遠藤航への懐疑論「愚かだった」 指揮官も名指しで称賛…今季初の90分で示した「ここにあり」【現地発コラム】

リバプールでプレーする遠藤航【写真:Getty Images】
リバプールでプレーする遠藤航【写真:Getty Images】

敵地でサウサンプトンを下したリーグカップ準々決勝

「凄い」――遠藤航の90分間には、この一言しかなかった。リバプールが、アウェーでのリーグカップ準々決勝でサウサンプトンを下した(2-1)、12月18日。この日、移籍2年目の日本代表キャプテンはクラブでも後半からキャプテンマークを付け、チームのベスト4進出を支えた。

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 守備の要でもあるフィルジル・ファン・ダイクは、自宅で完全休養のカップ戦。同じCB(センターバック)陣では、イブラヒマ・コナテも怪我で不在だった。試合4日前のリーグ戦から8人が入れ替えられたスタメンには、ただでさえ若手も多かった。

 その一戦に、中盤ではなく最終ラインの中央で先発した遠藤は、イングランド北西部から南岸のサウサンプトンまで、約380キロの距離を駆けつけたサポーターによる“口撃”にも力を与えたと言える。マイボール時、特に2点をリードした前半には、1列上がっての攻撃参加も目に付いた。同32分の2点目では、アシストのアシストをこなしている。

 力強い守りにも、スタンドの「12人目」は歓声を上げずにいられない。遠藤のデュエル勝利は、11回を数えた。3回のタックル成功もチーム最多の数字だった。

 元ブンデスリーガ「デュエル王」のスタッツとしては、驚くほどのものではない。だが、今季のリバプールでは状況が違う。アルネ・スロット新監督は、8番タイプのライアン・フラーフェンベルフを6番役に抜擢。当人も期待に応えているなか、本職6番は、12月14日の第16節(消化試合数は15)まで、プレミアリーグでの出場時間が途中出場のみの計20分程度に限られていた。

 リーグカップでの前回先発からも、ほぼ1か月半が過ぎていた。加えて、リバプールでは前例のないCBとしての先発。さらには、横殴りの雨が降るピッチ上でもあった。

 普通ならば、試合勘の鈍りや、アピールにはやる精神状態が見て取れても不思議ではない。例えば、チームメイトのコスタス・ツィミスカス。故障明けだったとはいえ、ハーフタイムを境にピッチに立った左SB(サイドバック)には、投入後の数分間だけで2度のミスパスがあった。

指揮官が認めた遠藤のクオリティー

 その点、遠藤には鈍りも焦りも見られない。バランスを崩した体勢で試みたくさびのパスをカットされ、敵のカウンターを招いた場面はあった。だが、その前には、アタッキングサードでのワンツーで得点に絡んでもいた。

 後半14分の失点は、自身がセンターサークル内で倒れていた間の出来事だった。相手MFがライン越しに届けようとしたボールは、距離を詰めていた遠藤の顔を直撃。こぼれ球を拾ってシュートに持ち込んだキャメロン・アーチャーには、CBコンビの相棒だったジャレル・クアンサーが、楽に打たせすぎたと思える場面でもあった。

 むち打ちになりそうな勢いでボールが顔面を直撃した遠藤には、終盤に右肩を押さえるようにしてうずくまる姿も見られた。それでもなお、相手1トップがもたらす危険を未然に防いでいた。身長2メートルのポール・オヌアチュが敵の前線に投入されても、空中戦を含めて無難に対処し続けた。

 マン・オブ・ザ・マッチには、ダルウィン・ヌニェスとハーヴェイ・エリオットという、両リバプール得点者のいずれかを選ぶ国内メディアが多かった。試合翌日、筆者が手に取った「デイリー・ミラー」紙の言及は、後半16分にサウサンプトンのベンチを出る否や、ピンポイントのクロスでチャンスを演出した菅原由勢と同じ1行のみだった。

 しかし、影の功労者の活躍は、然るべきリバプール関係者の目には留まっている。筆頭格はスロット。試合後の会見で、「あえて個人を褒めるとすれば、ワタ(呼称)・エンドウになる」とした指揮官は、ピッチ上で確認された選手、そして個人としての「クオリティー」を理由に挙げている。

 だからといって、中盤の底に攻撃的な選手を好む嗜好性が変わり、遠藤がプレミアでも先発を重ね始めるような展開は想像し難い。ただし、戦力としての評価の高さは、この試合でのCB起用自体からも窺い知れた。

 直前のリーグ戦後は2日間のオフだったことから、事実上の準備期間は試合前日のみ。ジョン・ストーンズ(マンチェスター・シティ)のような「はまり役」が珍しいアンカーとの兼任役は、新監督が遠藤の「フットボールIQ」の高さをも認めていればこその決断だったはずだ。

国内外4冠へ、ライバルには見られない頼もしい戦力

 そして、一部には「もう要らない」との声も出始めていたサポーターたちも、遠藤の必要性を痛感することになった。ファン・サイトを見れば、「What a player(なんて凄い選手なんだ)」との反応が多数。試合翌日に聴いたポッドキャスト「ジ・アンフィールド・ラップ」では、出演者3名も「遠藤が本当に最高」と声を揃えていた。

 1人が「抜群の信頼性!」と感服すれば、もう1人は「フラーフェンベルフが怪我をしたらどうしようかと不安だった自分が愚かだった」と反省。3人目の女性は、「チームが必要とすれば、いつだって力を発揮してくれる」と感謝していた。

 これほど頼れるメンバーが、プレミアのライバル勢にいるだろうか? シティでは、正ボランチのロドリ戦線離脱が首位転落のきっかけとなっている。リーグカップは敗退済みだ。

 意外なプレミア優勝候補と言われつつあるチェルシーも、リーグカップではすでに姿を消している。苦しい時にこそ必要な経験値とリーダーシップの不足は、今季から指揮を執るエンツォ・マレスカも認めるところだ。

 アーセナルは、前ラウンドでチェルシーを下したニューカッスルと、リーグカップ準決勝で対戦する。しかし、第16節終了時点でのリーグ順位は、チェルシーに次ぐ3位。本来であれば頼りになる冨安健洋という高性能の守備的マルチは、泣きどころである怪我が今季の出場時間を1試合での6分間に留めている。

 遠藤がいるリバプールは、トッテナムとの準決勝へと駒を進めることになった。同時に、リーグでは2試合でポイントを落としていた12月に、首位での足場固めにつながる勢いを取り戻しもしたと考えられる。

 試合後、本人の言葉を聞くことはできなかった。帰りのフライト時刻の関係で、終了の笛から35分後にはチームバスがスタジアムを出発。ミックスゾーンでの取材対応を不可能とした。

 今季初のフル出場を終え、自ら語りたいこともあっただろう。だが遠藤は、この日のピッチ上で雄弁に語っていた。国内外4冠を狙うリバプール戦力、「ワタ・エンドウ、ここにあり」と。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)

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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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