すべては台本通り W杯の失敗から約14年の月日…親友に耳打ちした「決めてくれ」
吉田沙保里さんのタックルに対し香川「しっかり予行練習はしていた」
「めっちゃうまかったやろー!」。セレモニーで声を張り上げたのは、元日本代表MF松井大輔氏だ。2023年シーズン限りで現役を退いた松井氏の引退試合「Le dernier dribble-~STARSEEDS SPECIAL MATCH」が、12月15日にニッパツ三ツ沢球技場で実施された。試合の最後で花を飾ったのは今回の“主役”ではなく、松井氏と“同級生”の駒野友一氏が祝福される姿だった。
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松井氏の引退試合に出場した1人に、「小学6年から一緒にサッカーをしてきた」駒野氏の名前があった。試合も終盤に差し掛かった頃、ペナルティーエリア内で仕掛けた香川真司へ元女子レスリング日本代表の吉田沙保里さんがタックルを見舞い突破を阻止。世界大会16連覇、個人戦206連勝を記録し、国民栄誉賞も受賞した「霊長類最強女子」の吉田さんはレッドカードを受け、相手へPK献上となる。すべては松井氏の台本通りだった。
香川は試合後「予定とちょっと違うタックルでした。持ち上げる予定だったんですけど、流れで少し変わってしまいました」と“被害シーン”を振り返る。「しっかり予行練習はしていたので。(受け身は)取れているので大丈夫」と、記者を安堵させた。香川がタックル被害の担当に決まったのは前日(14日)の夜中(松井氏談)。14日には中村憲剛氏の引退試合で、同様に吉田さんのタックルが話題を呼んでいた。
タックル場面から、ラストは14年前を“再現”したPKシーンへ。主人公に立てられた駒野氏は「吉田さんがタックルをして、PKになるとは聞いていませんでした。(もちろん自分が)PKを蹴ることは聞いていました。あそこまで準備してもらって、拒否はできないっすよね」と親友の計らいに笑顔を浮かべた。
2010年南アフリカワールドカップ(W杯)。決勝トーナメント1回戦パラグアイ戦のピッチに駒野氏、松井氏は立っていた。試合はPK戦にもつれ、3人目を駒野氏が務めたが、キックはクロスバーに直撃し無情にも失敗に終わる。日本は敗れ、ベスト16の壁を越えるができなかった。
約14年の月日を経て、松井氏が計画した払拭の瞬間。ピッチではキッカー駒野氏のうしろで、選手たちが肩を組みPK戦の模様を再現した。1万363人の観客が見守るなか、駒野氏は冷静に、ゴール左にPKを決めてみせた。
駒野氏「あの時だけは自分の引退試合かのように思いました」
松井氏は引退試合後の会見で、この日一番印象に残った場面について聞かれ「やっぱ駒野でしょ」と長い付き合いの友人の名前を挙げた。「本当は外しても良かったですが、彼はやっぱ上手くなりましたね」と、冗談も交えつつ、誇らしげに語った。
蹴る前には松井氏から「決めてくれ」と耳打ちもされていた。駒野氏はバー直撃の当時も思い起こしながら「(今日は)あそこまで上に上げる筋力がなかったので。1回はやり直しOKって言われたんですけど、(決められて)良かったです」と再現シーンに感謝。「あの時だけは自分の引退試合かのように思いましたね」と、仕立て上げられた当人は素直な心情を言葉にしてくれた。
松井氏は2023年シーズン限りで現役を引退。駒野は2022年に選手生活を退いた。ともに今年43歳となり、すでに指導者の道へ次の一歩を歩み始めている。松井氏を「小学校から一緒にやり始めてから、サッカースタイルも変わってないのが凄い。(彼のプレーは)お客さん魅了しますよね」と誇らしく語った駒野氏。今後も2人の活躍から目が離せない。