57歳カズ、今季無得点に自嘲「あんなもん」…J3昇格へJFL鈴鹿“本気”「出せばいいではない」
57歳FW三浦知良、JFL鈴鹿でのシーズンが終了
JFLアトレチコ鈴鹿のカズこと57歳FW三浦知良が、プロ39年目のシーズンを終えた。JFLの今季最終戦が11月24日に各地で行われ、鈴鹿はホームのAGF鈴鹿陸上競技場でFCマルヤス岡崎と対戦。カズは1-1で迎えた後半27分、交代で4試合ぶりの出場を果たした。終了間際には絶好機を逃し、直接狙ったFK(フリーキック)も不発で2季連続ノーゴール。それでも、チームがJ3昇格を目指すプロ40年目の来季に向けて意欲を口にした。
後半アディショナルタイム、相手最終ラインの裏に飛び出してフリーになったカズに絶好機が訪れた。後方斜め左からのライナー性のパスを左足でシュート。しっかりと合わせることができずに、ボールはゴール左へ。最終戦のスタンドを埋めた1660人の歓声はため息に変わった。
勝利を引き寄せるゴールを逃したカズは、ピッチを叩いて悔しがった。公式戦最後のゴールは22年、鈴鹿ポイントゲッターズ時代のJFL最終戦。絶妙なポジショニングからクロスを頭で合わせたものだった。この日は難しいボールだったとはいえ、7月に加入してから最大のチャンス。それを逃し「今の僕の実力では、あんなもんでしょう」と自嘲気味に言った。
今季は苦しいシーズンだった。今年5月まで1年半プレーしたポルトガル2部のオリベイレンセでは出場機会が限られた。7月に加入した鈴鹿ではスタメン1試合を含めて12試合に出場。低迷するチームを浮上させるゴールを期待されたが、攻撃面ではほとんど見せ場を作れなかった。
「いいプレーもあったけれど、もう1つ乗り切れなかった」と鈴鹿でのシーズンを振り返り「連係の部分で、もう少しいろいろな選手と関わりながらプレーしたかった」。自身もチームも際立った結果を出すことができず「そんなに甘くないですね」と振り返った。
ゴールに対する思いに変化もあった。得点こそなかったが、前線から相手にプレッシャーをかけて守備に貢献したり、試合のリズムを落ち着かせたりするなど豊富な経験を生かしたプレーはあった。「(周囲から)ゴールを求められるのは幸せなことですが、サッカーにはいろいろある。FWといえども求められることは多い。自分がどうこうではなく、まずはチームが勝つことが大事」と話した。
来場した元日本代表の前園真聖氏は、カズのプレーを見て「やっぱり、しびれますね」。絶好機を生かせなかったことは「あのボールは難しい」と話し「あそこにいることが、素晴らしい。動き出しの良さは変わらないですね」。さらに「一番はボールが収まること。カズさんが絡むと、チームのリズムが落ち着く。そこがすごいですよ」と解説した。
58歳で迎えるプロ40年目。「特にテーマとかはない。ただ、1試合1試合いい準備をすることを考える」と話したが、チームは大きなテーマを持ってシーズンを迎えることになる。
試合後のセレモニーで、斉藤浩史社長は「来季はJリーグを目指す戦いになります」と宣言した。前身の鈴鹿ポイントゲッターズ時代に失効したJ3ライセンスの再取得をクラブの大きな目標に掲げた。スタジアムなどまだまだ課題はあるが、Jリーグ入りは昨年クラブの経営を引き継いだ斉藤社長の当初からの目標でもある。
ライセンス取得には地域の強力なサポートが必須。「まずはライセンスが取れるかどうか。それには、チームがどう地域に関われるか。選手個人の力は小さいので」とカズはクラブに期待した。とはいえ、カズ自身も地域密着に大きな力になる。22日には三重県庁に一見勝之知事を表敬訪問。そこには、当然のようにカズも同席した。
プロ40年目の来季へ意欲「できる限り選手は続けたい」
もちろん、チームも変わる。来季上位進出に向けて補強も必要。外国人選手やカズは来季も残る見込みだが、他の選手も含めてチームは再構築される。「補強は必要になる。強化と相談しながら、来季上位に入れるようなチーム作りを進める」と斉藤社長は話した。
さらに、監督も変わる。7月にカズ加入とともに就任した朴康造監督はセレモニーで「私は契約満了で退団します。来季はみなさんとともにスタンドで応援します」とクラブの発表より前にサポーターに異例の挨拶。「チームを浮上させられなかったことは悔しい」と話した。
それでも、京都パープルサンガ(現・京都サンガF.C.)、ヴィッセル神戸時代チームメイトのカズとの戦いを振り返り「コミュニケーションをとりながら、起用してきた」。選手たちへの「カズ効果」について「トレーニングに取り組むカズさんの姿を見て、選手たちの意識が変わった。カズさんがいるからこそ、国立競技場やカンセキスタジアムで試合ができた。選手へもいい影響を与えた」と話した。
来季の監督については「候補を絞り込んでいる段階」と斉藤社長。チームの「顔」でJ3昇格への「切り札」にもなるカズをどう使うかがカギになるため「カズさんの価値を理解し、その価値を高めていける人に監督をやってもらう」と話した。
決してカズ個人のためだけではない。「ただ試合に出せばいいということではない。勝利のために効果的な使い方があるはず。カズさんの価値が上がれば、クラブの価値も上がる」と斉藤社長。22日には三重県庁に一見勝之知事を訪問。もちろん、カズも同席した。同日には鈴鹿市内の小学校でカズを先生にした特別授業も実施。「地域に密着できるかはクラブの力。個人の力は小さい」とカズは話したが、地域との関係を構築するためにその存在は大きい。
今季は加入から10試合連続交代出場。11試合目の先月26日のソニー仙台戦で初先発したが、その直後の練習で左足ふくらはぎを痛めて離脱した。3試合を欠場したが怪我も癒え「最後の試合に出られてよかった」と話しながらも、1-1で引き分けたことで「たくさんのサポーターに勝利を届けることができなかった」と悔しがった。ただ、その目は来季に向いている。
「情熱を持ってピッチに立てるか」とライセンス取得で昇格を争う戦いになることを願った。そして「準備が大切」と強調した。「できる限り選手は続けたい」とはいうものの、引退の時期は確実に近づく。それでも、カズは1試合1試合、準備してプレーして、を繰り返す。プロ40年目、来月予定する個人キャンプから戦いは始まる。
(荻島弘一/ Hirokazu Ogishima)
荻島弘一
おぎしま・ひろかず/1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者として五輪競技を担当。サッカーは日本リーグ時代からJリーグ発足、日本代表などを取材する。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰。20年に同新聞社を退社。