平均観客数7000人から2万超へ大躍進…J1で驚きの変貌、ファン魅了した“ワクワク感”【コラム】
未開発の選手たちを次々に世に出し、大きな成果を生んでいる東京V
盤石の強さを見せるチームが見当たらない今年のJ1は、終盤に入り完全に三つ巴の様相を呈している。連覇を狙うヴィッセル神戸やサンフレッチェ広島にはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)による過密日程が向かい風になり、初挑戦のFC町田ゼルビアにはさすがに重圧がかかった。
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もちろん良くも悪くも、今年最も話題を集めたのは町田だった。だが同じタイミングでJ1への復帰を果たした東京ヴェルディの変貌ぶりも、町田に勝るとも劣らないインパクトを残した。
第36節で首位の神戸と対戦した東京Vは、開始7分にあっさりと先制を許した。しかしその後は59%のポゼッション率が示すように、しっかりとゲームを支配し終了間際に相手のオウンゴールを誘って引き分けに持ち込んだ。実は5月に行われた同カードのアウェー戦で、東京Vは1-0で勝利を収めていた。しかし城福浩監督は、今回の引き分けに5月の3ポイント以上の手応えを感じたという。
「アウェー戦では勝てたけれども、相手の猛攻を受けてゴール前にクギづけにされるシーンもあり、もう1度やったら勝てるのか疑問だった。しかし今日は『もう1度やらせてほしい』と言いたい。それくらいチームの成長を感じられた」
東京Vの躍進が光るのは、ほかの上位クラブとは異質の試みを続けているからだ。もちろん財政事情も関係しているが、レンタルも含めてまだステイタスを築き上げていない選手たちを育てて戦っている。平均年齢25歳前後のスタメンは、欧州に比べれば若くはないが、それでも伝統的に未開発の選手たちを次々に世に出し、今年はチームとしても大きな成果を生んだ。
今、世界の有望な選手たちは、イングランドとスペインを頂点とする欧州を目指している。もっともトップリーグを追いかける国々には、微妙にスタンスの違いがある。
例えば、昨年の欧州選手権でベスト8のトルコや、2004年に同大会を制したギリシャなどは、即戦力を集めて結果を重視する傾向が強く、代表選手でも自国リーグでプレーする選手が少なくない。昨年欧州選手権で登録されたトルコ代表は26人中半数が、欧州制覇を達成した時のギリシャは22人の登録選手のうち14人が、それぞれ自国リーグでプレーしていた。実際にこうした国々では実績が重視されるので日本人選手への需要も高く、ベテランの域に入った長友佑都や香川真司などがトルコでプレーしてきた。
しかしトルコやギリシャはむしろ少数派で、それ以外の多くの国のクラブは、若い選手たちをステップアップさせてトップリーグへと輩出していくことに重きを置いている。歴史的にも才能の宝庫であり続けるアヤックスの最新のリーグ戦(11月10日、トゥベンテ戦)のスタメン平均は26.5歳だが、フィールドプレイヤーに絞れば22.8歳。29歳以上の3人のベテランと、18歳~22歳の若手で構成されており、中堅と呼べそうなのは24歳でクロアチア代表ヨシップ・シュタロの1人。
かつて南野拓実(ASモナコ)が在籍したザルツブルクも、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)直近のトゥベンテ戦のスタメン平均が22.45歳。欧州の頂点を争う舞台に、9か国からの有望株を送り出している。こうした選手たちは、おそらく数年以内にチームを去っていくはずだが、これだけスカウト網が広域なら穴を埋めるタレントの発掘に困ることはない。
現在J1で優勝を争う3強は、いずれもトルコやギリシャと同じ姿勢で強化を進めている。第36節を振り返れば、首位に立つ神戸のベンチ入り18選手の平均が29歳。2位広島もピッチに立った16人の平均が29歳を超え、3位につける町田もベンチ入り平均は28歳だった。多くの若い選手たちが欧州進出を目指す現状を見れば、これが現実的には最適解なのかもしれないが、欧州に比べれば異常なほどの高齢化が顕著だ。
それだけに東京Vが見せた儚さと裏返しのワクワク感が、多くのファンを惹き付けたのかもしれない。昨年J2で戦った東京Vの平均観客動員数は7982人。今年は2万人を超えている。選手やチームの成長度合いを追い越すほどに、ファンも急激に膨れ上がった。
(加部 究 / Kiwamu Kabe)
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。