もうすぐ42歳でも…痛感した「サッカーって難しい」 元代表MFの尽きぬサッカー熱【コラム】

南葛SCでプレーする今野泰幸(写真は2022年撮影)【写真:Getty Images】
南葛SCでプレーする今野泰幸(写真は2022年撮影)【写真:Getty Images】

南葛SCで過ごした1年「サッカーって怖さがあるなと心から思った」

 12月に入って中村憲剛(川崎フロンターレ・リレーション・オーガナイザー)、松井大輔(Fリーグ理事長)といった日本代表レジェンドの引退試合が続いている。

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 その両方に参加した1人が、彼らとともに2010年南アフリカワールドカップ(W杯)で戦った今野泰幸(南葛SC)である。当時のメンバー23人のうち、今も現役としてプレーしているのは川島永嗣(磐田)、矢野貴章(栃木)、長友佑都(FC東京)、そして今野だけ。1983年1月生まれの彼は最年長の現役選手ということになる。

 コンサドーレ札幌、FC東京、ガンバ大阪、ジュビロ磐田と国内4クラブでプレーした彼が関東サッカーリーグ1部の南葛SCに赴いたのは2022年のこと。「JFL昇格」を目指し、新たな環境に身を投じて3シーズンが経過したが、2022年は7位、2023年は6位、そして今季も6位。今野自身は10試合、14試合、16試合と出場試合数を年々増やしているのだが、高い壁を超えられずにいる。

 今季の南葛は川崎フロンターレの飛躍の基盤を作った風間八宏監督が就任。ボールを保持しながら敵を凌駕するスタイルにチャレンジし、サッカーの内容には確固たる前進が見られた。今野も単にボールを奪うことだけでなく、タテパスを前につける意識をより研ぎ澄ませようと精力的に取り組んだという。

「ホントに今年はトライの年だったと思うし、最初の方は意欲的にチャレンジしました。でも失敗を繰り返して消極的になった時期もあったし、改めてサッカーって難しいなと痛感しましたね。僕もこれまでボールをつなぐスタイルのチームでプレーしたことはありますけど、風間さんが求めるのはターンしてサイドに散らすというより、『タテにタテに』という形。パスも『中へ中へ』だからより難しさを感じます」

「これまでの自分はうまくて変化をつけられる選手に早くつなぐのが特徴だったけど、風間さんはそれじゃ使ってくれない。タテパスを入れようと前を見ていてガツっと取られたり、カウンターを繰り出されたりする時もあった。サッカーって怖さがあるなと心から思ったし、試行錯誤の繰り返しでしたね」

イジられキャラは変わらず、吉田麻也は「今ちゃんがひたすらいじられる」

 タテへの意識に目覚めた今野が、今回の2つの引退試合で中村憲剛と遠藤保仁(G大阪コーチ)という名手と久しぶりにピッチに立ったのだから、刺激は大きかったはず。特に風間監督体制の川崎をけん引していた中村憲剛のスーパーな球出しには目を見張るものがあったようだ。

「今回、憲剛さんとヤットさんと一緒にやってみて、やっぱり別格だなと思った。メチャメチャ刺激を受けました。実は憲剛さんは1回、南葛の練習に来てくれたんですけど、その時もプレーの1つ1つが凄かった。ホントに違うなとしみじみ感じました。自分もそれを求められているのは間違いない。ああいうプレーをスタンダードに毎試合やることを求められているし、そうしないとレギュラーにはなれないから。来年も大卒の若くていい選手が沢山入ってくるだろうし、その中で競争しなくちゃいけない。バチバチやって、勝っていきたいです」

 今野は間もなく42歳になるが、彼は年齢に関係なく常に純粋な気持ちでサッカーを追い求めている。そのピュアなところが今野の大きな魅力でもある。久しぶりに会った吉田麻也(LAギャラクシー)が「今ちゃんがひたすらいじられるんで『懐かしいな、この空気感』というのはありました」と笑っていたが、その真っ直ぐさ、ひたむきさがあるが故に、彼は多くの人々に愛され続けているのだ。

 ある意味で「サッカーの申し子」とも言えるこの男には、この先も長くピッチに立ち続けてほしいところ。同じタイミングで南葛入りした稲本潤一が今季限りでの現役引退を発表し、1つ年下の長谷部誠(日本代表コーチ)や4つ下の岡崎慎司(バサラ・マインツ監督)らも半年前にユニフォームを脱ぐなど、同じ時代を戦った面々が次々と去っていく傍らで、今野の「もっともっとうまくなりたい」という向上心は衰えを知らない。

「こういう引退試合に来ると、『俺も迫ってきてるな……』とは感じますよ。でも、現状維持だともう先はないという感じかな。少しずつでも成長しないと、この世界では生き残っていけない。それだけ厳しい世界だなと感じます。だから、来年も自分の成長、チームの勝利を考えてやっていきたい。40代になって特別に取り組んでいることはあるわけじゃないけど、やっぱりいいトレーニングを100%やっていくこと。それを続けていくだけですね」と、彼は新たな決意を口にする。

 JFLに昇格するためには、関東リーグ1部で優勝するか、全国社会人サッカー大会で上位に入って、全国地域サッカーチャンピオンズリーグ(地域CL)に駒を進め、ここで勝たないといけない。このハードルの高さはJFLからJ3昇格とは比較にならないほどの狭すぎる門。地域CLのハードな連戦など課題も多く、制度改革の必要性を訴える声も少なくないが、現状ではこれを勝ち上がるしか、上のカテゴリーには辿り着けない。4シーズン目を迎える今野がそのけん引役になってくれれば理想的。どこまでも高みを目指して走り続けてほしいものである。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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