名門バルサの「ぎりぎり」戦術 相手も困惑…敵が攻略も際立った絶技の長短【コラム】

バルセロナがドルトムントに3-2で勝利した【写真:ロイター】
バルセロナがドルトムントに3-2で勝利した【写真:ロイター】

スリリングなドルトムント×バルサ戦、際立った両軍の高いライン設定

 今季のFCバルセロナは非常に高いディフェンスラインが特徴になっている。昔風に言えばオフサイドトラップだ。UEFAチャンピオンズリーグ(CL)リーグフェーズ第6節、バルセロナはアウェーでボルシア・ドルトムントと対戦。ラフィーニャが先制するが、PKをギラシに決められて追い付かれる。後半30分にフェラン・トーレスが2点目を決めるが、3分後に再びギラシのゴールで2-2。後半40分にフェラン・トーレスが決めて3-2で競り勝った。

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 スリリングなゲームは、ハイラインのメリットとデメリットがよく表れている。前半8分にドルトムントはザビッツァーがゴールネットを揺らすが、その前にオフサイドがあってノーゴール。相変わらずバルセロナのラインが高い。後半5分にもドルトムントは際どいオフサイドで得点が認められなかった。2つのゴールがオフサイドで幻となったドルトムントは、逆にハイラインの裏を突かれてラフィーニャに決められる。ドルトムントもバルセロナほどではないが高いライン設定だった。

 欧州の強豪で最初から引くチームはほぼない。バルセロナ、ドルトムントも高い位置からプレスをかけ、陣形が間延びしないようにディフェンスラインを高くしている。中盤のスペースは限定されていて、そこでいかに失わないか、高いラインの裏を突けるかがポイントになる。バルセロナは左ウイングのラフィーニャが中央へ入り、ボランチの1人もポジションを上げ、中央部をわざと密集化させる。狭いパスワークを苦にしない特徴を活かし、そこで主導権を握ってライン裏を突こうという意図だ。先制点は典型的な得点パターンだった。

 それにしてもバルセロナのラインは高い。少しでも相手が前方にパスできない状況になれば、すかさずラインを止めて相手FWをオフサイドポジションに置く。その一瞬でMFとの距離が詰まるので、ライン間を瞬時に消滅させてしまう。背後とライン間を秒で消された相手はアイデアを失う。

 ハイラインを相手に意識させる効果もあると思う。バルセロナのラインが高いのは相手も十分承知していて、オフサイドにさえならなければビッグチャンスを量産できそうだからどうしても意識してしまうのだろう。ぎりぎりを狙って、ぎりぎりでオフサイドになってしまうことが実に多いのだ。

後半に入るとバルセロナは防戦一方の展開にもなった【写真:ロイター】
後半に入るとバルセロナは防戦一方の展開にもなった【写真:ロイター】

デメリットから2失点も…たぶんこれで正解

 ただ、相手も時間の経過とともにバルセロナのハイラインに慣れてくる。ドルトムントの2点目はグロスがハイラインの背後に抜け出し、飛び出したGKペーニャのタックルの前にギラシにパス。ギラシが無人のゴールにシュートしている。グロスへパスが出た瞬間、ギラシはオフサイドポジションに置かれていたが、パスはギラシに出ていないので関係がない。バルセロナはよくこの形で失点している。相手の1人ないし2人をオフサイドポジションにしているのでラインがフリーズしていて、2列目からの飛び出しにやられてしまうのだ。

 後方からの飛び出しとサイドチェンジはハイライン攻略の常套手段だ。ドルトムントはすっかりコツを掴んだようで、同点にした後半33分以降は押し込み続ける。ハイラインを維持できなくなったバルセロナは防戦に回り、奪ったあともパスミスが増えて試合をコントロールできなくなった。

 しかし、好事魔多し。攻め込んでいたドルトムントはCKのクリアを拾ってつなごうとしてパスミス。バルセロナは一気にカウンターに転じて決勝の3点目を決めている。ハイラインのデメリットから2点を失い試合も失いかけたが、結局のところ3得点を奪って勝利。際どいながらも収支は合っているので、たぶんこれで正解なのかもしれない。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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