エリート街道から転落…大学で襲われた劣等感 後輩台頭→立場失い「自分は要らないんじゃないか」
筑波大CB福井啓太、プロ内定掴む過程で経た紆余曲折
大学サッカー界の名門・筑波大のキャプテンマークを巻くCB(センターバック)福井啓太(大宮アルディージャ加入内定)は、最終ラインの中央でチームに対して激しい檄と相手に対してハードマークを見せる。関東学生サッカーリーグ1部最終戦、駒澤大学のロングボールに対して空中戦や球際でバチバチのバトルを見せると、終盤にシュートブロックの際には大きな声で吠えた。
「ゼロへ抑える意欲は強かった。これまで(完封を逃す)1失点にずっと苦しんできたので、CBとしてゼロはマストでやらないといけないところでした」
1-0の完封勝利を収めたあと、福井はこう口にした。彼が言うように、この勝利を持ってしてもチームは優勝に届かず、2位に終わった。あの失点を防げていたら……勝負にたらればはないが、リーグ終盤で明治大と優勝争いの一騎打ちになった時に得失点差が筑波大に大きくのし掛かったのも事実だった。
「失点は守備陣の責任。結果としてその積み重ねが自分たちを苦しめた。まだインカレもあるので、CBとしてもっと自覚を持ってやっていきたいです」
大学最後の戦いに向けて気を引き締める中で、少し彼自身の話に踏み込んでみると、真剣な表情で本音を語ってくれた。
「昨年あたりからいろいろ考えることがありました。昨年、諏訪間幸成(横浜F・マリノス内定)とCBコンビを組んでいたのですが、リーグを代表するような素晴らしいCBが横にいて頼もしかったと思う反面、僕のほうが1つ上の学年でありながら後輩に頼ってばかりではダメだと。『自分がもっともっとやらないといけないのに』という不甲斐ない想いを、隣で感じながらプレーしていました。これはほかの人に言うことはなかったのですが、自分の中で『俺、注目されているのかな』という想いもずっとありました」
大宮U-18から進学し、1年生の頃からずっとレギュラーとして活躍してきたエリートだった。しかし、ハイレベルなチームメイトのプレーや、チーム内競争の中で徐々に自分自身に対する疑問を抱くようになった。そして、今年5月に左足首の靭帯を負傷し、1か月半戦線離脱している間に2年生CBの小川遼也が一気に頭角を現し、プロが注目する存在となっていった。
「離脱中にピッチの外からどんどん良くなっていくチームを見ていて、『自分は要らないんじゃないか』と思うこともありました」
だが、ここで福井は弱い自分を受け入れることから逃げなかった。「僕は周りからはそんなに抱え込まないようなキャラだと思われているのですが、実際はちょっと考え込んだり、1人で抱え込んでしまったりするタイプなんです」と理解したうえで、自分のあり方、チームにおける自分の立ち位置を考え続けた。
「諏訪間も小川も本当にリスペクトしているからこそ、リスペクトしすぎて自分に対してネガティブになるのではなく、『俺も引っ張っていくんだ』という強い気持ちを持って取り組むようになりました」
もう一度初心に帰って出直そうとした矢先に諏訪間が負傷離脱。彼の思いも背負って戦うことを覚悟に加えた。迷いが消え、チームのために走り出したことで福井のプレーはより情熱が込められたものになった。身体を張るべきところと冷静に駆け引きでいなすところを使い分けながら、力強いプレーでチームを牽引した。優勝には届かなかったが、関東第2代表としてインカレ出場権は掴み取った。
「インカレでは何がなんでも日本一を獲りたい。そのうえで小学生の頃からお世話になっていたアルディージャという大好きなクラブに戻って、厳しい競争の中で成長をして、一緒にJ1に戻すというミッションを達成したいと思っています」
やるべき責務をきちんと果たして、次のステージへ。筑波大の闘将は周りをリスペクトしながら自らを奮い立たせてチームの先頭に立つ。
(FOOTBALL ZONE編集部)