろう。
最近5年間で4度全国選手権の切符を手にした堀越だが、いずれも結末は力負けだった。逆にそこまでの接戦はすべて勝ち抜いているわけで、この勝負強さは伝統にもなりつつある。例えば今回の2回戦の津工業戦も、後半に均衡を破るまではどちらにもチャンスが訪れる拮抗した状態が続いた。それでも「しっかり守る時と前からかけられる時をピッチ上の選手たちが共有することで」(佐藤監督)打開への道を切り拓いていった。
「結局最後に一番なんとかしたいのは選手たちです。逆に監督が分析をしてプランを立て采配をふるっていると、エラーが起きて上手くいかないことも多い。競った試合をモノにしてしまう彼らには底力があるし、改めて本当に凄いな、と思います」(同監督)
人としての成長と達成感、同時に結果も追求できる贅沢は組織に
昨年ベスト4に進出したことで、膨れ上がる期待や高評価と同時に、野次や批判も入り乱れ雑音が急増した。
「運だけで勝ち上がった」
「格上には勝てない」
竹内利樹人主将は「それを見返したくて自分たちでゼロから積み上げてきた」と言う。
「だから自分がやってきたキャプテンとしての言動には胸を張れるし、理想像の90%は達成できたと思う。残り10%は結果ですが、ボトムアップのキャプテンとして、たぶん全国で一番自分が(多様なことを)やってきたと自負しています」
堀越高校サッカー部は、人としての成長と達成感を促し、しかし同時に結果も追求できる贅沢な組織に変貌を遂げてきた。最初はボトムアップ方式に面食らう選手も多く試行錯誤が続いたが、今では選手たちもそれを当然のことと受け止めて入学してくる。
「自分たちで作り上げていくのは、すごく楽しいと思いますよ。責任を持つことで、話し合いのクオリティーも確実に高まり、詰めるべきところはしっかりと詰めている。こうして出来上がった好きなサッカーを、みなさんの前で表現できる。人生の中で、なかなか得難い経験だと思いますよ」(佐藤監督)
当初は奇異にも見られがちだった尖ったスタイルで、堀越はここまで上り詰めてきた。
「まだまだ足りないことはたくさんある。でも夏以降の成長スピードの加速は間違いないし、この喪失感(準々決勝敗戦)もここまで来たからこそ味わえる。今度はプレミアやプリンスで戦う格上相手にも力で対抗できるように、足りない部分は今回プレーした選手たちがしっかりと伝えてくれるはずです」
多くの選手たちが文字どおり満喫した濃密な部活。佐藤監督は「いつかこのスタイルで日本一を」という大望に、また一歩近づいたはずだ。
(加部 究 / Kiwamu Kabe)
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。