街中で向けられるスマホ、浴びた罵声 インドネシアの熱狂…日本人選手が味わった“恐怖”【インタビュー】
神戸などでプレーした松村亮はインドネシアで3年目
日本代表が北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選を戦い、現地のサッカー熱の高さにも注目が集まった東南アジアの国・インドネシア。この国のリーグでは、多くの日本人選手がプレーしている。かつてヴィッセル神戸などで活躍し、プルシジャ・ジャカルタでの2年目を迎えたMF松村亮もその1人だ。タイでのプレーも含め、東南アジアでの生活が6年目となった松村が、一時ストレスに苦しめられた経験を激白した。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)
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「今はジャカルタでストレスフリーなんですけど、インドネシアでの1年目は本当にキツかった」
2019年からタイで4年間プレーしていた松村は、22年にインドネシア1部のペルシス・ソロへ期限付き移籍で加入した。23年にプルシジャ・ジャカルタに移籍するまで、ソロでは1年間プレーした。
「ソロはめちゃくちゃ田舎で小さい町だったんですよ。みなさんもインドネシアのサッカー熱の高さって実感しつつあると思うんですけど、古豪でサポーターも熱かった。だからこそ、町中どこへ行っても顔を指されるんですよね」
ソロはジャカルタから飛行機で約1時間のところにある歴史ある町だ。そこで松村は初めてインドネシアという国を知った。加入当時、チームはリーグ最下位に沈んでいた。熱狂的なサポーターは町中で松村を見かけると、スマートフォンのカメラを向け、敗戦後であれば、容赦なく罵声を浴びせかけてきた。
「全員僕のことを知っていて、コーヒーを飲もうと思ったら周りにいるみんなに写真を撮られる。負けたら『お前のせいだ!』という感じで言われたりして、外を歩くことも怖くて日常がなくなった。練習環境も酷かったです」
決まった練習設備はなく、毎日、毎日、変わる練習場に自身の運転で向かう。ロッカー室はなく、着替えも車中。ただ、日本でJ3の経験もあった松村は「これも経験かと思えた」と捉えた。ただ、食事面だけはどうにもならず、苦しめられた、という。
「ストレスが溜まりすぎて、精神的に苦しかったです」
「和食屋はなくて(インドネシアはイスラム教のため)豚肉もない。ジャカルタは食べられるんですけど……。試合が終わって家に帰ると、(ソロでは)もうレストランはどこもやっていなくて、マクドナルドか24時間やっているお弁当屋さん、あとチェーン店のうどん屋さんが1つあるだけでした」
本拠地は代表戦でも使用されることもある約4万人収容のスタジアムで、毎試合のように満員になった。サッカーには集中できるが、大声援を受けたあとに、お弁当を買って1人で帰ってそれを食べる……。徐々に、その生活にストレスを感じるようになっていった。
「その町で一番いいと言われるマンションに住んでいたんですけど、シャワーはちょっとしか出なかったですね。もう『ここから早く抜け出したい……』としか思えなくて。半年も経てば、ストレスが溜まりすぎて、精神的に苦しかったです。ここから脱出するためにサッカーで結果を出すしかなかった」
この年、28試合に出場して11ゴール6アシストをマークした。この活躍をドイツ1部ボルシア・ドルトムントやハンブルガーSVなどを率いたドイツ人のトーマス・ドル監督に認められ、現在のプルシジャ・ジャカルタへとステップアップを果たすことができた
「本当に食事が大変だった。サッカーに集中出来かねないぐらいでした。その街にあったチェーン店のうどん屋さん、今、トラウマになってしまって食べられなくなっちゃったんです」
ジャカルタでは快適な生活を送れている。高級住宅街のマンション、運転手付きの車など待遇は良く、食事にも困らない。「鬱(うつ)になりかけていた自分から見たらドリームを掴んだな、と。トーマス・ドル監督が見つけてくれて本当に感謝しています」。インドネシアの前にプレーしていたタイでも地方クラブからのし上がった。自らの手でチャンスを手繰り寄せる強い気持ち。30歳になった松村の逞しさは増すばかりだ。
[プロフィール]
松村亮(まつむら・りょう)/1994年6月15日生まれ、京都府宇治市出身。ヴィッセル神戸のアカデミー出身で、プリンスリーグで大活躍し、2013年にトップ昇格。翌14年には現役引退した吉田孝行氏の背番号「17」を受け継いだ。栃木SC、徳島ヴォルティス、AC長野パルセイロと渡り歩いて、2019年にタイ2部ラヨーンFCへ加入。同チェンマイFC、同1部BGパトゥム・ユナイテッド、ポリス・テロでプレーして2022年はインドネシア1部ペルシス・ソロ。翌年に現在のプルシジャ・ジャカルタへ東南アジアでは“超異例”となる移籍金が発生した完全移籍を遂げた。
(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)