元日本代表がなぜ鵜飼観覧船の船頭に? 決め手は“地域愛”「大好きになって家も建てた」【インタビュー】

鵜飼観覧船の船頭もこなす柏木陽介氏【写真:(C) FC GIFU】
鵜飼観覧船の船頭もこなす柏木陽介氏【写真:(C) FC GIFU】

1年で20回は出た船頭をやり始めた理由や経緯を明かした

 元日本代表MF柏木陽介氏は昨季限りで現役を引退。現役を終えたJ3のFC岐阜のクラブアンバサダーを務める傍ら、鵜飼観覧船の船頭として働いた。なぜ鵜飼観覧船の船頭を選んだのか、理由やそこに至るまでの経緯を明かした。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小西優介/全4回の4回目)

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 柏木氏はサンフレッチェ広島ユースから2006年にトップチームに昇格し、プロキャリアをスタートさせた。広島(06~09年)、浦和レッズ(10~21年)、FC岐阜(21~23年)でプレー。J1通算392試合56得点、J2通算31試合4得点、J3通算61試合1得点を記録し、日本代表としても11試合に出場している。

 岐阜所属3季目の昨シーズンに現役を引退したなか、今季より岐阜のクラブアンバサダーを務めている。さらに、今年5月には鵜飼観覧船の船頭としてデビューしたことを自身のSNSで発表し、メディアを沸かせた。

「岐阜が大好きになって家も建てた。何か盛り上げられることがないか」

 そう考えた時に知人のアドバイスもあって浮かんだのが「鵜飼」だったという。鵜飼観覧船の船頭を始める元プロサッカー選手はおそらく初のことであるが、「元々FC岐阜のアンバサダーをやっていて、今後、岐阜県を盛り上げるなかで、その1つとしてやるなら鵜飼かなと、チームも岐阜県も盛り上げたいと思っていた」と理由を明かした。

「1日船頭だったら誰でもできるけど、船頭は技術がいるのでちゃんと研修を受けた。船頭も年配の方が増えてきていて、『若い人がほしい、増やしたい』ということも聞いていた。コロナが終わってお客さんが増えてほしいという思いで船頭をやった。自分が思っていたより数十倍も取り上げてもらってびっくりしている」と、生半可な気持ちではなく覚悟を持って取り組んでいると、当時の思いを振り返りつつ語っている。

 また、「みんなの反応は良かった」と家族や友人などから連絡が来たと話し、「『マジでお前いいことやっているな』という声が9割、いや10割だったかな。そこまでやるのは覚悟があるので、それも踏まえていいなと思ってもらえて、岐阜の人に一番喜んでもらえた。ただやっただけで満足してはいけない。これを継続することが大事で、来年もやりたいと思っている。周りにも岐阜の人にも感謝されて盛り上げられた。大変な部分もあるけど、貢献という部分ではできたかな」と、周りの反応や県民からポジティブに声を掛けられるようになったという。

2023年で引退を決断した【写真:(C) FC GIFU】
2023年で引退を決断した【写真:(C) FC GIFU】

「口だけでやらないのはダメ」

 柏木氏は引退後に鵜飼観覧船の船頭を始め、クラブアンバサダーの仕事も務めながらで激務のなか「本気度が重要だと感じた」と言及し、「本気でやると周りも応援してくれるし、口だけでやらないのはダメかな。俺も堂々とスラスラ言葉にして話せるし、本当に行動するのが大事。そこに向き合う、フォーカスしている自信もあるので、全力で鵜飼に向き合えている」と本気度が伝わる面持ちで語った。

「岐阜に家も建てているので、地方に根付く、岐阜を盛り上げるという意味で、今後も岐阜からアスリートなり、芸能人なり、スーパースターが生まれるようなきっかけを作りたい。さまざまなスポーツの一流選手に触れ、この体験があったから変わったと思ってもらえるようなことをやっていきたいと思う」と今後についても触れた。

 行動へ移し、実際に今年20回ほど船頭を務めて観光客や地元を盛り上げて、クラブのアンバサダーの仕事としても順調にキャリアを築いているが、「やっぱり大変なことはたくさんある」と明かす。

「プロサッカー選手は自分たちであまり準備せず、コーチやマネージャーとかがやってくれる。船頭は1から自分で船を掃除したり準備をする。洗って、拭いて、シーツ引いて、座布団用意してとか、専門用語を覚えるのとか、ロープを取る身体の向きとか覚えるのが大変だった。1年で覚えられたのは半分ぐらいで、先輩たちに教えてもらいながらしかできなったただ、たくさんの笑顔が見れて良かった」と、たくさんの苦労がありつつもやりがいを感じていると話す。

 クラブアンバサダーと鵜飼と二足の草鞋を履く柏木氏に将来について聞くと、「言葉で伝えるのは難しい」と少し考えた。そして「岐阜の子供が世界に羽ばたいていってほしい。サッカーに限らず、いろんなスポーツの選手に協力してもらい、無料体験を実施して、違うスポーツにも触れてみてほしい。実際にやってみて、今後はこれやってみようとか、実際にプロの道へ行けたとか、いろんな選択肢を増やしていける環境を作っていきたい。岐阜から世界へ羽ばたく人が1人でも増えてくれればいいなと。何より岐阜がJ1に昇格してくれればいいですかね。ただまだ時間がかかるし、チームが強くなるのは簡単ではない。個の部分を伸ばすのは子供からでもできるので、こういうことを含めてやれることを増やしていきたいと思います」と語り、柏木氏は自身とFC岐阜、そして岐阜県の未来までをも見据えている。

[プロフィール]
柏木陽介(かしわぎ・ようすけ)/1987年12月15日生まれ、兵庫県出身。サンフレッチェ広島ユース―広島―浦和レッズ―FC岐阜。恩師のペトロヴィッチ監督に見出され、代表まで駆け上がった。現在は古巣の岐阜でクラブアンバサーを務める傍ら、地域貢献を目指し鵜飼観覧船の船頭も務める。J1通算392試合56得点、J2通算31試合4得点、J3通算61試合1得点。日本代表通算11試合に出場。

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