なぜ林陵平の解説は面白いのか? 「バカが言っても話を聞かない」戦術マニア&言語化の鬼に訪れた転機
言語化の鬼になったのは「間違いなく東大の監督になったから」
鋭い戦術眼と高い言語化能力で人気を博している気鋭の解説者がいる。東京ヴェルディや柏レイソル、FC町田ゼルビアなどでストライカーとして活躍し、Jリーグ通算300試合出場を誇る林陵平氏だ。国内、国外問わず、サッカー中継の解説として引っ張りだこ。戦術を構造的に分析した解説は分かりやすい、面白い、と好評を博している。
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そんな林氏が12月9日にTVerで配信中の「マンデーフットボール」に出演。その後に取材に応じ、自身が“戦術マニア”や“言語化の鬼”と言われるようになった契機について明かした。
林氏は現役時代、さほど戦術眼、言語化能力に長けていたわけではない、という。「昔からではないですね。選手時代はそこまで伝えることなくやる方でした。(戦術に関しても)どちらかというとプレーの局面でしか現役時代は見ていませんでした」。転機となったのは、現役を引退してすぐに東大のア式蹴球部監督に就任したからだった。
ジュニアからユースまで東京ヴェルディの下部組織で育った林氏だが、トップ昇格を果たせずに明大へ進学。ここで頭角を表して古巣の東京ヴェルディに入団し、プロとしてのキャリアをスタートさせた。その後、柏レイソルやモンテディオ山形、水戸ホーリーホック、町田ゼルビア、ザスパ群馬などでプレー。J1通算36試合で3得点、J2通算264試合で64得点をマークし、2020年シーズンを最後に現役引退をした。
言語化の必要性を感じたのは秀才揃いの最高学府で指導することになったから。「間違いなく東大の監督になったからですね。監督になってから構造でサッカーの試合を見るようになりましたし、東大の子たちを理解させるためには、言語化できないと話を聞かないので、それもすごく関係していると思います。頭がいい子たちなので、バカが言っても話を聞かないと思うので。わかりやすく伝えるのがすごく大事だったかなと思います」。
SNSでも公開したビッシリとメモしたノートと用語を記した「言語化集」
東大にスポーツ推薦などの制度はなく、体育会のア式蹴球部といえど、部員のほとんどが国内最難関の一般入試に合格してきたツワモノたち。当然のごとく学力に優れ、日本語力にも長けている。生半可な指導で納得させられるわけはなく、部員が理解し、納得できるように話をする必要があった。構造的に戦術を分析し、論理に落とし込み、そして分かりやすい言語表現にして、伝えていかなければならなかった。
東大では2021年から2023年まで3シーズン、指揮を執った。「3年間を経て、選手たちもわかりやすくなったって最後言ってくれました。伝えるために細かく言語化して、選手たちに落とし込むっていうのができるようになってきた感じですかね。監督として選手たちを動かすためには、選手たちに伝えないといけない、伝えるためには言語化しないといけない、って、それが関係したかなと思います」。この3年間での経験が今、解説者になっても大きな強みとなっている。
「監督になって全体を構造で見るようになりました。相手があるスポーツで、自分たちのスタイルもある。でもやっぱり4-4-2と3-5-2の戦いでは絶対に生まれてくるスペースがある。そういうところを理解しながら監督をして、それが解説にも繋がっていると思います」
試合を解説するために、選手やチームの特徴などをびっしりとノートにメモし、解説の際に使用するサッカー用語をまとめた「言語化集」も準備する。それは自身のSNS上でも公開している。視聴者に簡潔に、分かりやすく伝えるために、日々のアップデートも欠かさない。林陵平の“解説”の裏には、こうした背景がある。
(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)