運命の昇格PO決勝展望 下剋上で激戦のJ2&富山有利なJ3決戦…見逃せない勝負のポイント【コラム】
昇格プレーオフ決勝の行方は…J2岡山対仙台、J3富山対松本の決戦展望
J1は今週の日曜日(12月8日)に最終節を迎えるが、J2とJ3は土曜日(7日)、ともに昇格に向けたプレーオフ(PO)決勝戦が行われる。J1昇格PO準決勝ではファジアーノ岡山(5位)がモンテディオ山形(4位)、ベガルタ仙台(6位)がV・ファーレン長崎(3位)にアウェーで完勝して、いわば“下剋上”を果たした一方、J2昇格POではカターレ富山(3位)と松本山雅FC(4位)がともにホームで1-1の引き分けながら、90分で決着がつかない場合はリーグ戦で上位の側が勝ち進むというプレーオフ独自のレギュレーションに助けられる形で、ファイナルに勝ち上がる対照的な結果となった。
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J2は長いシーズンを観てきた流れで行くと、特に自動昇格まであと一歩及ばなかった長崎の敗退は心苦しいところもあるが、その長崎をほぼ完全アウェーの環境で、4-1と打ち破った仙台の勢い、勝負強さを評価するべきだろう。育成年代のパイオニアとして、9年間にわたりU-17世代の日本代表を率いた森山佳郎監督は短期決戦の戦い方を心得ている。4-4-2をベースにしながら対戦相手に応じた柔軟な守備と鎌田大夢のシンプルな展開から中島元彦を筆頭に、前線の個性を生かすスタイルが長崎との一発勝負で見事にハマった格好だ。
また派手さはないが、夏にFC町田ゼルビアから加わった奥山政幸が左サイドバックに定着し、相手チームのストロングを封じていることも大きい。まさに長崎戦は対面するマルコス・ギリェルメに仕事をさせず、攻撃を後押ししたことは大きい。ただ、山形に3-0で完勝した岡山はリーグ戦で仙台に2連勝しており、7月に行われたホームゲームも2-0の完勝だった。一般的に4-4-2のシステムは5バックをベースとした3-4-2-1との噛み合わせで、ミスマッチの部分が不利に働くケースも多い。森山監督がそこをどう見極めて、自分たちのアドバンテージに引き込めるか。
岡山のキーマンは幅広くボールに絡み、左足キッカーも担う田部井涼
岡山の木山隆之監督は2020年に仙台を率いた経験があり、準決勝の山形に続いて因縁深い対戦となるが、昇格プレーオフはジェフユナイテッド千葉や山形、さらに2年前の岡山でも悔しい思いをしてきている。当然ながらクラブとしてもJ1昇格を悲願に謳っており、JRの新幹線駅を最寄りとする2万人収容のシティライトスタジアムは、かつてない盛り上がりを見せるだろう。ただ、仙台のサポーターも岡山に大挙して集まるはずだ。
岡山は山形を相手に、勝つしかない状況で挑んだところから、引き分けでも昇格というアドバンテージがあることで、心理面にどう作用するか。キックオフの時点では一旦そのアドバンテージを忘れて、岡山らしいアグレッシブな守備と厚みのある二次攻撃、さらには山形戦でも発揮されたセットプレーの強さを生かしていきたい。中盤では木山監督の申し子でもある藤田息吹が攻守の要として支えるが、同じ中盤から幅広くボールに絡み、左足のキッカーも担う田部井涼がキーマンだ。
アウェーの仙台としてもコンパクトな3ラインがベースにあるだけに、自陣に引きすぎると、岡山に3-4-2-1の強みを生かされて6バックのような形になってしまう。それは森山監督としても恐れていることだろう。相良竜之介のスピードやFWのエロンの突破力などを生かすロングカウンターも1つの武器ではあるが、守備でうまくハメたところから主導権を握り、ボランチの鎌田や右サイドの郷家友太を主な起点に攻撃のチャンスを広げていけるか。どちらも流れの中では守備の堅さ、粘り強さを見せてくることが想定できるなかで、セットプレーが勝負のポイントになるかもしれない。
リーグ順位で劣る松本は勝利必須、ハードワークに優れる富山を攻略できるか
J3は富山も松本も、準決勝では厳しい試合を何とか引き分けに持ち込んだ形だが、一発勝負であると同時に、このシーズンの総決算でもあるので、接戦になるほどベンチメンバーも重要になってくる。リーグ戦の対戦成績は1勝1敗だが、8月に行われた富山ホームの試合は3-0で富山が勝利している。ただ、小田切道治監督はシーズン終盤に5連勝してきた松本に関して、当時とは違うチームのようになっていることを認めながら「リーグ終盤でも、堅い守備からの攻撃という持ち味があるチームなので。そこに対して自分たちが、しっかりと戦える準備をしていきたい」と語る。
松本の霜田正浩監督も、富山の強みが全員でのハードワークにあると認識しており、戦い方も「堅い守備から攻撃という形で、とてもバランスの取れたソリッドな良いチームを監督さんが作り上げてきた」と語る。その富山に対して「最大限のリスペクトをしていますし、順位も上ですから、僕らはチャレンジャーの気持ちで戦いたい」という霜田監督だが、J2昇格に向けたクラブや地元サポーターの思いというものを力に変えていきたいと考えているようだ。
やはり準決勝の福島ユナイテッド戦と違い、少なくとも1点は取らないと昇格の可能性が見えてこないが、富山の強みは相手の攻撃を裏返した鋭いカウンターにあることも、松本サイドとしては十分に理解しているはず。シーズン終盤から導入した3-4-2-1をベースに、守備では左右ウイングバックの樋口大輝と佐相壱明が富山のサイドアタッカーをうまく捕まえにいけるか。特にGK大内一生も要注意選手として警戒する左サイドバックの安光将作による攻撃参加をできるだけ限定していきたい。
またボランチの攻防も大きな見どころだ。富山は大卒生え抜きの末木裕也と筑波大出身で、ルーキーながら中盤の主力を担う瀬良俊太というコンビが予想される。一方の松本はジュビロ磐田から加入し、実質的な戦術リーダーに君臨する山本康祐と技巧派で機動力もある安永玲央という異色のコンビがチームの躍進を支えている。彼らが安定した守備から前向きにボールを握って、10番を背負うチャンスメイカーの菊井悠介などアタッカー陣を生かしていければ、十分に得点チャンスはあるだろう。どちらにしても終盤は総力戦になってくるなかで、富山は得点が必要な状況になればドリブルの突破力がある高橋馨希、松本は決定力と勝負強さがあるFW浅川隼人あたりがキーマンになってくるかもしれない。
プロの試合なので戦術面や戦略面の見どころは多いが、松本の霜田監督が「最後の試合なので、お互いに勝ちたい気持ちは同じだと思います。そこで何が勝負を分けるか。そこは本当に昇格したい、勝ちたい、そういう気持ちがどのぐらい相手を上回れるかで、そこでどのぐらい足が出せるか」と語るとおり、色々な思いを背負って戦うシーズン最終章で、J2もJ3もしっかりと見届けたい。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。