GK策略に「乱されることがなかった」 座り込み&踊り…“珍プレー”に動じないPK練習の成果
尚志GK針生東がPK戦を前に動きで相手を惑わす
12月29日、NACK5スタジアムで行われた第103回全国高校選手権大会1回戦で3年ぶりに晴れ舞台に戻ってきた東福岡(福岡)が、難敵の尚志(福島)との(高円宮杯)プレミアリーグ同士の決戦にPK戦勝ち。ユニホームの色にちなんだ愛称“赤いすい星”が、攻守に非の打ちどころのないPK戦を演じて見せた。
シュート数は尚志の7本に対し東福岡は4本で、コーナーキックも5本と4本で劣った。後半11分に右サイドバック(SB)福川聖人の放ったシュートはGK野田馨の正面を突き、13分の左MF神渡寿一の右足シュートもGKに捕球されてしまい、好機をものにできなかった。同3分の追加タイムが終了し、前後半を終えて0-0のままPK戦決着へと持ち込まれた。
尚志はPK戦を睨み、後半アディショナルタイムにGKを針生東に交代していた。先蹴りの東福岡センターバック(CB)山禄涼平がボールをセットし、助走を取るために後ろに下がった。その瞬間、会場がざわめいてきた。針生はキックの直前まで小躍りし始めたのだ。これに全く動じない山禄は、矢のような一撃を左隅に沈める。
針生はその後、2番手から最終5人目のキッカーまで、座り込みや手をこまねくポーズ、横にステップを踏む踊りなどでかく乱。しかし東福岡の選手は2番手の神渡、3人目のMF児玉愁都、4番手のMF佐藤宏耀とも正確無比なキックを蹴り込んで次々と決めていく。
背番号10の児玉は「PK戦になった瞬間、やってやろうという気持ちでした。キーパーの変則的な動きですか? 全然乱されることがなかったし、コースに思い切る打つことだけを考えました」と言い、鋭い右足の弾道はGKの逆を突いて右隅に突き刺さった。
GK後藤洸太が尚志の4人目のシュートを左に跳んでストップ。派手なガッツポーズを2度作った。「練習では全然止められなかったので、PK戦にはなるなよって思っていたんです。あのシュートは読みが当たりました」と191センチのGKは、記者を見下ろしながら解説した。
これを決めれば勝利という5番手のFW齊藤琉稀空が右に蹴り込んで勝負がついた。抱き合う選手、応援席へ駆け出す選手、ベンチの面々もピッチになだれ込んで喜びを爆発させた。
「PKの2部練習」も実施…監督が成果に喜び
長らくコーチを務め、今春指揮官となった卒業生の平岡道浩監督は「PK戦になっても後藤は大柄なので、(ゴールの幅が)7メートル32センチではなく(相手にとっては)6メートル、5メートルの感覚ではないでしょうか。甘いボールさえ止められればと思っていた。やっぱり大きいキーパーがいると違いますね」と喜んだ。
キッカーの側に立ったPK練習にも余念がなく、試合の1週間前から練習するそうだ。平岡監督は「PKの2部練習の成果が出ました。ゴールポストのライン上に正確に蹴るトレーニングですね。(相手GKの陽動作戦もあったが)キッカーはしっかりコースに蹴るだけでした」と慌てず騒がず、沈着冷静にJリーグのGKでも手の届かないコースに打ち込んだイレブンを褒めた。
0-0というスコアだけを見たら平凡な試合と勘違いされそうだが、今年はともに高校生年代最高峰のプレミアリーグで戦った一線級の選手が勢ぞろいしたチーム同士の決戦だ。たとえPK戦であっても、心理戦を含めた厳しい戦いとなり、見事に制した東福岡は2回戦以降、さらに強くなって正智深谷(埼玉)に立ちはだかることだろう。
指揮官は「今日は0-0か1点差の試合になると思っていた。PK戦は想定していなかったが、みんなが自信を持ってしっかり自分のコースに蹴ることができた」と言い、相手GKの“珍プレー”に惑わされなかった選手のメンタルの強さが誇らしそうだった。
河野 正
1960年生まれ、埼玉県出身。埼玉新聞運動部で日本リーグの三菱時代から浦和レッズを担当。2007年にフリーランスとなり、主に埼玉県内のサッカーを中心に取材。主な著書に『浦和レッズ赤き激闘の記憶』(河出書房新社)『山田暢久火の玉ボーイ』(ベースボール・マガジン社)『浦和レッズ不滅の名語録』(朝日新聞出版)などがある。