代表現場から消えた欧州スカウト 近づくJリーグとの距離…押し進めるべきU-20世代の海外移籍【コラム】
2023年12月からの1年間で32人がJリーグからヨーロッパに移籍
2024年、取材現場にはある変化が起こっていた。
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1月に開催されたカタールアジアカップと、2019年に行われたUAEアジアカップとの違いは明らかだった。スタンドにヨーロッパからのスカウトがほとんどいない。2019年のときは知っている顔の人物まで含めて、何人ものスカウトに会ったし、情報交換もできた。
報道陣とは全く別の場所にいたのかもしれない。ただ、通常は報道席のような見やすい席が用意され、そこで厳しい目を光らせているもの。そんな人はいなかった。逆に、Jリーグの会場では、スカウト席に海外のクラブ名が書いてあることが多くなった。“あのクラブは誰を見に来たのか”とドキドキしていると、外国人だと思われる複数の人たちが来ていた。
つまりは、もうアジアカップに出るような日本人選手のスカウティングはすっかり終わっているということだろう。確かに、出場していたほとんどの選手がヨーロッパで活躍している以上、わざわざ日本代表の試合をチェックする必要はない。
その一方で、代表には入っていない日本人選手に対する関心が高まっており、そのために、わざわざ極東の地まで足を運んでいるのだろう。パリッとした格好の外国人をスタジアムで見かけると、Jリーグとヨーロッパのリーグの距離がグッと近くなったのだと感じさせてくれる。
では、2023年12月から2024年11月までに何人の選手がJリーグからヨーロッパに旅立ったのか。
移籍したものの、すでに帰国した選手も入れると32人になる。最年長が27歳、最年少が17歳。そして23歳以上が19人、23歳以下は13人となり、最も多いボリュームゾーンは26歳で、9人いる。
ヨーロッパ移籍には様々な理由があるだろう。プレーヤーとして成長したい、まずヨーロッパに行ってスカウトの目に留まりやすい環境に身を置き、その中でステップアップしたい、大きなクラブに行けばJリーグよりも年俸がいい、などという要素もあるかもしれない。
そして、彼らがヨーロッパでプレーすることは日本サッカーのレベルアップにも貢献する。一時的には彼らが国外に行くことで自国リーグが空洞化するように見えるかもしれないが、いろいろな選手がJリーグに戻ってきてヨーロッパの経験を伝えてくれていることを考えると、決してマイナスばかりではない。
選手として脂が乗った26歳の選手を欧州に送り出していいのだろうか
ただし、現在ヨーロッパに行く選手たちの年齢構成を考えると、本当にこの年齢で選手を送り出していいのだろうかとも思える。
たとえば、26歳の選手はもうしっかり自分の特長を出せるレベルのプレーヤーになっている。これから脂が乗っていくところで海外に出て行くのだ。しかし、いくら日本人選手への関心度が高くても、ヨーロッパ初挑戦の選手がすぐにビッグクラブに行けることは稀だ。移籍した選手にとっては、自分の一番いい時期を実力に見合っていないクラブで過ごすことにもなりかねない。文化が違うことで出番が減ることも過去の例で多々あった。またクラブとの相性が良くなく、一度日本に戻ってくることになると、年齢的に次のヨーロッパでのチャンスは少なくなってしまう。
もしも、もっと若い選手が移籍した場合はリスクが減る。一度目のチャンスが失敗に終わっても、二度目、三度目を狙えるからだ。また、すぐにポジションを奪えなくとも、ヨーロッパ基準のレギュラー選手をその目で見て学ぶことができる。レベルアップの可能性を広げてもらえると言っていいだろう。
かつては「五輪経由ワールドカップ行き」とも言われていた。五輪で世界中のスカウトに注目してもらって海外移籍を果たそうという考えだった。ただ、今はもう日本人に対する関心は持ってもらえている。
であれば、五輪世代よりも若いU-20ワールドカップを狙う世代がもっと活躍しやすい場を作ってみるのはどうだろう。その世代のヨーロッパ移籍を積極的に進めれば、彼らが今後、日本サッカー界にもたらしてくれるものは大きくなる。そして、その流れは加速させなければいけない。冨安健洋や堂安律、久保建英と日本代表の多くの選手は20歳前後でヨーロッパデビューを飾っている。20歳以下の世代を成長させて日本サッカーのレベルをもっと早く上げていかなければ、将来的に高齢化を招きかねないのだ。
2025年2月に中国で予定されているU-20アジアカップは、同年にチリで開催されるU-20ワールドカップのアジア予選を兼ねている。アジアカップで上位4チームに入らなければ本大会には出場できない。過去のU-20ワールドカップで日本は、2009年から2015年までアジア予選で敗退。2017年の韓国大会はベスト16、2023年のアルゼンチン大会はグループリーグ3位で大会を終えた。まずは世界大会に出場してアピールする場を選手たちに与えてあげることが大切だ。
今年11月にメキシコに遠征したU-19日本代表には花城琳斗(シュツットガルト)、ニック・シュミット(ザンクトパウリU-19)、貴田遼河(アルヘンティノス・ジュニアーズ)などの海外組がいた。彼ら以外のJリーガーがスムーズに海外進出できるように、2025年、日本サッカー協会とJリーグはまずこのU-20アジアカップに全力で取り組んでほしい。それが将来的には日本のためになる。若いころはヤンチャだったが、とても素晴らしい指導者になったU-20日本代表の船越優蔵監督にぜひとも素晴らしいサポートを与えてもらいたい。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。