元J助っ人が感銘、日本ファンは「一味違う」 来日13年半で生まれた“松本愛”【インタビュー】
Jリーグ通算355試合に出場、元J助っ人パウリーニョが抱く松本への思い
Jリーグ通算355試合に出場したブラジル出身のパウリーニョは、昨季限りで現役を引退し、J3松本山雅FCの強化担当スタッフとして、セカンドキャリアを歩む。2010年に来日し、栃木SCでJリーグデビューを飾った元J助っ人は、川崎フロンターレ、ジェフユナイテッド千葉、湘南ベルマーレ、ファジアーノ岡山、そして松本と計6クラブでプレー。Jリーグには13年半在籍した。とりわけ松本では、家族ともども特別な思い出を刻んだ。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・橋本 啓/全3回の2回目)
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2023シーズン終了後、パウリーニョは松本で現役生活を終えた。Jリーグでの在籍年数は外国人選手としては異例の13年半。引退後は松本に籍を残し、母国に拠点を置きながら強化担当スタッフとして日々奔走する。
21歳で母国を離れて暮らした日本では、温かいサポートを受け、2人の子供にも恵まれた。「来日した時から本当にフィーリングがあったんですよね、この国と。そこから今までずっともう日本のことを愛しています」。“第2の故郷”となった日本には、とにかく感謝しかない。日本のために第2の人生を捧げる決断にも、躊躇することはなかった。
初来日は今からおよそ14年前の2010年7月、当時J2の栃木にブラジル人助っ人としてやって来た。出身地であるブラジル南部のサンタカタリーナ州ブルメナウはかつてドイツの入植地だった背景から、規律を重んじる風土がある。決められたルールに沿う日本独特の文化には、すんなりと馴染み、食生活にも困らなかった。一方、肝心の日本サッカーに対するイメージには、少々戸惑った。
「正直に言うと、日本に行くことが決まった時、少し甘く見ていたんですよね。やっぱりブラジルってサッカー王国じゃないですか。歴史が違いますし、上から見ている感じだったんですよ。だけど、日本に来て実際にトレーニングをやってみると、テクニックや戦術が洗練されているのに驚かされて……。気合いを入れてやらないといけない、レベルアップしないとどんどん置いて行かれてしまうと、焦ってしまいましたね」
日本のサッカーに馴染むため、必死になった。来日前に抱いていた印象はがらりと変わり、「2部だから問題ない」という認識は一切捨て去った。自らと真摯に向き合い、トレーニングに打ち込む日々。異国の環境に適応しようと努力するその姿勢は、クラブ側からも高く評価され、シーズン途中加入だった1年目はリーグ17試合に出場。そして2年目、3年目と進むにつれて貴重な戦力となり、栃木には4シーズン在籍した。
2014年以降、あらゆるクラブを渡り歩いた。計6クラブでのプレーを振り返り「栃木に住んでいた時は素晴らしいサポーターがたくさんいて、岡山でも温かく受け入れてくれて幸せな、本当に濃い2年間でした。いろんな出会いがあって、過ごしやすい環境で最高でしたね」とパウリーニョ。ピッチ内外でその土地土地の良さを身に染みて感じた。
なかでも松本で過ごした日々に特別な思いを抱いた。地元サポーターとともに苦楽を味わい感じたのは、これまでにない一体感だった。2018年シーズンには悲願のJ1昇格を経験。いい時も、悪い時も「皆で戦った」感覚に心を動かされた。
「いろんなことが起きて、いろんな人とともに戦って、いろんな壁を乗り越えて、愛情がさらに深まったな、と。もちろん、在籍してきた他クラブも素晴らしかったです。でも、松本山雅のサポーターはまた特別というか、一味違う。奥さんもこの松本の町が大好きですしね。そうなると自分もさらに強い愛情が芽生えますし、いろんなことの積み重ねがあって、この町とチームが大好きです」
「応援されているんだな」松本で感銘を受けた一体感
松本では日本でのキャリア最長の5年半を過ごした。そこに続いたのが栃木での3年半。それぞれで地方クラブ特有の良さがあったなかで、松本ならではとも言えるファンとの密接な関係性に温かさを感じた。町中へ出れば、老若男女から激励の声がかかる。“選手だから”と、距離を置かれることはなく「応援されているんだな」と勇気が湧いてきた。
「栃木でももちろん、素晴らしいサポーターがたくさんいました。ただ町全体の規模感で見た時に、松本はもっとコンパクトなのでサポーターをもっと身近に感じることができるんですよね。例えば買い物してる時にサポーターが気軽に声をかけてくれたり、温かさを感じる場面が多い町なんですよ。チームそれぞれのサポーターに独自のカラーがあると思うんですが、松本山雅のサポーターはそこが魅力だと思います」
2019年に一度、松本を離れたが、一昨年に復帰。「再びあの地へ戻れる」。喜びを噛みしめた当時、鮮明に覚えているのが家族の反応だった。
「家族も松本を気に入っていて、子どもたちは以前通っていた学校が大好きだったんですよ。子供たちがすごく喜んでいる姿を見て、戻ってきて良かったなって、さらに喜びが増しましたよね」
異国の地で味わった、かけがえのない経験の数々。その恩は忘れない。日本のために歩むセカンドキャリアはまだ始まったばかり。「日本サッカーの発展に少しでも貢献出来たらもう最高に幸せです」。屈託のない笑顔を見せる元J助っ人は、恩返しのために自らの“愛”を注ぎ続ける。
[プロフィール]
パウリーニョ(パウロ・ロベルト・ゴンサガ)/1989年1月26日生まれ、ブラジル出身。メトロポリターノ―グレミオ―バスコ・ダ・ガマ(いずれもブラジル)―栃木SC―川崎フロンターレ―ジェフユナイテッド千葉―湘南ベルマーレ―松本山雅FC―ファジアーノ岡山―松本山雅FC。現役時代はボランチを主戦場に、闘争心あふれるプレースタイルで活躍。2023シーズン限りで引退を表明し、松本の強化担当スタッフに就任した。
(FOOTBALL ZONE編集部・橋本 啓 / Akira Hashimoto)