試合中断で整列…感動の光景は「愛されたからこそ」 限られた選手だけに贈られる敬意【見解】
【専門家の目:栗原勇蔵】長谷川アーリアジャスールが花道で見送られた
J3のガイナーレ鳥取に所属する元日本代表MF長谷川アーリアジャスールは、今シーズン限りで現役を引退する。2007年に横浜F・マリノスの下部組織からトップチームに昇格した長谷川は、18年間のキャリアで国内外9クラブを渡り歩き、36歳で現役を退く決断をした。(取材・構成=FOOTBAL ZONE編集部)
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今シーズンのホーム最終戦となった11月17日の第37節ツエーゲン金沢戦に先発起用された長谷川は、後半26分にベンチに退いた。その際には両チームの選手たちが花道を作り、スタジアム全体からの大きな拍手とチャントで送り出された。このシーンの動画がJリーグ公式「X」で紹介され、35万回を超える再生回数を数えている。
自身も横浜FMの下部組織出身だった元日本代表DF栗原勇蔵氏は、「アーリアも(横浜FM)ユース(出身)だったので、直属というか、被ってはいないですけど、自分と同じ道を辿ってきた選手。本当に感慨深い」と、プロ入りまで自身と同じキャリアを辿ったMFが、最後のホームゲームを終えたシーンを振り返って目を細めた。
2019年にスパイクを脱いでいた栗原氏は「自分も5年前に引退して、アーリアは5個下なので、同い年まで(プロで)やった。高卒で18年、一緒の長さまでやって、36歳なのですが、身体的にもどれだけ大変だったかも分かります」と、長きにわたって現役生活を過ごしたことを労い、「J1から海外にも行って、最後はJ3の鳥取で引退。代表にも入って、キャリアとしては素晴らしいものがあります。鳥取あたりに行くとそういう経歴の選手は少なくなるなかで、そういうキャリアがある選手が声を出したりすることで、説得力もあると思います」と、チームに与えていた影響について言及した。
そして、「あの映像を見てすごく選手みんなに慕われているなという感じで、なんか嬉しかった。アーリアの顔も『もうやりきった』という感じの顔もしていたし、サッカー選手としてやりたくてもやれない、クビになって終わりという選手が多い中で、18年やれたことは素晴らしいことです。そんな中でああいう風にセレモニーとかまでやってもらえることは、すごく幸せなこと。自分もそうでしたけど、一生の思い出になるし、本当に良かったんじゃないかなと思います。すごくコミュニケーション能力が高い人間なので、本当にサポーターとかにもすごく愛されたのかなと思います」と、移籍する先々で愛された人の良さを語った。
長谷川は2012年に加入したFC東京で、ランコ・ポポヴィッチ氏(前鹿島監督)と出会い、チームの中心選手となった。ここから大きく飛躍していったが、その後、ポポヴィッチ監督がセレッソ大阪、スペインのレアル・サラゴサで指揮を執ることになった時にも、長谷川を呼び寄せてチームの中心に据えた。
栗原氏は「アーリアにとってポポヴィッチ監督と出会えたことで、サッカー選手としての幅もすごく広がったと思うし、人間的にもサッカー選手としてもすごく成長したと思う」と言い、「その中でいろんな経験して、サポーターにも愛された選手だからこそ、ああいう形で送り出されたのかなと思いますね」と、限られた選手しか経験できないであろうホームゲームでのラストシーンについて語った。
栗原勇蔵
くりはら・ゆうぞう/1983年生まれ、神奈川県出身。横浜F・マリノスの下部組織で育ち、2002年にトップ昇格。元日本代表DF松田直樹、同DF中澤佑二の下でセンターバックとしての能力を磨くと、プロ5年目の06年から出場機会を増やし最終ラインに欠かせない選手へと成長した。日本代表としても活躍し、20試合3得点を記録。横浜FM一筋で18シーズンを過ごし、19年限りで現役を引退した。現在は横浜FMの「クラブシップ・キャプテン」として活動している。