J1「積極補強」4クラブの明暗 戦力強化も迷走…選手の実績と期待値だけでは未完結【コラム】

町田、FC東京、浦和、川崎【写真:徳原隆元】
町田、FC東京、浦和、川崎【写真:徳原隆元】

今季開幕前に精力的な補強が目立った浦和、川崎、FC東京、町田の4クラブ

 今シーズンのJ1最終戦を終えた埼玉スタジアムのゴール裏からは、大きなブーイングが沸き上がった。12月8日。ホームの浦和レッズは、リーグ屈指のボール支配率を誇るアルビレックス新潟を、ポゼッションでもチャンスの数でも上回り1度も枠内シュートを許していないから負ける要素はなかった。しかし反面、チャンスは作ってもたたみかけて勝ち切るアグレッシブな姿勢は窺えず、結局スコアレスドローで終了。大きく期待を裏切る13位で、シーズンを終えた。

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 改めて今年のシーズン開幕前に精力的な補強が際立ったのは、浦和、川崎フロンターレ、FC東京、それに昇格したFC町田ゼルビアだった。ところがこの中で補強の成果が、そのまま順位につながったのは町田だけだった。

 町田は最もメンバーの変化が著しいチームで、今年の最終戦でスタメンを構成したのは全て2023年以降に加入した選手たちだった。しかもJ2で優勝した昨年在籍していたのも、エリキ、チャン・ミンギュ、下田北斗の3人だけだったので、ほぼJ1昇格とともに生まれ変わったという見方もできる。ただし黒田剛監督がJ2時代からコンセプトを徹底し、その土台の上で新加入の選手たちが質を高めて実践した。かつてチリ代表の躍進を導いたマルセロ・ビエルサ監督は、まずユース代表に戦術を落とし込み、フル代表の選手たちにはそれをなぞらせることで時間の効率化を図ったそうだが、方法論は似ていた。

 それに対し上位戦線に絡むと見られたほかの3チームは、浦和以外もFC東京が7位、川崎が8位に終わり、この最終結果以上に早々と優勝争いから脱落し、監督交代という結末を辿った。

 3チームとも必ずしも補強そのものが失敗に終わったわけではない。例えばシーズン最終戦を参考にすると、浦和は9人の新加入選手がピッチに立ち(スタメンは6人)、川崎は7人(スタメン3人)、FC東京が6人(スタメン4人)と、多くの選手たちが中心的な戦力としてプレーをしている。

明確な羅針盤に即した補強が奏功したのは…

 浦和では渡邊凌磨がさまざまなポジションをこなし、監督が代わっても不可欠の存在として評価されたし、井上黎生人がセンターバックとして定着。サミュエル・グスタフソン、石原広教、原口元気なども軸になった。

 川崎でも山本悠樹、ファン・ウェルメスケルケン際、三浦颯太、丸山祐市らが期待どおりにレギュラー格に定着。またFC東京でも、鹿島からレンタルの荒木遼太郎が圧倒的なパフォーマンスで牽引したほか、高宇洋、安斎颯馬、遠藤渓太、岡哲平などが主力級でプレーしてきたから、いずれも獲得して来た個々の選手たちは大きく期待値を外したわけではなかった。

 さすがに川崎は故障者続出で早期に躓いたものの、シーズン途中からは山田新を筆頭に新しい戦力の台頭も引き出し、希望の見える締めくくり方を見せた。もちろん黄金期を牽引して来た鬼木達監督が去るリスクは小さくないが、新体制の舵取り次第では即座に優勝戦線に復帰するポテンシャルを感じさせた。

 一方迷走が続くのが、関東で人気を誇る浦和とFC東京だ。どちらも強化部が強引な軌道修正を図った結果、方向性が不明瞭で隔靴掻痒感が蓄積していくような低迷状態に陥った。少なくともここ数年間は、豊富な戦力に見合ったパフォーマンスを引き出せず、浮き沈みの激しいシーズンを送りトピックを探すのも難しい。

 まず町田には、明確な羅針盤があり、だからこそそれに即した補強が奏功した。結局補強は実績のある選手たちを集めただけでは完結しない。すでに繰り返し証明されてきたことではあるが、再度そんな教訓が残ったシーズンだった。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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