J内定も国立に辿り着けず涙 “10番”が継ぐべき凡事徹底の系譜…川崎入りDFはJ先輩から金言【コラム】
選手権で敗退したプロ内定選手2人、嶋本悠大と野田裕人にフォーカス
流通経済大学付属柏(流経大柏)、前橋育英、東福岡、東海大相模がベスト4に進出した第103回高校サッカー選手権大会。彼らは1月11日に東京・国立競技場の舞台に立つわけだが、それが叶わずにいち早く敗退を余儀なくされた有力校も少なくない。筆頭と言えるのが、12月15日の高円宮杯U-18プレミアリーグ・ファイナルを制した大津だ。
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今回のチームには190センチの大型DFのキャプテン五嶋夏生やプレミアリーグWEST得点王の山下景司らユース年代屈指のタレントが集結。大津を強豪校へと育て上げた平岡和徳テクニカルアドバイザー(TA)も「今年は絶対に優勝したい」と勝利への凄まじい意欲を前面に押し出していた。
しかしながら、2日の3回戦で流経大柏とぶつかり、相手の徹底した背後狙いの攻撃に苦戦。2失点を喫し、志半ばで大会を後にすることになった。
「この会場(フクダ電子アリーナ)は流経にとってはホーム。去年も同じ3回戦で浦和・駒場で昌平に負けましたけど、どうしても我々にとってはアウェーの環境になる。それを乗り越えないと頂点には立てない」と山城朋大監督もしみじみと語っていたが、首都圏開催の選手権はどうしても関東勢が有利になる。地方のチームは頭抜けた実力がなければ優勝への道は開けないのだろう。
エースナンバー「10」を背負う清水エスパルス内定の嶋本悠大も、そんな厳しい現実を突きつけられたことだろう。流経大柏戦では小学生の頃から共闘してきた五嶋の同点弾を演出するいい動きを見せたが、相手より消化試合が1つ多かったせいか、中盤のデュエルの争いで負ける場面も目につき、本来のプレーを出し切れたとは言い切れなかった。
「自分たちも勝つチャンスがあった中でそれをモノにできなかったのが一番悔しい。2年生から選手権を経験している選手が多くいる中で、これ以上の全国制覇のチャンスはないと思っていた。本当に悔しいです」と彼は人目をはばからず号泣していた。
清水で研鑽を積み海外へ…鈴木唯人のような成長が理想
ちょうど5年前の2020年1月。同じフクアリで号泣したのが、市立船橋から清水に進んだ鈴木唯人(ブレンビーIF)だ。市船のエースナンバー「10」は2回戦で日章学園に抑え込まれ、無得点で終了。その悔しさをバネに清水で1年目から頭角を現し、J1リーグ30試合出場を果たした。さらに2年目が終わった直後の22年1月には日本代表合宿にも呼ばれるまでになった。嶋本がそういう急激な成長曲線を描ければ理想的。偉大な先人の系譜を継いでいくしかない。
「プロに行って自分が試合に出ているのをみんなに見せて、『自分が頑張っているんだよ』というのを伝えられたらと思います」と本人も涙ながらに未来の成功を誓っていた。
今季の清水を見ると、生え抜きの宮本航汰を筆頭に、昨季は主にジョーカー起用された矢島慎也、昨夏に加入した宇野禅斗らがいるが、視野の広さと展開力に秀でた嶋本が割って入る余地が全くないとは言い切れない。もちろんフィジカルコンタクトや球際、強度など改善の余地はあるものの、非凡な潜在能力を引き出せれば、試合に絡むチャンスはありそうだ。
「U-19でも攻撃の部分は良さを出せることが多かったけど、守備の部分でポジションに戻るとか行くべきところは行くとか基本的な原則を突き詰めていく必要がある。もともと体力には自信がある方ですけど、その使い方も考えていかないといけない。判断力も磨いていかないといけないと思います」と12月19日のU-19日本代表対流通経済大学との練習試合後にもやるべきことを明確に見据えていた。
大津出身は谷口彰悟(シント=トロイデン)、植田直通、濃野公人(ともに鹿島アントラーズ)を見ても分かる通り、「凡事徹底」が浸透している。自分がやるべきことを愚直に突き詰める力は際立っている。そのDNAが引き継がれている嶋本が今季J1で多くの人々に驚きを与えてくれることを期待したいものである。
静岡学園は5年連続となるPK戦での敗退…川崎内定DF野田も涙
大津に並ぶ優勝候補と位置付けられていた静岡学園も、等々力競技場で行われた1月5日の準々決勝で東福岡にPK負けしてしまった。静岡県勢は5年連続となるPK戦での敗退だというから、悔しさはひとしおだろう。
「今回のチームはオールAと言うのか、全体的に能力の高い選手が多い。ただ、松村優太(鹿島)や古川陽介(グールニク・ザブジェ)のようなドリブルでフィニッシュまで持っていけるスーパーなアタッカー、神田奏真(川崎フロンターレ)のような点取り屋がいなかった」と川口修監督も評していたが、勝負決定付けられる前線の人材不足は確かに目についた。
そんななか、川崎フロンターレ内定のキャプテン野田裕人は右サイドバック(SB)のポジションから頭脳的なインナーラップを披露。縦関係を形成する神吉俊之介、原星也らと絡んで決定的チャンスを作り出そうとトライし続けた。しかし最後までゴールをこじ開けられず、PK戦では4番手に登場し、まさかの失敗。今年から本拠地となるスタジアムで辛い結末を強いられたのである。
「冷静に入ったつもりではいましたけど……外しちゃいましたね。どこかで気持ちが高ぶっていたところもあったのかもしれないし、GKが大きく見えたところもあったのかもしれないですね……。フロンターレサポーターの方々も来てくださったのに、悔しい姿を見せてしまったので『自分はこんなもんじゃないよ』っていうのをこのピッチで見せるように頑張っていきたいと思います」と本人は試合後に見せた涙をしっかりと拭って、先を見据えていた。
プロに必須な“フィジカル”をOB関根が説く
川崎には大島僚太、田邊秀斗、神田と静学出身が3人いて、向島建スカウトも大先輩だ。元々性格的に明るく、ハキハキと自分の考えを口にできる野田はそういった人々のサポートを受けながら、プロの世界に迅速に適応できるだろう。
ただ、右SBで出番を得るのは簡単なことではない。指揮官が鬼木達監督から長谷部茂利監督に変わるとはいえ、昨季試合に出ていた佐々木旭やファンウェルメスケルケン際らが序列的に上と見られるだけに、その牙城をいかにして崩していくかがポイントになる。
「選手権前に関根(大輝/柏レイソル)さんが(静学の)谷田グランドに来てくれたんですけど、プロで戦うにはフィジカルがないとダメというのもイメージできたし、やっぱりチームメートの信頼を掴まないと試合には出られないし、パフォーマンスも出せない。強度にも慣れないといけないし、もがくしかないかなと思います」と本人も気合を入れていた。
タイプ的には2022年カタールワールドカップ(W杯)日本代表の山根視来(LAギャラクシー)に通じる攻撃的な右SBだが、長谷部サッカーの中では守備力は必須。その基準をどう引き上げていくのか。プロ1年目から本気で勝負に打って出てほしい。
選手権を経て、プロ入りする高卒選手は年々少なくなっているが、だからこそ、J1にチャレンジする18歳の若手の動向は大いに気になるところ。その一挙手一投足を注視していきたいものである。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。