オフの大型補強はせず…選手獲得は「10人もいない」 3位躍進の町田が描く来季構想【コラム】
「今年に関しては『J2で優勝して昇格してきたフットボールがどのくらいJ1で通じるのか』を目標にしていた」
今季のJ1リーグで3位と躍進したFC町田ゼルビアの原靖フットボールダイレクター(FD)が12月12日、取材に応じて今シーズンを振り返りつつ、来季の構想について語った。昇格初年度で優勝争いに加わった1年を「大変エキサイティングなシーズンだったというのがひとつの印象です。シーズン通じて、何年かにわたって行うようなことを、この1、2年でだいぶ時間を巻いて走ってきました」と振り返った。
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優勝を逃したことについて「ガックリきました、確かに」と本音も溢れた。だが、続けて「ただ振り返ってみると、この悔しさも今後の経験の1つ。クラブチームとして忘れずにしっかり今後につなげていきたい。やっぱり神戸さんや広島さんに比べると差が大きい。随分違うという面もありました。上位に定着しているクラブチームと比べると、どういった部分が違うかというようなことを感じながら過ごしました」とも語った。
初めてのJ1について「後半に関してはさすがJ1だなと思いました。お互いに研究しているんですが、その精度も高いと言いますか、やっている選手のレベルも個々の質が高いので、対策をされた時にこちらはそれを上回ろうとするのですが、難しかった」とリーグ全体の質の高さについて驚きを隠せず。黒田剛監督の采配については「今年に関しては『J2で優勝して昇格してきたフットボールがどのくらいJ1で通じるのか』を目標にしていたので、そういった部分ではブレずにしっかり費やしてくれた。中途であまり対策をしすぎると、何が(J1で)通じて何が間違いだったのか分からなくなる。それは来季につながらない。基本型を貫くと、選手たちにもよく言っていました」と来季を見据えた采配だったことを明らかにした。
では、優勝したヴィッセル神戸や2位だったサンフレッチェ広島との差はどこだと感じたのか。
町田に初黒星を付けたのが第6節で対戦した広島、2敗目は第8節で戦った神戸に喫した。ともに町田のホームで、スコアは1-2と差を見せつけられてもいた。なお、第20節で神戸には0-0で引き分けたが、第32節では広島に0-2と敗れた。
「神戸さんも広島さんも、1年やそこらで充実してきたチームではない」
「神戸さんと広島さんは、本当にすべての面で充実していたという印象がありました。またいい目標ができたな、というぐらいです。やっぱり神戸さんも広島さんも、1年やそこらで充実してきたチームではない。監督さんの継続性だとか、選手も著しく変わらず、この2、3年はしっかり戦い抜いている」
確かにここは大きな差だった。町田は去年から大幅に選手を補強して成績をあげた。2023年は25人が加わり、2024年は24人を補強している。対する神戸の今年の補強は15人、広島は11人。数年かけて戦力を充実させ、戦術を浸透させていった結果が今年だったと言えるだろう。
それでも、どうしても考えたくなるのは、形にこだわらず、もっと勝利だけを目指せばタイトルが取れたのではないか。非難覚悟での移籍戦略をとれば初昇格で初優勝も狙えたのではないかということだ。その点をぶつけてみた。
「采配にもう少し柔軟性があればよかったのではないか」と聞かれた原FDは「それも垣間見えたところはあった」としつつ、「多くの選手が(シーズン途中で)加入して、既存の選手と新しく融合した選手で、獲得した選手に怪我があって出遅れたりしたなかで、最後にFC東京戦、京都戦で形を見出せて、選手たちも融合できて、来季につながるんではないか、というところまで仕上げてきたのは事実」だと、来季を睨んだ方針に間違いはなかったと自信を見せた。
そして「最初に戦ったときに広島や神戸とは差があると分かったはずだ。その主力を引き抜こうと思わなかったのか」と聞くと、原FDは驚いた表情を見せた。
同じようなことは下位のチームで起きていた。たとえば鳥栖は主力が移籍し、移籍した先のチームが鳥栖との対戦でその選手を使うなどということも起きた。自分たちの戦力を充実させるのと同時に、相手の戦力を下げるというのは珍しいことではない。
オフの補強は「10人もいないですね。10人はちょっと取れないかという感じはします」
原FDは「彼らがどういう契約をしているかは当然わかっていますし……。そこまで思いつかなかったのは僕の力の至らなさです」とまず一言。そして「神戸さんも広島さんも、選手間の理解度は深掘りと進化していて、深くお互いに切磋琢磨していてすごくたくましい。ですから、ちょっとやそっとじゃ混乱しない」と、移籍を実現させていたとしても、相手に混乱は生まれなかっただろうと分析した。
ならば、来シーズンはどれくらい補強するつもりなのか。原FDは「2年続けて(選手を大幅に)代えているので(来年は)そういったことではなくて、必要な部分を補強していくということになろうかと思います」とした。そして、具体的な獲得人数についても「10人もいないですね。10人はちょっと取れないかという感じはします」と語っている。
来年の目標を聞かれると「そこは今、監督や社長と入念に話をしています」と設定中だという。「今年は5位以内という目標もあったのですが、振り返ってみるとすごく困難な設定でした。来季はマークも厳しくなるでしょうし、こちらもそれを上回ることをやっていかなければいけないでしょう。上位定着という目標や優勝争いを狙えるように定着していくという、そう容易ではないような感じもしますが、期待値も高くなるでしょうし、僕は上位定着を狙うべきポイントだと思っています」とも語った。
「来年こそは優勝を。そのためには大型補強をどんどん繰り返します」と言わないところが原FDらしいと言えるだろう。今は地に足を付けるための努力をしている。まずは2年目のジンクスを乗り越えなければいけない。一方でいざとなれば大胆な手が打てるのも町田である。シーズン途中で日本代表を2人補強するなど、機を見るに敏だ。来季もまた、町田が台風の眼になる可能性は十分にあるだろう。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。