マンCに完勝「誤解を招く」 マンU新監督が懸念する過度の期待…”勝てば正義”に釘を刺す訳【コラム】
マンU監督就任のアモリム監督、スポルティング最終試合でマンC撃破に垣間見える矜持
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)リーグフェーズ第4節でジャイアントキリングが起きた。スポルティングが4-1でマンチェスター・シティを破っている。
ルベン・アモリム監督は、11月11日からマンチェスター・ユナイテッドの新監督に就任すると報じられており、最後にスポルティングに大きな勝利をもたらしたわけだ。
アモリム監督は「あの結果は誤解を招く」と話している。堅守速攻でシティを破ったのだが、この監督がやりたいのはシティのようなサッカーなのだ。スポルティングはポルトガルのマンチェスター・シティである。
ボールを保持して着実に前進するプレースタイル。シティと同じ街のライバルであるマンチェスター・ユナイテッドが新監督に求めているのは、前任のエリック・テン・ハフ監督で成し遂げられなかったシティのようなプレーなのだろう。だからアモリムを招聘した。ただ、シティに4-1で勝利したことで、アモリムの別の顔を発見したはずだ。
シティ戦のスポルティングは5-4-1のブロックで守備的な戦い方だった。5バックを崩さず、その前に守田英正とモルテン・ヒュルマンドの2ボランチ、さらに前には1トップ+2シャドーの3人。5バックの前の5人は五角形を形成するように中央を固めていた。
前半4分にフィル・フォーデンに決められてシティに先制され、その後も際どいシュートを打たれ続けたが、その後は持ちこたえた。前半38分にはエースのヴィクトル・ギェケレシュがカウンターから裏へ抜け出して同点に追い付く。
後半からはシティの中盤の構成に合わせてダイヤモンド型のブロックに修正し、後半1分と後半4分の連続ゴールであっという間に3-1と逆転。後半35分にはギェケレシュがこの試合3点目、2本目のPKを決めて4-1とした。
スポルティングは本来こうしたプレーはしていない。相手のシティのようなスタイルである。しかし、相手が同タイプの格上ならば、こうした戦い方で勝てることも証明した。これはシティの後塵を拝してきたユナイテッドからすると心強い限りだが、アモリムが「誤解を招く」と言っているのは、間違った期待をかけられたくないからだ。
今回のスポルティングは、2005-06シーズンのアーセナルと似ている。CL決勝でFCバルセロナに敗れたが、アーセナルは初のファイナル進出だった。ティエリ・アンリを1トップに置くカウンターで勝ち上がっている。ただ、アーセン・ベンゲル監督に率いられたアーセナルは攻撃的なチームとして知られていた。CLの勝ち上がり方は特殊であって、ベンゲル監督はCLでは「仕事」をしたのだ。あまりやりたくはなかったけれども、勝ち上がるために仕方なくやった。
アモリム監督も、シティ相手ではほかにやりようもなかった。それで結果を出せたのは運もあったが、手腕のある監督だからだ。相手が自分たちのやりたいことをするチームだからこそ、的確な対策を打てた。
けれどもそれは本意ではなく、そこを期待されても困る。「誤解を招く」というアモリム監督の発言は、あらかじめ釘を刺しておきたかったからだろう。勝てば正義だとは思わないタイプの監督なのだ。おそらくユナイテッドよりシティのファンのほうが、それを理解してくれそうなのは皮肉ではあるが。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。