東南アジアからオファー殺到も「帰国」 札幌から受けた衝撃…日本人監督が成功した理由【コラム】
岩政新監督「みなさんもミシャさんのオリジナルの絵を感じていましたよね」
監督に求められる要素で、最も大事なものとは何なのか。今シーズンからJ2の北海道コンサドーレ札幌を率いる岩政大樹新監督は、自信満々に「オリジナルの絵があるか、ないかですよね」と語る。(取材・文=藤江直人)
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「ほとんどの監督さんは言いますよね。就任会見などで『攻撃的なサッカーを作ります』と。でも、どれだけの監督が攻撃的なサッカーを作ったのでしょうか。監督にオリジナルの絵が見えていればどのような局面になっても指摘ができますけど、なければ結局、蹴って走れ、球際で戦え、絶対に負けるな、で終わるから絵が見えてこない。そもそもですが、絵が見えていない監督の下では、攻撃的なサッカーにはなりません」
岩政氏自身、12月12日に実施された札幌監督への就任会見で「僕は誰かのマインドを真似するのが大嫌い。監督がオリジナルの部分に確信をもって進めるのがすごく大事」と目指すサッカーの青写真を明かした。
その直後、同14日に行われた川崎フロンターレひと筋で活躍した中村憲剛の引退試合に参加した岩政氏は、就任会見で言及した「オリジナル」について、熱い口調で持論を展開している。
「青写真というか、僕のなかにはもう絵があるので。例えば色が見える監督には、試合中に『この場面ではこうすべきだ』といったオリジナルの絵があるんですね。それが見えれば、練習でどのような局面でも指摘ができます。選手にそれをいつ、どのように指摘するかは、指導とはまた別の側面になってきますが、練習通りのプレーを試合で選手がすれば、それがオリジナルの絵になる、というだけの話だと思っています」
岩政氏は古巣・鹿島アントラーズのコーチを務めていた2022年8月に、レネ・ヴァイラー監督の解任に伴って監督に就任。プロの世界で初めて采配を振るい、同シーズンは4位、フルで指揮を執った2023シーズンは5位でリーグ戦を終えた直後に契約満了で退任した。スペインの育成年代で指導者のキャリアを積んできた坪井健太郎氏を新たなコーチとして招聘するなど、2022シーズンは斬新な組閣も大きな注目を集めた。
「鹿島での1年半だけを切り取れば、4位および5位という成績と、一応ピッチ上で起こしかけていたサッカーも、僕のなかではオリジナルとは言い切れなかったと思っています。失敗ではないんでしょうけど、そう(成功)とも言い切れない順位で終わったとは認識していますが、そういう(坪井)コーチを呼んだなかで自分にも見えたものがありました。自分は特に攻撃の部分でアイデアをもらいたくて呼んだところもあったので」
鹿島のコーチおよび監督時代に札幌と対戦したときに、敵将ミハイロ・ペトロヴィッチ監督のサッカーから、はっきりとオリジナルの絵が感じられた。2シーズンにおけるリーグ戦の対戦成績は鹿島の3勝1分だったが、自分たちの哲学やフットボールに確信をもって向かってくる札幌に、深い感銘を受けたという。
「みなさんもミシャ(ペトロヴィッチ監督の愛称)さんのオリジナルの絵を感じていましたよね。ミシャさんはこの場面ではこうすべきだという絵があり、それが選手たちに伝わって、なおかつ具体性があるから選手たちも理解する。ミシャさんのものを真似したようなサッカーはたくさんありますよね。でも、それはオリジナルじゃないですよね、という話です。オリジナルとはそういうことです。オリジナルの絵があればサッカーはオリジナルになるし、そのなかで経験したことのないものが見えてくる。それが監督の色になる、という感じです」
鹿島を退任した岩政氏は昨年2月、ベトナムリーグへ新天地を求めた。不振から監督交代が相次いでいたハノイFCの新指揮官に就任。シーズン途中の就任ながら、ハノイを最終的にはリーグ戦で3位、カップ戦では準優勝に導いた。そのときにはオリジナルの絵が見えていたのか。岩政氏が不敵な笑みを浮かべる。
「映像がたくさん残っていますので、それを見て、それ(オリジナルの絵)があるかどうかを判断してください。ただ、それがあったからこそ、いま僕は東南アジアでたくさんのオファーをもらったと思っているので」
ハノイからは引き続き2024-25シーズンの指揮を執ってほしいとオファーを受けた。しかし、機は熟したと判断したからか。岩政氏は「新たな挑戦を求めて帰国したい」と固辞して日本に戻ってきた。
挑戦の舞台が、すでに昨シーズン限りでのペトロヴィッチ監督の勇退を発表していた札幌だった。新天地でどのようなサッカーを見せるのか。オリジナルの絵をすでに描いていると、岩政新監督はこう続けた。
「おそらく試合を見るほとんどの方は、まったく違うサッカーをやっていると思うはずです。ただ、自分のなかでは鹿島で見えたものの延長線上にいまの絵があって、それが分かる人には分かるかもしれないけれども、実際に見える配置とか選手のつながりやピッチ上で起こっている現象は全然違うものになっているでしょうね。
それがなぜできるのかといえばいろいろな側面があって、自分のなかでしっかりと絵ができあがったのもひとつですが、クラブによってそういうサッカーを望むクラブと、そうではないクラブがありますので。そこに合わせるとか、僕がクラブを変えるまでの時間がどのぐらい必要か、というのはクラブによって変わってくると思っています」
監督就任のオファーを受諾して、指揮を執る作業はチームとの“結婚”によく例えられる。岩政氏もそうした関係を否定しないが、ハネムーンの時期はもう終わったと苦笑する。
「最初は楽しみで始まりますが、その後は苦しいことが次から次へと続くので。それを地道に乗り越えていった先にいいときがたまにあるくらいかな、という感じなので。札幌でも楽しみというよりはもういろいろと動き出していますし、自分の頭をあれこれと巡らしている状態なので、楽しみという時間はもう過ぎました」
昨シーズンの札幌はJ1リーグで19位に終わり、今シーズンは9年ぶりに戦いの舞台をJ2へ移す。
「札幌はミシャさんのアイデアを汲んだコーチたちに、いろいろなことを聞きながらまた組み上げていきたい。これから先、10年ぐらいはどんどん成長して、もっともっと面白い絵を描ける監督になっていきたい」
異国の地で充電を終え、新シーズンの開幕直前には43歳になる青年監督は、1年でのJ1復帰や捲土重来の思いだけでなく、成長への貪欲な思いを胸中に同居させながら、北の大地で新たな挑戦をスタートさせる。
(藤江直人 / Fujie Naoto)
藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。