日本を変貌させた”10か月前の敗戦“ 解決に指揮官の“秘策”…命運分けたどん底と冨安健洋の発言

アジア杯の敗退から精神的な成長を見せた日本代表【写真:Getty Images】
アジア杯の敗退から精神的な成長を見せた日本代表【写真:Getty Images】

今年の敗戦はアジア杯の2敗のみ

 森保一監督率いる日本代表は11月19日、北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選の第6節アウェー中国戦で3-1の勝利を飾り、2024年の最終戦を締めくくった。1月1日の親善試合タイ戦から始まり、16戦(北朝鮮戦の不戦勝1試合含む)。13勝1分2敗と大きく飛躍を遂げたチームのターニングポイントを探る。今年の森保ジャパンを語るうえで避けられないのは2敗を喫したアジアカップのイラン戦とイラク戦。この敗戦はチームを精神的に大きく成長させた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)

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 涙をぬぐった真っ赤な目で取材エリアに現れたMF堂安律。今年1月、2月に行われたアジア杯の準々決勝イラン戦、森保ジャパンは1-2で敗れ、まさかのベスト8で敗退を喫した。決して油断していたわけではない、だが多少の“驕り”はあった。選手たちは悔しさを隠しきれず、それでも試合後に何がいけなかったのか分析した。

 そして、このあと森保ジャパンのテーマとなる発言が飛び出る。DF冨安健洋が発したものだ。

「なんて言うんですかね。悪い時の日本が出て、それを変えようとする選手が何人いるかというところで、正直、熱量を感じられなかった。物足りなさというのを感じました。ピッチ上で。本当に勝ちに執着するべき時にできないというのは、それが日常なのか分からないですけど、本当に勝ちへの執着心が足りなかったですし、良くないときに声を出すだったり、プレーで、ディフェンスだったら、ガッツリボールを奪って雰囲気を変えるだったり、攻撃陣であったら球際だったり、一個ドリブルで仕掛けて雰囲気を変えるだったり……というところ。本当にこのチームにはないところですし、良くない日本のまま、そのまま変わることができずに終わってしまった。それは今回だけじゃなく。それは僕自身も含めてもっともっとやらないといけないなとは思っています」

「熱量」「勝利への執念」――。この2つが森保ジャパンを変えるための課題として浮き彫りになった。もちろん、戦術的な積み上げや修正点はあるが、まずはチームとして気持ちを1つに向けることが必要だった。

 森保監督は選手たちが欧州でプレーしているがゆえに日常で「日本」と接することが少ないことを懸念していた。“日本代表”を実感するのは招集されてから。だが、欧州で生活しているなかでも日本代表としての意識を高めることで、必然と代表への「熱量」が高まってくる。それには密なコミュニケーションが必要。現地スタッフには怪我人も含めてさらに連携を強化してもらい、指揮官も欧州へ足を運んだ。

 そしてもう1つ、最大のターニングポイントと言えるのはDF長友佑都の招集。アジア杯の敗戦を受けて、以前から画策していた長友の代表復帰を監督が決断。3月の北朝鮮戦で今は38歳になったベテランを選出した。長友の働きは言わずもがな。初招集の選手には絶対に声をかけて、パス回しの練習に名指しで迎え入れる。練習後のランニングで並走して話を聞く。森保ジャパンの中心である東京五輪世代は20代半ばになったが、精神的なコントロールが完璧なわけではない。出場機会がなく悔しさを抱える選手に対してメンタルケアを施しながら、自身は全く手を抜かず背中で見せ続けた。

「僕は魂を分け与えているので。言葉も必要ないし、自分の姿を見てもらえれば、自ずと魂の中に熱いものが込み上げてくると、僕も体現したいと思って自分自身戦っているので。日本のソウルであり続けたいと持っています。ソウルって魂のことですよ(笑)」

 本人がそう話すように、長友が注入したのが「熱量」であり、「勝利への執念」。アジア杯で露呈した課題を先頭で走り続けることでチームのテコ入れを行った。

 11月のインドネシア戦でDF菅原由勢がゴールを決めた。出番のなかった菅原は「尊敬しかない」と長友の存在に助けられたと話していた。

 アジア杯以降、選手は3月、6月、9月、10月、11月とどのシリーズでも「敗戦を忘れない」「絶対に油断しない」と言い続けてきた。チームの精神面はこの1年で大きく成長した。これは全試合、すべての練習を現場で取材し、最も実感したこと。「熱量」が足りなかった森保ジャパンの姿は今もうない。そう言い切れる段階まで上り詰めたのだ。

(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)



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