海外→J復帰で違和感「日本は遅れている」…腑に落ちた欧州流の指導、選手が「理解できる」【インタビュー】

今夏ベルギーからJリーグに復帰をした三竿健斗【写真:Getty Images】
今夏ベルギーからJリーグに復帰をした三竿健斗【写真:Getty Images】

日本とヨーロッパサッカーの差は?…欧州から帰還したMF三竿健斗の見解

 鹿島アントラーズの元日本代表MF三竿健斗は、ポルトガルのサンタ・クララに2023年1月から半年間、ベルギー1部OHルーベンには24年7月から1年間在籍した。日本とヨーロッパサッカーの両面を肌で味わった三竿の目に、レベルの差はどう映っているのか。1年半の欧州挑戦で得た経験値に基づいた見解を訊いた。(取材・文=河合 拓/全5回の4回目)

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 28歳の三竿は、日本代表として国際Aマッチ6試合に出場歴がある。2018年11月の招集を最後に代表メンバーから遠ざかっている状況で、2022年のカタールW杯で16強進出を果たし、2026年北中米W杯のアジア最終予選でも快進撃を見せている現在の日本代表をどのように見ているのか。

「選手たちの所属クラブを見れば、どれだけチーム力が高いかは分かりますよね。みんな欧州トップリーグ、トップクラブで揉まれていますし、アジア予選なんかも大勝しているとおり、海外で活躍しているメリットが出ているように感じます。世界トップクラスの監督の下でやっているだけあって、戦術眼だったり、戦術の引き出しを代表に還元していると思う。日頃のレベルの高さが出ている代表なんじゃないかなって思います」

 今夏にベルギー1部ルーベンから鹿島への復帰が発表された際、三竿はオンラインインタビューで「引き出しが増えた」と欧州挑戦のメリットを語っていた。所属したポルトガル1部サンタ・クララ、ルーベンは決してビッグクラブではなく、監督交代も頻発(サンタ・クララでは3回、ルーベンでは2回)した。チームを率いていた監督も決して、世界に名を轟かせるような名将というわけではなかったが、欧州の監督の指導は日本の指導者と何が違うのか。

 三竿は「欧州の指導内容は、より細かい気がしますし、日本はその点で言えば遅れているなっていうふうには思います」と指摘し、例として挙げたのは「いいポジションを取る」という言葉だった。

「日本では『いいポジションを取る』っていうのが、わりと出てくる単語なんですけど、その良いポジションというのがどこなのか。相手のプレスのき方、プレスの枚数によって、『ここが空くから、ここを使え』というふうに特にベルギーでは指導されていました。その積み重ねによって『この時は、ここが空く』ということを選手が理解して、咄嗟に考えながらやれていると思います。どこにフォーカスして、どうそれを落とし込むかが日本は少し遅れているなと思います」

 抽象的な説明ではなく、具体的に状況ごとに応じてどこが良いポジションなのかを細かく指導する。選手にとっても具体的にどこに動けばいいかは分かりやすく、チームとしてもズレを修正しやすい。また、日々の練習からそれを積み重ねていれば、個人戦術として、それが選手たちにも自然と身についていくだろう。

「例えば相手が3枚の時は『こういうふうにプレスに行け』って言われるのですが、それもセンターバックに左利きがいるか、いないかによって変わってくるんです。同じ3バックと対戦する時も『この3バックは左利きのセンターバックがいるから、外切りでいけ』なのか『この3バックは全員右利きだから、左足で持たせて外に追い込め』なのか。選手のボールの持ち方によってもプレスが変わるんですけど、それを落としこまれ続けると、試合のなかでもパッとその状況になれば『こういけばハマる』というのが頭に入ります。なので、それの繰り返しだと思います」

三竿健斗が実感した欧州と日本の違いとは【写真:Getty Images】
三竿健斗が実感した欧州と日本の違いとは【写真:Getty Images】

Jリーグ自体のレベルは「高いと思います」

 幼少時代にカナダに住んでいたことから、渡欧してからも語学面では困ることのなかった三竿は、監督たちからの指導をしっかり頭に入れることができていた。欧州にいた期間は1年半と決して長くはないが、そこで得られた知識というのは、決して少なくなかったはずだ。

 さらに「そういう視点でサッカーのゲームを見るようになったので、どんどん最新のプレスの行き方だったり、逆にプレスの剥がし方だったりが、どういうやり方で行われているのか、今までとは違う視点でサッカーが見られるようになったので、今は面白いですね」と、自身の中に基準ができたことで、自然と知識がアップデートできているとも語った。

 こうした理論をより多くの選手が持ち、自然と実践できるようになることが、日本サッカーのレベルアップにもつながることは間違いない。指導者にも、そうした選手の育成が求められるだろう。三竿は、あるJリーグのクラブが“欧州基準”を実践できていたのではないか、と見解を口にする。

「それをできていたのが、数年前の川崎フロンターレだと思うんです。その選手たちが今、日本代表でも活躍しています。こういう視点でサッカーを見られると、どんどん成長していくのかなっていうふうに思います」

 Jリーグ自体のレベルについては「高いと思います。やっぱり全員が走れますし、スピード感もあるサッカーだと思うので。ヨーロッパの方がもう少しスペースがあるなと思う(内田)篤人さんや酒井高徳選手(ヴィッセル神戸)が『Jリーグとヨーロッパのサッカーを比べることはできない』って言っていたのをインタビューで見ましたが、それは本当にその通りだなと思います。Jリーグのやり方をヨーロッパでやっても多分できないし、ヨーロッパのやり方をJリーグでやろうとしても難しいのかなっていうのは感じますね」と語る。

「『日本とヨーロッパで何が違う?』って言われたら、ゴールに向かうスピード感は違うような気はします。ヨーロッパは前を向いて持ったらゴールを目掛けて仕掛けて、シュートなりクロスなりに行くんですけど、日本はわりと相手陣地に1回入ったらボールを持って、時間をかけながら攻めることが多い。日本はサイドに3、4人かけて攻める。でも、ヨーロッパだと、サイドバックとサイドハーフの2人だけでサイドは攻略するイメージがあるので、手数少なくゴールに迫るのがヨーロッパかなと感じますね。どちらが正解というものではないと思うので『JリーグはJリーグ仕様』『ヨーロッパはヨーロッパ仕様』でやるしかないのかなと思います」

 ヨーロッパで行われているから絶対に正しいのではなく、それが日本に合うか合わないかの取捨も重要になってくる。それでもどんな環境にあれ、必要なことがあると三竿は断言する。

「結局は個の能力を上げるしかないんだと思います。ヨーロッパに行ったら、組織もありますけど、結局は1対1のバトルっていうところが多いので」

 個の力が上がっていけば、現在はサイドの攻略に3人をかけるJリーグでも、将来的には2人で攻略することが主流になるかもしれない。指導者の指導内容の具体化、そして選手の個の力のレベルアップ。飛躍的な発展を遂げている日本サッカーのさらなる進化の鍵は、この2点にあるのかもしれない。

[プロフィール]
三竿健斗(みさお・けんと)/1996年4月16日生まれ、東京都出身。東京ヴェルディ―鹿島アントラーズ―サンタ・クララ(ポルトガル)―OHルーベン(ベルギー)。中盤から最終ラインのポジションをそつなくこなすユーティリティ性が持ち味。キャプテンシーも備え、鹿島ではクラブ史上最年少キャプテンにも抜擢された。

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