プロ熱視線…関東&関西勢ボランチに「負けていない」 名門国立大から狙う“2人目のJリーガー”
広島大3年生MF香取潤が遂げた目覚ましい飛躍
戦前からの歴史がある旧官立大学の1つで難関国立大である広島大学。あまりサッカーのイメージはないかもしれないが、近年サッカー部は全国の舞台でメキメキと頭角を現している。
一昨年度のインカレに25年ぶりの出場を手にすると、昨年度のインカレベスト16、今年度の総理大臣杯でベスト16と目覚ましい成績を残している。この躍進の中心人物となっているのが、ボランチを務める3年生MF香取潤だ。
1年時から不動の攻守の要として君臨し、デンソーカップチャレンジサッカーで中国選抜としてプレー。そこで活躍したことで、プレーオフで敗れた北海道、北信越、中国・四国、九州の選抜の中からさらに選出されたプレーオフ選抜にも入り、憧れだった中村憲剛コーチから直接指導を受けることができた。
昨年度は全国の舞台でずば抜けたセカンドボールへの反応と回収技術、球際の強さと展開力という武器を発揮。昨年度は総理大臣杯、インカレで安定したプレーと攻守のリンクマンとして絶大な存在感を放った。この活躍が評価され、デンソーカップチャレンジでは中国地域では唯一、U-20全日本学生選抜に選ばれるなど、目覚ましい飛躍を見せている。
彼はサンフレッチェ広島ユース出身。右サイドバックとしてプレーをしていたが、高3に上がる直前で左足中足骨を疲労骨折し、復帰は夏になってのことだった。
トップ昇格の夢は叶わないどころか、プロになるために進学を希望していた関西、関東の大学からも声がかからないなか、8月下旬に広島大から練習参加のオファーが届いた。
「周りの選手たちの進路がどんどん決まっていって、自分だけ取り残されている感覚が強かったなかで、いきなり地元の有名国立大から声がかかってびっくりしました」
サッカー部が強いと言うイメージは一切なかった。「関西や関東の大学に行ったほうが、レベルも高くて成長できるし、プロのスカウトが見てくれる機会が多いと思っていました」と口にしたように、中国地区の国立大に行くことによる機会喪失の不安はなかなか拭えなかった。
本人は困惑する一方で、両親は大喜びだった。そうした周りの反応や、上泉康樹監督から推薦の評点もクリアしていることを耳にして、名門国立大で文武両道を目指すことが自分にとってベストな選択なのではないかと考えるようになった。そして、悩みに悩んだ結果、広島大に入ることを決断した。
「覚悟を持って広島大学に来て一歩ずつ前に進んできた自信はあります」
もちろん、文武両道の末にプロの道が約束されているわけではない。関東や関西、九州の大学サッカーと比べると中国地区の大学サッカーはレベルも差があり、スカウトなどの目も届きづらいのは事実としてある。だが、そこも覚悟のうえでの決断だった。
「デンソーチャレンジカップで選抜に入ったり、総理大臣杯やインカレに出場できたりすれば見てもらえるチャンスはある。環境を言い訳にせずに、ここから上に這い上がっていこうと腹を括ることができました」
広島大サッカー部からJリーガーになったのは、長い歴史の中で村上一樹(元FC岐阜、現・アユタヤ・ユナイテッド)の1人のみ。しかもそれは2010年の出来事で、もう13年もの歳月が経とうとしている。
「いないならば、自分が何十年ぶりのJリーガーになればいい。その気持ちでいます」
その結果が前述した躍進だった。だが、今年は大きな壁にぶち当たっている。6月に右足首の前側の距骨にネズミ(軟骨や骨の欠片)が出来、軟骨を削ってしまっていることが判明して除去手術を行った。秋に復帰したが、「すぐには万全にはならないと医者から言われていて、完全に違和感が消えるまでは1年近くかかるようです」と口にしたように、3年連続で迎えたインカレもスタメン出場を続けたが、ベストなパフォーマンスは出しきれなかった。
それでもセカンドボールの回収やボールを集約してパスで散らす技術は光るものを見せたが、大会を通じて自分のプレーに納得がいかない歯痒い時間を過ごした。
「正直、違和感はまだ残っていて、どうしてもセカンドボールの予測やスペースの察知などが出来ていても、身体が思うようについてこないシーンが多々ありました。この大会は僕ら地方の大学にとっては見てもらえる貴重な舞台だからこそ、3年生でこの出来は歯痒さが残ります」
すでにJ3クラブの練習に参加し、ほかにもJ2クラブから熱視線を送られている。目の前にチャンスは転がっているだけに、今は焦らずに自分のコンディションを上げて、これまでやってきたことを信じて地道に積み上げていくしか道はないと、彼自身理解している。
「覚悟を持って広島大学に来て、今泉監督の下で一歩ずつ前に進んできた自信はあります。関東や関西で活躍する同級生のボランチには負けていないと思っていますし、名古屋グランパス入りが内定した筑波大の加藤玄選手や、明治大の島野怜選手などの存在は大きな刺激になっています。まずは自分のコンディションにしっかりと向き合って、自分を信じて、土台を築きながら積み重ねていきたいと思います」
努力は裏切らない。自分の覚悟はそんな柔なものではない。名門国立大学からJリーグへ。彼はひたすら信じて歩いてきた道を突き進む。
(FOOTBALL ZONE編集部)