日本代表に敗れても…知らぬ顔のW杯優勝国 「普通に勝つ」不気味な落ち着き【コラム】
UEFAネーションズリーグで好成績のスペイン代表、ぶれずにやり続ける強み
UEFAネーションズリーグのグループリーグが終了。最上位カテゴリーであるグループAの1~4の中で唯一5勝(1分)しているのがスペイン代表だ。ドイツ、ポルトガルも無敗だが4勝2分。ユーロ2024に優勝したスペインは、ネーションズリーグの過去3大会でも優勝1回、準優勝1回と最高の戦績を残している。
スイスとの最終戦はシモン、カルバハル、ロドリ、ヤマルなど主力を欠いていたが、3-2で勝利。プレースタイルもいつもどおり。どこが相手でどんな状況でも、同じスペインであり続けるのが凄いところで、なんだか不気味ですらある。
フィールドを広く使ったビルドアップはのびのびとしていて、どの選手も滅多に慌てない。冷静で淡々としたパスワークは不変。普通にスペインのサッカーをやって普通に勝ってしまう。
このスペインのスタイルは現代サッカーの模範になっている。例えばマンチェスター・シティ、スポルティング、バイエルン・ミュンヘン、パリ・サンジェルマンといった他国のリーグチャンピオンのプレースタイルはほぼスペイン方式だ。
ただ、よく知られているようにスペインのスタイルはオランダからの輸入である。それもそんなに古い話でもない。
スペインリーグには多くのスター選手がプレーしていたが、代表に関してはこれといったプレースタイルはなかった。レアル・マドリードのアタックラインをほぼそのまま使ったこともあれば、バスク式の質実剛健の時もあった。現在のプレースタイルはユーロ2008で優勝した時に確定している。ルイス・アラゴネス監督が率い、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、ダビド・シルバ、セスク・ファブレガスがいた技巧的なパスワークのチームだった。
その元を辿れば、ヨハン・クライフ監督のFCバルセロナにある。クライフの就任は1988年なので、クライフが持ち込んだオランダ方式がスペイン代表に移植されるまでに20年間を要したことになる。ただ、一度定着するや、もうそこから変わることはなかった。洗練された論理的なサッカーは16年を経て、もはや本家のオランダよりもスペインのサッカーとして広く認識されている。
今ではドイツ、イタリア、イングランドの強豪国もスペイン化していて、ビルドアップやハイプレスなど、スペインの影響を受けていない国はないと言っていいと思う。
ただ、やはりオリジナルの強みなのか(本当はオリジナルではないが)、スペインは他国とはひと味違う。彼らのサッカーをやるためにどんな選手が必要で、どんな技術が不可欠なのか、育成段階から浸透しているせいか迷いがなく、戦術と選手のミスマッチもない。誰が監督になっても同じサッカーになることがはっきりしている。
2010年ワールドカップに初優勝したあと、オランダに大敗しようが日本に敗れようが、スペインはずっと彼らのサッカーをぶれずにやり続け、いつの間にか知らぬ顔で再浮上している。
現在のドイツ代表やドイツ人のフリック監督のバルセロナのような、ある種のエキセントリックな感じはまるでない。上手いのは間違いないけれども、今では何も驚くようなことのないスペインのサッカーを普通にやって、普通に勝っている。その泰然自若としたありようはかえって不気味なほどである。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。