“盟友”と対戦目前…その場に倒れ退場「申し訳ない」 J大一番で叶わなかったピッチでの再会

(左から)J1昇格プレーオフに出場した田部井涼と松井蓮之【写真:徳原隆元】
(左から)J1昇格プレーオフに出場した田部井涼と松井蓮之【写真:徳原隆元】

岡山MF田部井&仙台MF松井、大学時代の最強コンビを巡る舞台裏

 かつて大学サッカー界で“最強のダブルボランチ”と言われていたコンビが、J1昇格プレーオフの決勝という舞台で敵として対峙することになった。

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 クラブ史上初のJ1昇格を決めたファジアーノ岡山のMF田部井涼と、あと一歩のところで昇格を逃したベガルタ仙台のMF松井蓮之。彼らは3年前、法政大学の主軸としてダブルボランチを組んでいた。

 それぞれ出身高校は異なる。田部井は前橋育英(群馬)の伝統的な背番号14とキャプテンマークを巻き、左利きの司令塔としてチームの攻守の要だった。第96回全国高校サッカー選手権では前橋育英の初優勝の原動力となり、満員の埼玉スタジアムで優勝旗を掲げた。

 松井は矢板中央(栃木)で屈強なフィジカルとカバーリングとボール奪取能力を持ち、CB(センターバック)として「赤い壁」を形成。同選手権ではベスト4入りに貢献した。

 そして、法政大学では3年のスタートはボランチとCBの関係だったが、途中からダブルボランチを組むようになり、そこから卒業まで不動のコンビとなった。ボランチでもお互いの役割分担は明確だった。田部井が攻撃の展開の軸となり、松井が田部井が前に出たあとのカバーや守備面の中枢を担った。お互いの長所を生かし、短所を補い合いながらプレーをしていたが、4年生になると大きな変化が訪れた。

「僕はずっと蓮之のフィジカルとか、守備力など個の存在感が凄くて、僕にはそこまでの存在感はない。ちょっと羨ましかったし、僕も蓮之のような守備力と前への迫力を出さないとプロでは通用しない。一緒にコンビを組んでいる間に彼から学びたかった」(田部井)

「涼はセンスがずば抜けていて、見えているところが全然違う。僕はどちらかというとガツガツと行くタイプだったので、涼のように全体のバランスを見ながらポジションを取ったり、正確なパスで攻撃を組み立てたりするようにならないと上では通用しないと思った」(松井)

田部井は8月からレギュラーを掴んだ【写真:徳原隆元】
田部井は8月からレギュラーを掴んだ【写真:徳原隆元】

「まさかプレーオフの決勝でやれるとは」思わぬ巡りあわせ到来

 親友であり、お互いがリスペクトしあう仲だからこそ、逆に甘えてしまっていることに気づいたのだった。「お互いの短所を磨き合えるようにいろいろ話をしながらプレーをしていた」と松井が振り返るように、補い合うのではなくお互いの長所を競って盗むように刺激を与え合った。

 例えばそれまでは松井が前に出て田部井がカバーをしていたのが逆になったり、田部井がコースを消して松井が相手に強く当たっていたのが逆になったりと、長所を磨きつつ短所も磨きあったことで彼らは最強ダブルボランチとして法政大だけではなく、大学サッカーの顔となった。

 卒業後、田部井は当時J2の横浜FCへ、松井は川崎フロンターレに加入。だが、田部井はルーキーイヤーでリーグ16試合に出場をするが、途中出場が多かった。松井は川崎の分厚い選手層の前に苦しみ1年目はリーグ出場がゼロ。翌年、田部井は岡山へ期限付き移籍、松井は5月にFC町田ゼルビアに期限付き移籍をした。

 田部井は岡山でボランチのレギュラーの座をガッチリと掴むと、松井もリーグ後半戦でボランチのレギュラーを掴み取った。そして今年、田部井は岡山に完全移籍をしたのに対し、松井は川崎に復帰するが、3月に仙台へ期限付き移籍した。

 田部井は負傷の影響で序盤は離脱をしていたが、8月に復帰してからはレギュラーの座を掴んでいた。松井も加入して1か月後にレギュラーの座を掴んだ。

 お互い、プロの世界で紆余曲折を経ての決勝での戦い。対戦カードが決まった時から、2人はこの試合が来るのを楽しみに待っていた。

「これまでリーグでは何回か対戦しているけど、まさかプレーオフの決勝でやれるとは。お互い絶対に譲れない戦いとなりましたが、ピッチで涼と会えるのが楽しみです」

 仙台がV・ファーレン長崎を下した試合後、松井はこう口にしていた。しかし、お互いの現状は少し異なっており、キャプテンマークを巻いてスタメン出場し続けている田部井に対し、松井はリーグ残り3試合でベンチスタートとなり、長崎戦も途中出場。迎えた決勝も田部井がスタメンで、松井がベンチスタートだった。

 試合は20分に田部井の突破からのこぼれをFW木村太哉がつないで、最後はMF末吉塁が鮮やかなループシュートを沈めて岡山が先制。後半16分にも岡山が追加点を決めた直後に松井は森山佳郎監督から呼ばれた。ユニフォーム姿になり、交代を待っていると、田部井が足を抑えてその場に倒れ込んだ。松井が投入された時、田部井は担架に乗せられてピッチの外に。そのまま交代となった。

松井は途中出場でルカオと真っ向勝負をした【写真:徳原隆元】
松井は途中出場でルカオと真っ向勝負をした【写真:徳原隆元】

岡山の地で窺い知れた良きライバル関係

 盟友との戦いはピッチ上でのタッチだけで終わってしまった。だが、松井は後半15分に投入され、仙台DF陣が完全に翻弄されていた191センチのFWルカオに対して真っ向から対峙し、身体を入れてボールを奪い取るシーンもあった。松井の存在が再びチームにリズムをもたらしたが、1点が遠くそのままタイムアップ。2人の明暗は分かれた。

 試合後、2人はロッカーの前でユニフォーム交換した。お互いのユニフォームを大切に持ちながら、彼らは試合をこう振り返った。

「ベンチから見ていたのですが、いい意味で変わっていないなと思いました。嫌な立ち位置にいますし、セカンドボールを拾うし、嫌なタイミングで時間を使ってくるので、本当に厄介な選手だなと思いました。いい選手だと改めて思ったからこそ、やっぱり本音はマッチアップしたかった。なので、涼がグラウンドに倒れているのを見て、交代で入ってから真っ先に駆け寄っていったんです」(松井)

「蓮之は本当にセカンドボールをバンバン拾うし、テンポよくボールを周りに配っていく。ミドルパスもやっぱりうまくて、本当にいい選手だと思いました。でも、この緊張感溢れる舞台でマッチアップすることでこれまでとはまた違った感触とか、気づきを得られるのかなと思って楽しみにしていたのですが……。蓮之には申し訳なかったです」(田部井)

 対戦こそできなかったが、彼らはこれから先、まだまだ戦うチャンスはあるし、同じチームになるチャンスもある。大切なのはその時が来るまで、お互いが切磋琢磨をしてさらなる成長を遂げていることにある。そういう意味では今回のお預けは、彼らにとってはさらに上を目指すためのいい機会になったのではないか。

 いい選手にはいいライバルがいる。そのいいライバルは最高の仲間である。岡山の地での2人の関係を見ていると心からそう思えた。

(FOOTBALL ZONE編集部)



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