名門校で実績劣り…サッカー部は「強化指定ではない」 苦節経て頭角、流れ変えた“名電一筋”

2度目の選手権に臨む愛工大名電高校【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
2度目の選手権に臨む愛工大名電高校【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

愛工大名電サッカー部が5年ぶり2回目の選手権出場を手に

 愛工大名電高校(愛知)と聞いて真っ先に思いつくのは野球だろう。工藤公康、山﨑武司、イチローなど錚々たるメンバーをOBに並べ、今年も石見颯真が福岡ソフトバンクホークスに5位指名されている。卓球の超名門でもあり、今年のパリ五輪に篠塚大登が出場している。このほかバスケットボール、バレーボール、ゴルフ、相撲、フェンシングなど多くの部活が全国レベルのスポーツ名門校だ。そこに今、サッカー部が地道な強化を続けて、同校における強豪部活動へ食い込もうとしている。

 第103回全国高校サッカー選手権大会愛知県予選。3回戦で名門・刈谷に2-2からPK戦で勝利を収めると、準決勝では県内ナンバーワンの実力を誇る東邦に3-0で快勝し、決勝では大同大大同を3-2で振り切って5年ぶり2回目の選手権出場を手にした。

「他の運動部が常に前を走ってくれているので、僕らはそこについていくことで成長できる環境だと思います」

 こう語るのはチームを率いる宮口典久監督。中京大を卒業後の2000年に愛工大名電にやってきてコーチに就任してから、附属中学のサッカー部の立ち上げと指導を経て、2013年に高校サッカー部の監督に就任した、文字どおり『名電一筋』の指揮官だ。

 サッカー部は宮口監督がコーチ時代の2002年度にインターハイに初出場したが、そこから全国舞台から遠ざかっていた。しかし、宮口監督が指揮を執ってから「明るく、前向きに」をモットーにピッチ外では上下関係なく、サッカー部のために率先して活動する意識と、サッカー面では勝利を目指して常に本気で取り組むというチーム方針を明確に打ち出して強化を続けた結果、監督就任7年目の2019年度に選手権初出場。そこからは毎年のように県ベスト4に食い込むようになり、ついに今年、3度目の全国の扉をこじ開けた。

 前述した部活動と異なり、サッカー部は強化指定部活動ではない。よくスポーツの名門校では部活ごとの明確なヒエラルキーが存在する。下のほうの部活は肩身の狭い思いをしたり、プレッシャーをかけられたりする話を聞く。宮口監督もそれを感じているのかと話を聞くと、全く逆の答えが返って来た。

「肩身が狭いとか、劣等感はないですね。確かにサッカー部は強化指定部活ではないですが、野球部の倉野光生監督、名電中卓球部の真田浩二監督、高校の今枝一郎監督、フェンシング部の冨田弘樹監督、バレーボール部の北川祐介監督など、我々の周りには常に日本のトップや世界を目指している指導者、その指導の下、全力で頑張っている選手たちがいます。この環境はむしろプラスで、彼らの目線の高さに刺激を受けることで、サッカー部の選手たちも意識を高く持ってくれます。私自身もそれぞれの部活動の祝勝会にいつも呼ばれて、みんなで分け隔てなく意見交換をしたり、交流をしたりすることで学びと気づきをたくさんもらっていますから」

周りの部活動と切磋琢磨する日々を過ごす【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
周りの部活動と切磋琢磨する日々を過ごす【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

サッカー部の周りには百戦錬磨の仲間たち…「本当にリスペクトしている」

 先月も卓球部のインターハイ8連覇を祝う集まりが行われ、今後、サッカー部の選手権出場を祝う集まりも行われるという。部活ごとの垣根がなく、ともに上を目指すファミリーとしての風通しの良さがあるからこそ、サッカー部も周りに引き上げられるように力をつけつつも、結果を出すことに焦ったり、囚われたりすることなく、名電らしいサッカーをコツコツと積み上げることができた。

「県予選も準決勝の最大の山場を最高の形で突破できたからこそ、逆に決勝は精神的に難しくて、私も胃をキリキリさせていました。でも、決勝の前に今枝監督から『1位だったら1位の実力。2位だったら2位の実力。やるだけやって出た結果を受け止めるしかないんだから、やる前からいろいろ考えたって仕方がないよ。もちろん、その気持ちは分かるよ。俺もキリキリする時があるから。でもそっちに持っていかれないように切り替えてやっているから』という言葉を頂いて、凄く心が軽くなりました。冨田監督や北川監督をはじめ、いろいろな指導者の人たちも声をかけてくれて、強い心を持って決勝に臨むことができた。本当にファミリーだなと感じました」

 サッカー部の周りには百戦錬磨の仲間たちがいる。それは年齢も競技も超える。チームのエースであるMF蒲地壮汰もこう口にする。

「野球部の選手たちはスポーツ科で、僕らサッカー部は普通科(今年から数人がスポーツ科に)なのでクラスは違うのですが、1年の時に校舎の同じ階だったので、交流がありました。野球部はオーラがあるのですが、彼らはいつもフランクに接してくれて、僕ら普通の部活の生徒が肩身の狭い思いをすることはありませんでした。選手権予選にはバレーボール部やチアリーティング部とともに応援に来てくれましたし、出場を決めてからは廊下とかで会うと『すごかったね』と言ってくれます。本当にリスペクトしているし、僕らも絶対に負けられない気持ちです」

 選手権では過去2回で挙げられなかった全国初勝利が絶対目標となるが、チームとしてはベスト8という明確な目標を掲げている。

「周りの目線と意識の高さを感じれば感じるほど、目標も『これくらいでいいんじゃないか』となってはいけない。日常の貴重な時間をサッカーに注いでいるからこそ、上を本気で目指さないともったいない。全員でこの目標を本気で狙っていきます」(宮口監督)

 スポーツの名門・愛工大名電ここにあり。これまで多くの部活動が全国に示して来たことをサッカー部も示せるように。名電ファミリーが一体となって2度目の冬に臨む。

(FOOTBALL ZONE編集部)



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