契約は「何も言えない」 恩師の監督業引退「95%」…最終戦で愛弟子が示したい集大成【コラム】

札幌の駒井善成【写真:徳原隆元】
札幌の駒井善成【写真:徳原隆元】

ペトロヴィッチ監督の愛弟子である駒井にフォーカス

 9年間におよんだ恩師との長き旅路が、まもなく終わりを告げる。今シーズン限りで北海道コンサドーレ札幌を退任する、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督の愛弟子となるMF駒井善成が無念の思いを明かした。

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 敵地・エディオンピスースウイング広島で、優勝を争うサンフレッチェ広島に1-5で大敗した12月1日のJ1リーグ第37節後の取材エリア。前日に広島へ移動する機内で、他会場の結果で9シーズンぶり5度目のJ2降格が決まっていた状況も踏まえながら、開幕から苦戦を強いられてきた今シーズンを駒井が振り返った。

「僕が9年間もお世話になってきた監督だし、いい形で終えられるのが一番良かったのに、最後は札幌がうまくいかないときの監督にさせてしまった、というところにすごく責任を感じている」

 ミシャの愛称で親しまれるペトロヴィッチ監督がいなければ、今の自分はなかったとまで言い切れる。出会いは2016シーズンの浦和レッズ。高速ドリブルを武器とする「古都のメッシ」として、J2の京都サンガF.C.で存在感を放っていた駒井の獲得を、浦和のフロントへ進言したのはペトロヴィッチ監督だった。

 もっとも、ペトロヴィッチ監督は2017年夏に浦和を解任される。ほぼ同時期に出場機会を失い、2017シーズンを終えようとしていた駒井を再び輝かせてくれたのも、札幌の指揮官に就任したペトロヴィッチ監督だった。2018年に期限付き移籍で加入し、翌シーズンからは完全移籍に移行して今季に至っている。

 札幌での1年目は、難解とされる「ミシャ流」のスタイルを新天地のチームメイトたちに分かりやすく伝える伝道師の役割も果たした。そして、ピッチ上では京都時代から主戦場としてきたサイドアタッカーに加えて、シャドーやボランチなど複数のポジションを務めるユーティリティープレイヤーとして活躍してきた。

 ピッチ上で見える視界を大きく変えてくれたのも、浦和時代に「駒井の適正はボランチにある」と公言し、実際に公式戦でもボランチで起用したペトロヴィッチ監督だった。その慧眼にはいまも感謝している。

「僕は若い時から札幌の1年目、26歳まではサイドでずっとドリブルばかりしているような選手でした。その僕が中のポジションを任されるなど、ミシャ(ペトロヴィッチ監督の愛称)監督のサッカーに触れて、3人目の動きなども含めて選手としての幅をすごく広げてもらった。いまでも感謝しかありません」

 広島戦ではボランチで先発フル出場した。キャプテンのMF荒野拓馬がベンチスタートだったなかで、左腕に赤いキャプテンマークも巻いた。今シーズンの札幌は副キャプテンを置いていない。そのなかで荒野、札幌ひと筋で17年目のMF宮澤裕樹に続く存在であるからこそ、ゲームキャプテンを担ったと自覚している。

「宮沢選手が出ていたら、おそらく宮沢選手(が巻いた)だと思います。ただ、現状で試合に出ている選手の中から、僕がゲームキャプテンを任された以上は責任感をもって、変なプレーはしたくないと思ってきました。それが上手くできたのかと言われれば、今シーズンはそうじゃない試合がたくさんあったのが残念です」

 同点に追い付いた前半42分のFW鈴木武蔵のゴールは、駒井の“ひらめき”が起点になった。

 自らが右サイドをえぐり、深い位置から放ったクロスがはね返されて獲得したスローイン。右ウイングバックの近藤友喜が右タッチラインへ近づいていったなかで、急きょスロワーを担ったのは駒井だった。

「正直、スローインは誰が投げてもいいので。あの時は僕がサイドに流れてクロスを上げた後のプレーだったので、別にウイングバックが投げなくても、早く始められたらその方がいいと思って」

 駒井からMF浅野雄也、後方のMF馬場晴也とパスがテンポよくつながる間に、駒井の近くにいた近藤がペナルティーエリア右のポケットを突く。次の瞬間、馬場の縦パスを受けた近藤が放ったグラウンダーのパスに、ニアへ詰めた鈴木が左足を合わせた。近藤を動かす連動した動きに関しては、駒井も「狙い通り。練習から常にやっている形でした」と、ミシャ流の攻撃的なサッカーが広島守備陣の牙城に風穴を開けたと胸を張った。

監督業引退も示唆…駒井が最終節で背負う思い「サポーターに応えてあげたい」

 しかし、直後に味方を狙ったMF東俊希の直接フリーキック(FK)がそのままゴールインして勝ち越され、さらに後半には3ゴールを積み重ねられた。試合後の公式会見。ペトロヴィッチ監督は「私自身も95%、監督としてのキャリアを終えるかもしれない」と、監督そのものからの引退を考えていると明かした。

 広島を皮切りに浦和、札幌で指揮を執り、今シーズンで実に19年目の日本在籍を誇る67歳のペトロヴィッチ監督にとって、ホームのプレミストドームに柏レイソルを迎える8日の最終節は重要な意味を持つ一戦になるかもしれない。駒井も「お世話になったミシャ監督を、何とか勝利で送り出してあげたい」と力を込める。

「試合後にサポーターのコールリーダーの方から『自分たちは北海道コンサドーレ札幌というクラブが好きだから応援している』と熱い言葉をいただいたのは本当に胸に響きました。だからこそ、強いチームという結果を介してサポーターに応えてあげたい。今シーズンはなかなかそういう姿を見せられず、すごく申し訳ない気持ちでいっぱいですけど、最後にホームで試合があるので、そういう思いをしっかりと背負ってピッチに立ちたい」

 32歳の駒井にとっても、柏との最終節は特別な一戦となるかもしれない。札幌との契約が今シーズンをもって満了を迎える駒井は、自身の去就や来シーズン以降について、広島戦後にこう語っている。

「(クラブ側とは)まだ何も話していませんし、札幌との契約がどうなるのかを含めて、現時点では何も言えない、という状況です。家族もいるので、いろいろな選択肢をもって来シーズンを考えたい」

 今シーズンの駒井はここまでリーグ戦で35試合に出場。3091分のプレー時間は札幌のフィールドプレイヤーで最長に達し、6ゴールも鈴木、MF青木亮太と並ぶトップにランクされている。まだまだできる、という個人的な思いを封印している駒井は、ミシャの愛弟子として「攻守両面でアグレッシブなサッカーを、最後まで悔いなくやりきって終えたい」と、恩師のサッカーの集大成を見せるプレーだけに集中している。

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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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