街頭でいきなり「金を出せ」 ナイフで刺される事件も…2度目の南米挑戦で直面した異例環境【インタビュー】

マリンボブ氏が23歳でボリビア行きを決断した理由とは【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
マリンボブ氏が23歳でボリビア行きを決断した理由とは【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

ボリビアで2度目の南米挑戦、標高2800メートルの環境も経験

 パラグアイ、ボリビアでプロサッカー選手として活躍したピン芸人のマリンボブ氏(本名:松本磨林/吉本興業)は、南米サッカーをリアルに体験した1人だ。パラグアイでの活動に区切りを付け一時帰国したが、なぜ今度はボリビアへと渡ったのか。本人の素性にも迫っていく。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也/全4回の3回目)

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 パラグアイへ渡り南米初挑戦。そのなかで南米の荒々しいサッカー文化を学ぶ。相手をあわよくば怪我させてしまうような…危険なプレーがスタンダードだった。その後リーグの年齢制限の関係から、マリンボブ氏は一度日本への帰国を決意する。当時まだ23歳だったが「もう引退かな」となんとなく思っていた。その思いを抱えて実家に帰ると、両親から「今度はどこにサッカーしに行くんだ?」と質問される。

「まだやると思われているんだ。じゃあ、もう少しやってみようかと思い直しました」

 そこからの行動は早かった。パラグアイでスペイン語を覚えていたこともあり、スペインのチームを斡旋してくれる会社に電話をした。だが電話した時、ふと思う。「やっぱりもう一回南米に行きたいな」。スペインに行く予定を急遽変更し、「南米紹介してください」と頼み込む。畑違いの質問に相手も戸惑ったが、担当者の友人にボリビア在住の知り合いがいた伝手から、新たな舞台での現役続行を決めた。

 ボリビアのサッカーは1部があり、その次から州リーグが枝分かれしている。マリンボブ氏が最初に入団したのはボリビアサンタクルス州2部サンマルティンだった。州の1部に上がれば全国大会に出場でき、優勝したチームは1部昇格を勝ち取ることができる。そんな国のサッカーについて率直にマリンボブ氏は「少し日本に似ている」と感じたようだ。

「意外とボール持ってもガッと来ない。ボリビアってボールが持てる、トラップができる国なんだって最初思いました。まずはそこが嬉しかったですね。ボリビアは普通にサッカーを楽しめました。パラグアイとは違って戦争ではなかったです」

 プレー面ではまた違ったレベルで楽しめていたマリンボブ氏。だが場所ごとに標高の差が激しく、3クラブ目の在籍となったチュキサカ州1部デポルティーボ・アレマン・デ・スクレは標高2800メートルの環境下だった。最初の1か月は「歩いているだけしんどかった」と当時を振り返るなか、それも次第に身体が適応していった。

ボリビアで治安の悪さを体験したという【写真:本人提供】
ボリビアで治安の悪さを体験したという【写真:本人提供】

ナイフで刺される強盗事件、引退を決意した経緯を明かす

 チームで与えられた役割は“潰し役”。パラグアイで学んだずる賢いプレーを買われ、成長していった。そんな折、ボリビアでは一歩間違えれば死んでいたかもしれない経験も。ご飯を食べに出かけた際、街頭から現れた人物に銃を突き付けられる。「金を出せ」。マリンボブ氏はこれまで、ボリビア生活で何度も同じような状況を体験。慣れた様子で財布と携帯を差し出した。

 すると相手も「どうしてそんなに慣れているんだ?」と語りかける。自身のサッカーの話をすると、思いのほか盛り上がった。しばらく銃を突き付けられながら会話を交わしていると、相手の仲間が交渉に手間取っていると勘違いをしてうしろからナイフでマリンボブ氏の腰あたりを刺してしまう。

「最初は何が起こったか分かりませんでした」

 激しい痛みに襲われ地面に倒れる。強盗2人は「ナイフが折れた…」「なんで刺したんだ? 刺す時は相手が金を出さない時だ」などと会話したのち「すまん、俺ら行くわ」と言葉を投げ捨てその場を去った。幸いナイフはかなり錆びていたため、腰骨に当たって折れてしまったようだ。そこまで深い傷を負うことなく、1か月ほどで傷も塞がった。今もその傷跡は、背中に残っている。

「パラグアイより、ボリビアのほうが治安悪かったですね。ラパス、サンタクルスの2大都市は特に治安がやばい場所でした」

引退決意の理由「心が砕けてしまいました」

 そんなボリビアで3年半プレーしたマリンボブ氏は、ある時1人の選手に出会って今度こそ引退を決意する。同じチームだった40歳近い年齢のウルグアイ人FWフアン・ダニエル・サラベティだ。

「ユース時代にずっとアルバロ・レコバ選手の控えだった選手」だというベテランFWの実力を目の当たりにした当時26歳のマリンボブ氏は「彼、とんでもなく上手くて!」と衝撃を受ける。

「とんでもない実力者だったんだなと実感しました。もう俺は年齢的にきついかなと…。38歳でこれだけうまい。その衝撃で心が砕けてしまいました」とリアルな心情を語った。そうしてボリビアで挑戦を終えたマリンボブ氏は、日本で新たな道へ進むこととなる(第3回へ続く)。

[プロフィール]
マリンボブ(まりんぼぶ)/本名、松本磨林(まつもと・まりん)。1988年12月30日生まれ、埼玉県出身。オリンピアU-20(パラグアイ)―ウマイタ・フットボール・クラブ―ヘネラル・カバジェーロ・デ・カンポグランデ―サンマルティン(ボリビア)―ラ・マキナビエハ・ミルトン・メルガール―デポルティーボ・アレマン・デ・スクレ。18歳で単身南米へ。GKから半年でフィールドプレーヤーに転身。南米サッカーを8年経験し帰国。現在はピン芸人“マリンボブ”として、スマイラーズ(芸人で構成されたサッカーチーム)に所属する。日々自身のSNSで発信する“南米サッカーあるある”が人気を博す。

(FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也 / Kenya Kaneko)

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