高卒→欧州の20歳日本人DFが「すごい成長」 ドイツ代表も絶賛「見て分かるでしょ」【現地発コラム】

シュツットガルトでプレーするチェイス・アンリ【写真:Getty Images】
シュツットガルトでプレーするチェイス・アンリ【写真:Getty Images】

ドイツで急成長…注目を集めるシュツットガルトの20歳DFチェイス・アンリ

 今ドイツで注目を集めている若手選手の1人が、1部シュツットガルトに所属する20歳DFチェイス・アンリだ。

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 チェイスは今季(12月13日時点)のブンデスリーガで11試合、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)で4試合に出場。DFBポカールでは3試合すべてにスタメン出場を果たし、3回戦で対戦した2部レーゲンスブルクとの試合では嬉しいトップチーム初ゴールをマーク。スタメン出場は公式戦全部で11試合を数える。

 今季トップチームでここまでコンスタントにプレーすることになるとはシーズン前にはおそらく誰も予想していなかったことだろう。尚志高校卒業後の22年夏、ドイツに渡ってからはシュツットガルトのU-23チームで4部リーグに出場し、計38試合に出場。移籍当初はそれこそU-23でも出場機会を得られない時期だってあった。今季は本来、3部に昇格したU-23でそのまま経験を積む予定だっただけに、トップチームデビューを飾ったどころか、これほどの短期間でここまで出場機会を増やすほどになった姿に、地元ファンも記者もポジティブな驚きとともにその成長ぶりを見守っている。

 チームが緊急事態だったのは確かにある。シーズン前、キャプテンでドイツ代表DFヴァルデマール・アントンがボルシア・ドルトムントへ、そして日本代表DF伊藤洋輝がバイエルンへ・ミュンヘンと去った。レギュラーセンタバック(CB)として期待されていたダン=アクセル・ザガドゥは古傷の膝を痛めて再び長期離脱するなど、セバスティアン・ヘーネス監督の立場で考えたら、ほかに選択肢もあまりない事態だったことは否めない。

 ただヘーネスは「しょうがないから」と妥協でポジションを決めたりはしない監督だ。昨季までもCBのポジションにレギュラー選手の負傷と出場停止が重なる事態はあった。それでもボランチのアンジェロ・スティラーをCBに、トップ下のエンゾ・ミロをボランチにそれぞれ下げて起用するなどの策を打ち、逆にほかの強みを引き出す戦い方を実現して、試合にも勝っていたのだ。

強化部長もチェイスを高評価「ここ最近とても良くなっているのが…」

 そんなヘーネス監督が今回チェイスを起用したということは、チームに必要なプレーができる、チームにとってポジティブな存在になるという信頼があったからにほかならない。

 選手の良さを引き出すことに関して、ヘーネスは非常に高く評価されている指揮官だ。伊藤が所属当時こんなことを口にしていた。

「補強した選手がはまってるってのもあるし、全員が自信を持ってプレーできている。昨シーズンまでは若いチームで苦しみましたけども、選手個々の良さを引き出してくれる監督だし、今年は自分たちがやっていることがすごい正しいと思えているし、練習からいい雰囲気でやれている」

 ヘーネスもこんなふうに語っていたことがある。

「大事なのはプロセスだ。選手が見せてくれている発展と成長にフォーカスすること。それ以外のことを気にする必要はない」

 今季の選手起用にもそんな「プロセス」を大事にしている手腕が度々見られる。そしてチェイスが起用され続けているのは、確かな発展と成長の足取りがそこにあるからだ。

 強化部長のファビアン・ボールゲムートはこう称賛していた。

「非常に目立った活躍を見せている。ここ最近とても良くなっているのが、前に出る守備だ。多くの場面でタイミングよく足を出せている」

 味方がプレスに行くことでパスの選択を制限し、そこを狙ってDFが積極的に起点を潰す。そこが機能しないとプレスに行くことがマイナスになってしまうから、責任は重大だ。そんな困難なプレーも勇敢に的確にやり続けなければならないのだから、いつも上手くいくわけではない。例えば第12節ブレーメン戦でのチェイスは、不安定なプレーに終始し、キッカー誌の採点でも落第点の5をつけられた。そんなチェイスに対して、ボールゲムートが「成長段階ではこうした低調期もあるのだ。だが全体的に彼の成長曲線は上向きだ」と口にしていたことこそが、確かな信頼の表れだろう。シーズンは長いのだ。

今季はCL出場も経験した【写真:ロイター】
今季はCL出場も経験した【写真:ロイター】

チームの心臓も認めるチェイスの姿勢「いつもハードに取り組んでいるし、熱心で真面目」

 長谷部誠の言葉を思い出す。鎌田大地がレンタル先のシント=トロイデンからフランクフルトに復帰したシーズンに、レギュラーの座を獲得して活躍したことに対して、「1シーズンだけではなく、数シーズンにわたってコンスタントにプレーして初めて一流」と話していたことに本質が詰まっている。そういえばバイエルン会長のウリ・ヘーネスは10代のトニー・クロースがアシストを決めた試合でコメントを求められると、「クロース? 悪くはなかったが、今日のベストは彼じゃない。不必要に若手を持ち上げてどうする」とメディアにぴしゃりと言い放ったこともあった。

 CLでシュツットガルトが5-1と快勝したヤングボーイズ(スイス)戦では、チェイスの出場機会はなかった。大量リードしたことで、普段出場機会が少ない選手が優先して起用され、チェイスは週末のハイデンハイム戦に向けて休養をもらったという見方が濃厚、というのがしっくりくるほど、今のチェイスは戦力としてシュツットガルトで存在感を高めている。

 取材エリアで待っていると、最後のほうにゆっくりと登場。声をかけると、「あ、すいません。今日はもう行かなくちゃいけなくて」と済まなそうに言ってから、外へ出ていった。一緒にいたのはヨシュア・バグノマン。ドイツ代表にも招集されたことがある実力派右サイドバックだ。車で送ってもらうようだ。頼れる先輩との話が弾むのか、ずっと話しながら歩いていく。1ゴール1アシストの活躍を見せたバグノマンはこの日が誕生日。待ってもらうわけにもいかないのも理解できる。

 高いレベルでチェイスは奮闘している。この試合でスイス王者ヤングボーイズの選手たちがシュツットガルトのプレスやパススピードに付いていけないシーンが少なくなかった。出しどころが見つけられず、必死にキープをしようとしてはボールを奪われる。絶望的に周りの選手に「どうしたらいいんだ?」という表情を浮かべているのが印象的だった。チェイスはそんな環境で日々トレーニングをし、目まぐるしく状況が変わるなかハイスピードで最適な判断をしなければならないプレーを試合の中でずっと求められているのだ。

「いつもハードに取り組んでいるし、熱心で真面目。ここ数か月ですごい成長しているし、それは見て分かるでしょ」

 チームの心臓であるドイツ代表MFアンジェロ・スティラーの称賛がすべてを物語っているではないか。チェイスの成長はまだまだ続いていく。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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