日本代表の1年半後は「バラ色ではない」 “6戦22発”アジア無双も…W杯で苦境の可能性【コラム】
W杯最終予選で圧倒的な強さ、日本代表の2024年を総括
2024年7月以降、日本代表を率いる森保一監督はその温厚そうな表情とはまるで違った強気の一面を見せ続けた。
年初のカタール・アジアカップでの敗戦で暗雲が立ち込めたかに見えた日本代表だったが、3月以降はすっかり立ち直る。そして9月からスタートしたアジア最終予選で、日本は6月に試した3バックでこれまでにない快進撃をみせた。
森保監督は最終予選から3バックにするプランをずっと秘めていて、それを実行したのだろうか。そうは思えない。最終予選初戦、9月5日の中国戦後にあるスタッフが3バックか4バックか「迷っていた」と語っていたのだ。そして結果的に森保監督は3バックを選択している。
中国戦では日本の4バックを予想していた中国が戸惑い、後半3バック(5バック)に変更してきた。それまでの中国代表は試合終盤にしか3バックを試しておらず完成度は低かったが、もしも相手が3バックにしてきたなら、日本が逆に4バックに変更してまた混乱させるという手もあっただろう。だが、森保監督はそのまま押し切った。
9月11日のバーレーン戦は前半37分、上田がゴールを挙げて先制したものの、ひたすらカウンターを狙う相手に対して警戒心を忘れてはならないゲームだった。だが後半もそのまま押し切ることにして、後半だけで再び上田、加えて守田が2点、さらに小川が1点を奪って5-0の勝利となったのだ。
10月10日のアウェー・サウジアラビア戦は、9月の2試合で3バックだったサウジアラビアが4バックに変更して日本を混乱させようとしてきた。試合直後に森保監督は相手が4バックだとピッチ内に伝達している。
サウジアラビアが日本の両翼を警戒し、4バックにしてスペースを消してきたのは明らかだった。それだけでも森保監督にはロベルト・マンチーニ監督(当時)がいろいろ罠を仕掛けてきたことは分かったはずだ。しかし森保監督はミラーゲームにせず、3バックのままで対抗する。そして前半14分に鎌田大地、後半36分に小川がゴールを挙げ、過去勝利がなかったジッダのスタジアムでの勝利を収めたのである。
10月15日のホーム・オーストラリア戦も相手の監督が交代し、まだ出方がハッキリしないなか、日本は3バックでスタートした。かつての森保監督の方針なら、慎重にスタートするため4バックに戻していたかもしれない。だが3バックのまま試合に臨み、お互いにオウンゴールで1点ずつを挙げるという内容ながら、引き分けで終わっている。
11月15日のアウェー・インドネシア戦は厄介な相手だった。三笘薫を誘い込むような形を作っておき、その背後を狙ってきた。3バックにしていることで両翼の守備が難しくなるところを突いてくる。シン・テヨン監督の狙いは的中し、前半の早い時間に決定機を作られてしまった。それでも森保監督は慌てず騒がずそのままの形を保ったことで、前半のうちにオウンゴールと南野の得点でリードし、後半も守田と菅原由勢が加点して4-0とした。
そして11月19日のアウェー・中国戦。ピッチの横幅を狭くするなどの工作はあったが、日本は戦い方を変えなかった。慎重にゲームを進めて、前半のうちにCK(コーナーキック)から小川と板倉滉がヘディングシュートを決めてリードする。後半立ち上がり4分に失点を喫したがその5分後の同9分、中国を挫けさせる3点目を再び小川が奪って3-1と危なげなく勝利を収めた。
不動コンビの後継者が不在…W杯本番までに台頭者は現れるか
日本はこの9月から11月までの6戦で5勝1分とし、2位に9ポイント差をつけてC組首位を独走。森保監督は微調整を加えながらではあったものの、戦術的に大きな変更点を加えることなく戦い抜いた。それこそ森保監督の腹の内が温厚そうな表面とは違ってとても強気だという証拠だろう。そして「得点力不足」「セットプレーからの得点の欠如」という、これまで課題とされた部分を解決して見せたのだった。
また最終予選からはターンオーバーを少なくする方針の下、出場選手が絞り込まれた、11月は谷口彰悟の欠場で守備ラインにいろいろ手を加えたが、ある程度固定したメンバーで戦ったおかげで連係は増している。チームの成熟度は高まったと言えるだろう。
ただし、今見えている未来のすべてがバラ色というわけではない。
日本が想定しなければいけないのは、ワールドカップ(W杯)本大会でどう戦うかということだ。今はアジアの国を相手にしているので、日本が隙を見せても相手にそこを突いてくる力がないだけ。中盤でボールを奪われた時の対応などは実際に強豪国と対戦してみなければどれくらい対応できるかは分からない。
日本が3バックの形も見せたことで本大会では十分な対策を練られてくるだろう。今は3バックで押し込めているが、逆に押し込まれる事態も経験しておかなければならないはずだ。
さらに2022年カタールW杯の時も多くの選手が負傷に悩まされていた。選手たちが強度の高いリーグで戦っている限り、2026年も同じように出場できない選手が出てくるはず。そのためには今、厚いように見える選手層をもう一段階増やしておかなければ、そこに穴が出来てしまう。特に遠藤航と守田英正という不動のコンビはどちらが欠けても苦しい。このポジションに誰が台頭してくるかは来年の課題だ。
2025年に予定されている日本代表の試合は、現在のところ最終予選の4試合だけ。まずは3月20日のバーレーン戦で勝利して本大会出場を決めたあとに、戦術のバリエーションと選手層を増やしつつ、チームをさらに成熟させなければいけないだろう。
その意味で、日本代表にとって来年一番大切なのは、どんな強豪とマッチメイクできるかになる。だがここで問題がある。これまで対戦した相手の監督を次々に追い込んでしまった森保監督と、誰が対戦してくれるのだろうか……。
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。