高1でエース10番抜擢…中学から有望株「自信掴みました」 強豪部活サッカー“6年のメリット”
中高一貫校の帝京大可児、6年間の指導で生まれるメリット
中高一貫教育。サッカーの育成の世界でも中学、高校を3年間ずつぶつ切りに指導するのではなく、同じコンセプトの下で6年間のスパンの中で選手の成長をサポートするというシステムはすでに確立されている。青森山田(青森)、静岡学園(静岡)、日章学園(宮崎)、神村学園(鹿児島)と多くの強豪校が中高一貫を敷くなかで、6年連続11度目の選手権出場を決めた岐阜県の帝京大可児高校も中学とともに全国屈指の強豪と知られている。
「6年間選手の成長を見られることは意義あることだと思います。その時間でサッカーのスタイルの成熟もそうですし、選手個々が長期ビジョンを持ちながら目標設定がしやすいと思います」
チームを指揮する仲井正剛監督は中高一貫について、人とボールが動くパスとドリブルを主体にしたサッカーを掲げる帝京大可児のスタイルを6年かけて積み重ねるメリットを口にした。
実際に今年のチームの絶対的な主軸であるFW加藤隆成は帝京大可児中学の出身。中学時代からチームの柱として君臨した加藤は、中学3年生の段階でプリンスリーグ東海に出場するなど、当時、鈴木淳之介(湘南ベルマーレ)、三品直哉(明治大学)といった豪華メンバーを揃えたトップチームのメンバーと練習や試合を積み重ねた。
「淳之介さんたちはレベルがかなり高かったので、最初はプレースピードや強度、技術の差に衝撃を受けましたが、中3の段階でそれを経験して、実際にプリンス東海の四日市中央工業戦でゴールを決めた時には大きな自信を掴みましたし、中高一貫じゃないと経験できないことだなと感じました」
自分が目指すべき場所、そしてプレー基準を明確に理解したことで、より自覚と努力の仕方を意識してプレーするようになった。だからこそ、高校に進学してからは1年生から10番を託され、常に全国の上を目指して日常を過ごし、今年はキャプテンとして帝京大可児の象徴的な存在となっている。
さらに加藤は「人間的にも成長できる」と口にする。それは高校進学時に多くの優秀なタレントがほかの中学やクラブチームから入ってくることで、再び始まる激しい競争の中で磨かれるという。
「まずは能力の高い外進生(高校から入学の生徒)に負けないことと、中学からいる僕らは仲井監督の言っていることや掲げるサッカーを理解しているからこそ、外進生に伝えていかないといけない。僕は発信面では苦手だったのですが、それをやらないといけないと感じたからこそ、トライして、発言できるようになりましたし、逆に発言することで責任感や自分を見つめ直す機会にもなって、プレー面だけではなく人間的にも磨くことができたと思います」
先輩たちの姿を見て大きな刺激に…
中学から来た「内進生」が必ずレギュラーを取れる環境ではない。実際に今年のレギュラー11人の中で内進生は加藤とCB(センターバック)鷹見豪希、GK水野稜の3人のみ。ベンチはMF樽井蓮太朗と中村一輝の2人のみ。数字だけ見ると狭き門だが、それでも大きな財産があると守備の要となっている鷹見も口にする。
「外進生はうまい選手がたくさん入ってくるのですが、6年間やってきた僕らが軸になっていかないといけないという気持ちは常に持っています。そのうえで大事なのは中学から積み重ねてきたことをチームのために発揮することと、外進生をしっかりと受け入れて一緒に切磋琢磨していく度量。この2つを持つことで成長につながっていると思います」
試合の流れを変えるスーパーサブとしてチームの重要なアクセントとなっている中村は、中学時代はレギュラーとして全国中学サッカー大会やリーグ戦でプレーするも、高校に入ってからは激しい競争の中でなかなかスタメンが掴み切れない時間が続いている。だが、モチベーションは落ちるどころか日に日に増しているという。
「外進生が手強いことは分かっていましたが、高校進学時にまた新たな気持ちを抱くことができました。中学時代と同じ顔ぶればかりという環境より、『もう一度、頑張らないといけない』と奮い立ってリスタートを切るような気持ちで挑めるのも中高一貫のメリットだと思います。中学時代より努力しないといけないですし、なにより高校サッカーで目指すところが明確にあったので、向上心に加えて、高校でもチームに貢献したいという気持ちは強い。だからこそ、選手権予選決勝は出場できませんでしたが、その分、全国では必ずという気持ちはあります」
11月9日に行われた第103回全国高校サッカー選手権大会岐阜県予選決勝のスタンドには、帝京大可児中の選手たちも全員が熱戦に目を向けていた。
「試合はよく見ますし、平日には練習試合をしたり、一緒に練習したりできる。中学の時から高校で同じポジションで出ている先輩を間近で見ることができて、プレーをしっかりと見て、研究して、真似をしたり、そのうえで自分の武器は何かを考えたりしていました」
こう中村が語ったように、先輩たちの姿を見て大きな刺激と学び、そして憧れを抱く選手たちがいる限り、6年間のスパンでの育成の中で大きく成長する選手を生み出していく。その輪廻がチームを、ひいては日本サッカーの可能性を広げていく。帝京大可児からその息吹を感じ取ることができた。
(FOOTBALL ZONE編集部)