静学ドリブラーがピッチにもたらした波及効果 「あえて」のワンプレーが生む独自スタイル
途中出場MF鵜澤のプレーも起爆剤に
第103回全国高校サッカー選手権の1回戦、12月29日に浦和駒場スタジアムで行われた第2試合では優勝経験校の静岡学園(静岡)が広島国際学院(広島)に2-0で勝利した。さまざまな選択肢があるなかでも、「あえて」自分で1つチャレンジを入れる静岡学園のスタイルが後半に復活した試合だった。
序盤からボールポゼッションを高めた静岡学園は、前半17分にFW篠塚怜音が力強く中央を割ってGKにシュートを当てながらもこぼれ球を押し込んで首尾よく先制に成功した。しかし、その後は川口修監督が「先制点は大きかった」としたものの、「今日のゲームは固さがあって、なかなかテンポが出なかった」と話す展開に陥った。
その言葉の中身を指揮官は「ショートパスとドリブルが少ないんですよ。結局、相手の守備が固めているのに対して背後、背後と。前半なんて長いボール主体になっている。長いボールも狙いたいけど、ショートパスで相手を動かして引きつけてからの裏をやりたかった。選手たちがやっぱり、緊張と絶対に勝ちたいという気持ちが前に出すぎていたのがありましたね。今年の課題ですけど、ボックスの中のシュートの精度。相手GKの出足も良かったけど、それを見ながらタイミングを外して打たなければいけないのを焦って打ってしまっている」と話した。
センターバック(CB)を務めたキャプテンのDF岩田琉唯も「後ろから見ていて、みんな硬くなっていた。相手の最終ラインが高い設定だから裏を取りにいくのは良いと思うけど、緊張して縦に速くなってしまっていた」と反省点を語っている。
それを打開した1つはハーフタイムに少し落ち着きを取り戻したことと、「改善したかったので左サイドを少し変えた」と後半から投入されたMF鵜澤浬のプレーもあったかもしれない。高いテクニックの局面打開を随所に見せると、その姿勢はピッチ全体に波及した。各所で積極的にドリブルを仕掛ける、突破するだけでなく相手を引き付けて逆を取ってからパスやワンツーを始めるなど、場合によっては“欲張り”に見えるようなチャレンジを多くの選手が連続させていく静岡学園らしさが復活していった。
シンプルな展開から追加点も「やっぱり自分たちのスタイルで」
そして後半25分にはオフ・ザ・ボールの動きで相手の逆を取った湯澤の背後にボールが出て、ここではシンプルなワンタッチクロスを選択した湯澤のボールを受けたFW乾皓洋がボールを1つ止めて相手GKの体勢が崩れるのを見極めて決めた。乾が見せた最後の一工夫はゴールを確実に決める素晴らしいプレーになったが、それまでの展開はこの試合で作った決定機の中でもかなりシンプルなものだった。
川口監督も「点を取る時は本当にシンプルで、ダイレクトで打ったりワンタッチパスが入ったりというのが、比較的そっちの方が入りやすい」としつつ「だけど、なんですよね」と言葉を区切る。「やっぱり自分たちのスタイルで、ボックス内でのプレッシャー、ブロックを剥がして取るのもウチのスタイルでもあるんです。乾も前半3本外していましたけど、そこは頭を整理してやれたのかなと思います」と振り返った。
最後方からドリブルで持ち上がるようなプレーも出るようになっていったが、岩田は「静学はどのポジションでもドリブルができないとレギュラーにはなれない。後ろから蹴るのをあまり好むサッカーではないので、そこにはほかと違ってすごい魅力があって、後ろからドリブルで剥がしに行くのはほかにないものだと思う。(前線では)エゴが出るというか、自分の良さを出すためにドリブルでいくのは悪いことではないと思うし、チャレンジしてのミスだったら構わない」と、チーム全体にある“イズム”を明かしている。
高い技術をベースに、相手を見て、逆を取って仕掛けていく。31日の2回戦で対戦する高知(高知)は、徹底したロングスロー戦略とショートカウンターを見せながら初戦を勝ち抜いてきた。それでも川口監督は「(高円宮杯)プレミアやインターハイでもものすごく投げられたので多少の免疫はありますからね。自信を持って守りたい」と話す。勝敗の行方は別にして対極的なスタイルの両者の対決になりそうだが、だからこそ「あえて」の1プレーを入れる静岡学園のスタイルが際立つ展開にもなりそうだ。